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    @harusamera_men

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    「台湾まぜそばを食べる降志」
    題名通り台湾まぜそばを食べる降志です。
    2人は付き合っていません。
    注)飯テロです🍜🍜

    #降志
    would-be

    台湾まぜそばを食べる降志それは突然だった。
    「ガッツリした刺激的なものが食べたいわ」
    深夜1時。
    金髪の美男子と茶髪の美女は夜を過ごしていた。
    といっても疚しいことをしているわけではない。2人は日本を守る国家公務員とその協力者。今は捜査の真っ只中だ。
    「いいのか?こんな深夜に」
    「今何徹目だと思ってるの?最後に何か食べたのがいつかも思い出せないし、昼も夜もないわよ。誰かさんのせいで」
    「悪いな。凶悪犯は待ってくれないんでね」
    2人とも目を見張るほど美しいのに、その目の下には濃い隈が出来ている。雑談をしているが、目はパソコンのモニターに釘付けで、指は忙しなくカタカタとキーボードを叩く。
    茶髪の美女-宮野志保-は、深いため息をついた。
    そして、白くしなやかな指で、Enterキーを押した。
    「…この解析。終わるのに40分ぐらい掛かるの。そろそろまともなものを食べに行きましょうよ」
    ひっくり返りそうなほど大きな伸びをする。
    「…そうだな。僕も集中力が切れてきた。少し休憩しよう」
    金髪の美男子-降谷零-も大きな欠伸をした。
    「この時間にやっている店は…」
    「何か食べられればどこでもいいわよ」
    「君はガッツリした刺激的なものが食べたいんだろ?」
    「それはそうだけど」
    「ピッタリの店があるぞ」
    降谷はニヤリと笑った。
    「着替えてくるわ」
    「いや、そのままで大丈夫だ。すぐ行こう」
    宮野はその言葉に首を傾げた。白衣のままで、とはどういうことか。
    だがとにかく腹ぺこで、今すぐにでも何か食べたい気持ちが強かっため、降谷に引っ張られるままご自慢のRX-7に乗り込んだ。



    「着いたよ」
    「ここは?」
    「君の願いを叶えてくれる店」
    2人が到着したのは、理系学部で有名な大学のすぐ側にある麺屋だった。
    「いらっしゃいませー!」
    日付が変わって1時間以上経つのに、店員は威勢よく出迎えてくれた。
    「2名様ですね!こちらへどうぞー!」
    なるほど、中には2人と同じように目の下に隈を飼い、白衣を着た学生がちらほらいる。
    「もうすぐ卒論発表があるから、夜遅くまで研究を続ける学生も結構いるんだ」
    「だから、白衣姿の方が浮かないってわけね」
    「そういうこと。さぁ、君は何を食べるかい?」
    降谷がメニューを手に取り、テーブルに広げた。
    この店の2大メニューは豚骨ラーメンと台湾まぜそばのようだ。手書きのポップが写真の周りをカラフルに彩っている。
    「台湾まぜそば…。初めて見たわ」
    「最近流行ってるんだよ。ボリュームがあるし、今の君にぴったりだと思って」
    写真の台湾まぜそばの、ゴロゴロした挽肉や、ツヤツヤの生卵が宮野の胃を刺激する。
    とても美味しそうだ。想像するだけで生唾が湧いてくる。
    いや、店に入った時から、独特の油の匂いに腹が叫んでいた。
    「台湾まぜそば並盛、2辛かしら」
    ゴクリと唾を飲み込んで、平然を装う。
    ありがたいことに、ジュージューと何かを焼く音と店内の音楽で、さっきから悲鳴を上げている腹の音はかき消されている。
    降谷はにっこりと笑った。
    「なら僕は3辛メガ台湾まぜそば、餃子セットで」
    降谷が手を上げて注文を伝える。
    「そんなに食べるの?」
    「君のおかげで、明日は大仕事になりそうだからね。今のうちにスタミナをつけておかないと」
    「明日というか、今日よね」
    「まあね」
    店員がもやしのナムルを運んできた。この店のサービスのようだ。
    オレンジ色のラー油を被ったぷりぷりの姿が、何とも美味しそうだ。
    先に食べてしまおうか。お腹が空いて、我慢ができそうにない。でも…。
    宮野が迷っていたその時、きゅるると微かに音が聞こえた。
    「あっ」
    目の前の男と目が合う。
    褐色の頬が赤くなった。
    「今の…」
    「忘れてくれ…」
    降谷が腹を押さえて俯いた。
    この雑音の中で聞こえるとは。相当大きかったということだ。
    「あなたでもお腹が鳴るのね」
    可愛いなんて呟けば、降谷は真っ赤な顔で抗議した。
    「君は僕のことをなんだと思っているんだ。僕だって腹くらい鳴るさ」
    くるるる、また音が聞こえる。
    降谷が再び口を開いた途端、
    「お待たせいたしましたー!」
    料理が届いた。
    ほこほこ上がる湯気、踊る刻み海苔、先程とは段違いに強い美味しそうな匂い。
    「「いただきます」」
    示し合わせたわけでもないのに、声が揃う。
    さあ食べるぞ、と麺を取った途端、降谷がぐるぐると中をかき混ぜ始めた。
    「よく混ぜてから食べるんだよ」
    宮野も見よう見まねで混ぜる。卵の黄身が割れてとろりと麺に絡んだ。
    ぐるぐる、ぐるぐる。
    青海苔と、挽肉と、黄身と麺と青葱と。
    均等に混ぜ合わせて、今度こそ口に入れる。
    「…!」
    もう一口、二口。
    噛んで飲み込んで、また啜る。
    「何これ、凄く美味しいわ…!」
    もっともっと。
    あまりの美味しさに貪るように食べる。
    もちもちの太麺に甘めの挽肉と濃厚な卵黄がよく合う。いや、合うなんてものじゃない。ベストマッチ。後味はピリリと辛く、それがまた食欲をそそる。青葱も良いアクセントだ。
    先程食べ損ねたナムルも口にする。ヒンヤリしてシャキシャキで、ラー油と胡麻の香りがふわりと鼻を抜けた。

