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    vi_mikiko

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    降志ワンドロワンライ5回目投稿作品です。

    お題:木蓮、夜明け、なんでそんなこと言うの

    SS二作です。繋がりはありません。
    二作目は少しメタっぽいかもです。

    #降志
    would-be
    #降志ワンドロワンライ
    yuzhiWandolowanRai

    木蓮、夜明け、なんでそんなこと言うの1.マグノリアの君

     薬品棚に並ぶコーヒーとミルク。僕はそれを眺めるのが嫌いだった。
     君が当たり前のようにとるその習慣は、僕が小さな頃通っていた病院で見かけていたものだから。
     君が僕に伸ばす手、頬を滑る指から、薬品の香りがするのが嫌で。君の全てがエレーナ先生を想起させて、僕は君に木蓮――マグノリアの香りのハンドクリームを贈った。真っ白な香りをするそれが全てを塗りつぶすように、エレーナ先生の残り香を塗り替えるようにと祈って。
     今では、木蓮が香る季節になると、君のことを思い出すようになりました。
     今更、なんでそんなこと言うのって、君は言うね。
     こちらはもう、夜明け前です。



     薬品棚に並ぶコーヒーとミルク。エレーナ先生もそうしてたんだ、と寂しそうに笑うあなたのことが嫌いでした。
     私から手当を受けるあなたが、目を閉じてお母さんを思い出すのが嫌で、私はマグノリアのハンドクリームをつけるようになりました。
     一度、目を瞑り無防備な顔を晒すあなたの顔中に、白いクリームを塗り付けたことがあったわね。あなたの顔は献花に囲まれた死人のように白く光っていて、私は死に化粧みたい、なんて揶揄っていたけれど。
     なんでそんなこと言うのって、あの頃の自分に言ってやりたい。
     私は今日もあなたの前でハンドクリームを塗りつけた手を組んで、あなたの夜が明けるようにと祈り続けています。



    2.冬が明ける前

     米花町での潜入捜査は、一年が一生続くような気分だった。
     僕がポアロにやってくる遙か前から、江戸川コナンはこの町にいたという。それなのに、彼がやってきてまだ半年だって? 僕を避ける帽子の女の子がやってきたのはさらに後で、彼ら二人がやってきてやっと今の少年探偵団になったと、カチューシャの少女から聞いた。

     そんな僕に奇跡が起こったのは、春のような温かい風が吹いた夜だった。彼らは一生小学一年生で、冬は明けないまま永遠に春と夏と秋と冬を季節の真ん中でループし続けるんじゃないかと思っていた頃、ようやく公園で木蓮が香った。
     春に咲く花の香りは、僕に輪廻からの解脱を知らせるようで。そんな折、彼女は僕の前に現れた。
     赤みがかった茶髪に、宝石のように光る瞳。闇夜に浮かぶ小さな身体は、まるでこの世の人間だとは思えない神秘的な光に満ちていた。
     何度も写真で見た、エレーナ先生の末娘。生きていれば、十八。だからこの光景は、夢か魔法だと本気で思った。

    「宮野、志保さん……」
     恐る恐る話しかけると、彼女は首を振り後ずさった。
    「ずっと、探していたんだよ」 
     今どこにいる、誰と住んで、何をしている? 質問を浴びせる前に、彼女から口を開いた。
    「夜が明けたら、私はもういないかもしれない」
    「なんで、そんなこと言うんだ……」
    「私の存在は、悪い魔女がかけた魔法によるものだから」

     その魔女は、私なんだけどね。その言葉は、木蓮が香る風に乗って消えていった。
     待ってくれ。君が消えてしまったら、僕は永遠に冬に閉じ込められたままで。夜にしか存在できない君も、一生日向を歩くことはできないというのか?
     じゃあ、僕らの夜が明けるように祈るよ―― 精一杯叫んだ時には、彼女は目の前から消えていた。

     悲しくて悔しくて、僕は公園の中心に立ち尽くしながら朝日が昇るのを空しく見守っていたけれど。
     最近になって気がつく。彼女は帽子がなければ、陽の下を歩けないだけじゃないかと。
     君に朝の光を与えるのは、僕の仕事かも知れない。
     そんなことを思った僕は、今日もポアロの窓ガラスを吹きながら、少年探偵団が訪れるのを待っている。




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    vi_mikiko

    DOODLE第4回目降志ワンドロワンライ参加作品です。
    お題:「桃の節句」「寿司」「顔だけはいいのよね」
    (気持ち、↓の続きですが単話で読めます)
    https://poipiku.com/3237265/8260579.html
    「桃の節句」「寿司」「顔だけはいいのよね」 春の訪れを感じる季節。ポアロのバイトを終えた降谷が米花町を歩いていると、目の前に小さな背中が見えた。
     背中の正体は、大きなビニール袋を手に提げた茶髪の少女、一人だ。
     今日は桃の節句。雛祭りという呼び名の方が一般的だろう。幼い女子のいる家庭では、健やかな成長を祈り雛人形を飾る日。

    「哀ちゃん」
     背後から声を掛ける。夕飯の買い物だろうか、大きな荷物のせいでいつも以上に彼女の身体が小さく見える気がした。
    「今日は、博士の家でパーティはしないのかな」
    「しないわ。うち、雛人形ないし」
    「……そっか」

     彼女の買い物袋を引き、奪い取るように持った。彼女は「いいのに」と言いつつ、降谷の横を大人しく歩く。
     先月の節分では博士の家で探偵団らと豆まきを楽しんでいたが、今日は一人なのだろうか。幼少期からアメリカに留学していた彼女は、雛人形を見たことがあるのだろうか。遠く離れた国で一人過ごす彼女に思いを馳せ、勝手に寂しい気持ちになる。
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