In other words, 五条の任務に同行した帰り道。高専へ向かって車を走らせている伊地知の心中はいつになく穏やかだった。
後部座席からは鼻歌が聞こえるし、道も空いていて車窓の景色が軽やかに流れていく。今日は現場の損害も最小限に済んだため追加の書類もなく、急ぎの業務も残っていないから早く帰れそうだ。
あと、これは五条の機嫌を損ねてしまうから言えないが、今日の任務が何事もなく終わったことにまずホッとした。五条が現代最強の呪術師であることはわかっているけれど、特級任務の時はいまだに緊張と不安で胸がいっぱいになってしまって、五条の顔を見るまで落ち着かない。
ただ一点、帳に入る直前に五条が「団子食べたい」と言ってきたのには焦った。普段であれば季節の菓子類は事前に用意しておくのだが、今日が十五夜だと把握していなかったのだ。呪霊の出現頻度と関係があるから月齢はチェックしていて、今日が満月なのはわかっていたのだが盲点だった。伊地知は行きしなに見かけた和菓子屋に車を走らせ、任務が終わる前になんとか月見団子を用意したのだった。
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