    お椀の中身が半分程になったところで、宮野はようやく箸を置いた。
    ひと息、落ち着いて水を飲む。
    正面を見ると、降谷が豪快に麺を啜り上げる瞬間だった。
    ずぞぞっといい音がする。
    スパイスの辛さに少し浮かぶ汗が実に男らしい。捲った袖や弛めた襟からは筋肉質な体が見える。目の下に隈があることを差し引いても、文句なしに良い男だ。
    思わず見惚れていると、唐揚げを差し出された。
    「何?唐揚げいる?」
    彼のメニューはメガ台湾まぜそば。大盛りのまぜそばの上に味玉、唐揚げ、メンマ、厚切りチャーシューをトッピングしたものだ。
    「もらうわ」
    言い終わるや否や、降谷の箸にかぶりつく。
    口の中で衣がしゃお、しゃお、と軽い音を立てた。
    「美味しい…、」
    思わずため息が出る。
    降谷はだろ?と嬉しそうに笑った。
    「台湾まぜそばってこんなに美味しいものだったのね…。今まで損してたわ」
    「台湾まぜそばの店は多いんだけど、僕はここの台湾まぜそばが一番好きなんだ。気に入ってくれたかい?」
    「最高よ…!」
    「それはよかった」
    「幸せだわ。私の好みにピッタリの味だし、ボリュームもたっぷりだし、何よりあなたと、」
    一緒だから。
    そう言いかけて思いとどまる。こんなこと言ったら重いだろう。
    「僕?」
    途中で切った宮野を、降谷は不思議そうに見た。
    「あ、あなたが唐揚げをくれたし!」
    「君は唐揚げが好きだったんだな。餃子も食べるかい?」
    降谷はにこにこと餃子を取り分けてくれた。
    それを口に含む。じゅわっと溢れ出した肉汁と、爽やかなシソの香りと梅肉の酸味が絶妙な味わいを生み出している。

    降谷と宮野がこうして食事をするのは、これが初めてではない。捜査中の食事だったり、捜査協力のお礼だったり、もう数え切れないほど共に食事をしている。
    しかし2人は恋人ではない。
    それは降谷は宮野が思いを寄せていることを知らないから。昔も今もただの協力者だと思っているのだろう。
    密かにこの想いを抱え続けて早6年。周りは結婚し始め、子どもがいる友人も多い。顔の良い宮野に、見合い話も言い寄る男も山ほどやってくる。けれど降谷のことを諦めきれずに、全て断っていた。彼も見合い話を全て断っていると聞くし、もしかしたらいつか自分と、と可能性を捨てきれない自分が恨めしい。
    (かと言って、告白できるかって言われたらできないのよね)
    今、この関係がとても好きで。この想いを伝えて、もっと親密になれれば良いけれど、もしダメだったら。
    この関係が壊れてしまうのが怖くてできない。
    これぐらいが一番丁度良いのかもしれない。彼の仕事を手伝って、頼りにされて、時々美味しいものを食べて。
    (これでもう十分だわ)
    期待はしない。
    この関係が幸せなのだ。きっと、この関係が私たちのベストマッチ。いつか終わりが来る時まで、ずっとこのままで。
    「宮野さん?どうかした?」
    「…いいえ。この餃子、美味しいなって」
    「だろ!ここの餃子はしそが入っているのが特徴で、他の餃子にはない爽やかな香りが食欲をそそるんだ!」
    嬉しそうに話す彼を眺める。
    もう30代も後半だというのに、未だに大学生と間違われそうな彼。
    「可愛い」
    「え?」
    本日2回目。思わず出た言葉に降谷が顔を上げる。
    「なんでもないわ」
    髪を耳に掛けて、台湾まぜそばを啜る。
    「美味しいわ」
    「また来よう。今度は豚骨ラーメンでもいいな」
    「チャーシュー丼も美味しそうよ」
    いつかは分からないけれど、今度、がある関係。それだけでもう十分だ。十分幸せなのだ。

