お前のために殺ってやるよ!(ミコジョン)__ぱちり、と目を開ける。
頭を抱え込むような姿勢から、ゆっくり身体を起こす。僕…ミコトがこの監獄内のストレスに耐えられなかったのか、はたまた別の理由か、〝俺〟が表に出てきた。
状況把握をする為に部屋を見渡す。殺風景な監獄内で特に変わったことは無い。やはり監獄内にいるこの状況が、ミコトにとっては何よりのストレスらしい。俺に代わったのも、きっとストレスに耐えられなかったからだろう。何かストレスを和らげる方法は……
__と、考えていたその時。
視界に何やら黒い影が映った。一瞬だったが、大きさから考えてきっと虫だろう。ここの衛生環境がいいかどうかはよく知らないが、虫なら面倒だし殺してしまおう。少し重い身体を起こし、黒い影に向かう。
黒い影を見つけ、じぃ、と目を凝らす。虫にしては少し大きい、…と考え、動きが止まる。違う、これは虫じゃない。
__床には、ヤモリだかイモリだか、爬虫類が床を這って動き回っていた。
「…っ!!」
思わずヤツから少し距離を置く。僕が、…ミコトが俺に代わった理由がようやく分かった。
ミコトは爬虫類が大の苦手だ。仕事の関係で爬虫類の画像を見る時、やたら薄目で見るくらいには。
そんな爬虫類…イモリだかヤモリだか知らないが、とにかく爬虫類に似た生き物を見つけて、どうすることも出来なかったのだろう。殺すことも出来ず、しかし気にしないことも出来ず、そうこうしている内にストレスが限界まで達して俺に代わったようだった。頭を抱えていた体制だったのもきっと怯えていたからだろう。
〝俺〟は初めて見たが、ヤツは形容し難い気持ち悪さがある。こんな小さな生き物に、と思わないでもないが、僕が苦手なら俺も苦手だと考えたら何らおかしいことはない。
__しかし俺に代わった以上、俺がヤツをどうにしなければ、僕がまたストレスを抱えることになる。それだけはどうにか避けなければならない。
辺りを再度見渡す。監獄内なだけあり、武器になるようなものは何一つない。…となると、俺自身がどうにかするしかない。
未だ動き回るヤツを睨みつけながら、1歩踏み出す。……こうなれば、殺るしかない。俺は僕のためなら何でもしてやるんだ。……例え、苦手な爬虫類が相手だろうと。
呑気に動くアイツに、震えた声で言ってやる。その声は、少しだけ〝僕〟に似ていた。
「…ぉ、お前の為に殺ってやるよ…!!」
***
「…此処に居たのか、看守のガキ……」
「うわ、っ、何だ突然ミコ…じゃなくて、その声はジョンか…!?…何をしに来た。」
「僕の監獄内のアレどうにかしろ。じゃねぇとここで殴り殺す。」
「…は??」
「本来ならこの場で殴りてぇが、アレをどうにかしなきゃまた僕がストレスを抱えることになんだよ。だから早くしろ。」
「な、何の話だ、一体」
「ごちゃごちゃうるせぇな、俺の気が変わらない内に早くしろよ。」
「……???一体な……うわ何だこれは!…や、ヤモリの死体…??」
「…あれ、僕何で……うわあああ爬虫類!?!また出てきたの!?!勘弁してよもう!!!」
「お、落ち着けミコト!もう死んでいる。」
「え、し、死んでる!?あれ僕が見た時まだ生きてたんだけど……あっ、もしかして看守くん殺してくれたの!?ありがとう~助かったよ!!」
「………だからあんなやつれた顔をしていたのか。」
「え、何の話?」
「…何でもない。」