    お椀に残ったまぜそばはあと4分の1。何だか寂しくなる。
    今が終わったら。今度はいつになるのだろうか。
    「そうだ、宮野さん、これは知ってる?」
    「え?」
    降谷がレンゲを取った。
    レンゲに麺と具をのせ、透明なボトルの中身をかける。
    「何をかけたの?」
    「食べてみて」
    差し出されたレンゲを口に含む。
    「!!」
    爽やかな酸味が口に広がる。
    酸味、甘味、旨味、辛味、塩気。すごくバランスがいい。
    「お酢を入れたのね!爽やかですごく美味しいわ!」
    「正解!昆布酢を入れたんだ。また違った味がするだろ?」
    「ええ!こんな食べ方もあるのね!」
    宮野もレンゲを取ってやってみる。
    酢を多めにしたり、数滴にしたり。加減によって出てくる味が変わってくる。
    そのままも、昆布酢入も、全て最高に美味しい。

    あらゆる麺料理で難しいのが、具より先に麺がなくなってしまうことだ。
    例に漏れず、宮野のお椀も挽肉と葱だけが残っていた。
    少し濃いけれど勿体無いし、集めて食べようかと思った時、
    「宮野さん、まだお腹に余裕ある?」
    降谷に聞かれた。
    「え?まあ、少しは…」
    「なら、〆としようか」
    「〆?」
    「うん。…すみません!追い飯2つ下さい!」
    何だろうかと思っていると、店員がつやつやの白米を盛った小さな器を2つ持ってきた。
    「ありがとうございます。…ここに入れるんだよ」
    降谷は白米をまぜそばのお椀にあけた。レンゲでざっくり混ぜていく。
    宮野もそのまま真似た。
    そして、レンゲで掬って食べる。
    「美味しい…」
    思わずうっとりしてしまう。
    甘みのある米が、麺とは違った味わいを生み出している。
    「米も中々合うだろう?追い飯っていうんだ」
    「麺以外でも、こんなに相性がいいのね」
    「そうなんだ。麺の主成分はグルテンだから、口内では糖にならないんだけど、」
    「米の主成分はアミロース。口内で糖となって甘味を感じるのよね」
    「そう。それがまた美味いんだよな」
    もう一口、口に入れる。
    青葱のシャキシャキ感と、肉の歯ごたえと、程よい米の柔らかさ。
    食感も楽しい。
    レポーターではないため上手く表現できないが、とにかく美味しい。ポエムのように表現するなら、全身の細胞が活性化していくような、エネルギーが満ちていくような美味しさ。
    最初から最後まで飽きが来ない。
    美味しい。嗚呼、美味しい。
    米粒や挽肉の欠片を残さないよう、今度こそ綺麗に平らげた。
    レンゲを置いてふぅ、と息をつく。
    目の前では降谷が同じことをしていた。
    満足そうな笑みを浮かべている。
    「お腹いっぱいって、幸せだよなぁ」
    「幸せね」
    久しぶりのまともな食事だからだろうか。食事でこんなにも幸せを感じたのは、初めてかもしれない。
    「腹が満たされたら今度は眠くなってくる」
    「ダメよ、お巡りさん。もうすぐ解析が終わるから。そろそろ帰らなきゃ」
    うーだのあーだの言いながら、2人でほんの少し、ゆったりした時間を楽しむ。このまま寝てしまえたらどんなに幸せか。
    「ふぅ。…名残惜しいけど、帰ろうか」
    降谷の声に、緩慢な動きで立ち上がる。
    降谷が纏めて会計をして、2人で車に乗り込んだ。
    帰り道はあっという間で、すぐに研究室に辿り着く。解析を見ればあと30秒というところだった。
    パソコンを立ち上げて、作業を再開する準備をする。
    カタカタという音が響き始めた。隣で降谷が作業を始めたのだ。
    宮野も解析データをパソコンに転送し、作業を再開する。
    2人とも何も言わない。無言の空気が心地よかった。



    目が覚めた。そこは見慣れた研究室。
    時刻はもう昼になろうとしていた。
    宮野はソファーに横になっていた。身体に何か掛かっている。
    降谷お気に入りの背広だ。
    机の上にはメモが残されている。
    『協力ありがとう。おかげで検挙に踏み切れそうだ。今日はゆっくり休んでくれ。背広はまた取りに行く』
    「また」の文字に心が踊る。
    きっと近いうちに「また」が来る。
    「まあでも、まずは帰りましょう」
    ゆっくりお風呂に浸かって、ふかふかのベッドで眠りたい。
    特別にお香を焚くのも良いかもしれない。
    荷物を纏めて持つ。椅子にぽつんと残すのも可哀想に思えて、背広も手に取った。
    身体は疲れているのに、心は軽い。
    軽やかな足取りで、宮野は研究室を後にした。
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