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    Tari

    @TariTari777

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    Tari

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    宇煉のワンライに参加した小説です!
    お題は「ジューンブライド」。
    「ヴァージン・ブリーズ」の続編ですが、これ単体でも読めます。

    #宇煉
    uRefinery
    #ワンライ
    oneLai

    六月の祝福 南仏の六月は、日本と違ってからりとして過ごしやすい。気温は二十度台前半くらいで、暑くもなく寒くもない。少し日差しがきついので、外では帽子やサングラスが必須だ。
     宇髄が時間をかけて教会の建築様式やら装飾やらを見て周り、先ほども来た回廊に戻ると、煉獄がいた。
     ここは四角形の中庭を取り囲んで四角く廊下が通っており、ここを歩くことで修道士たちが瞑想をする場だ。中庭側には壁はなく、柱が立っているだけだ。
     その柱と柱の間に腰掛けて、煉獄は本を読んでいた。南仏の眩しい日差しを浴びてその金髪は光り輝き、物思わしげな顔は宗教画の聖人のようだ。
    「ずいぶんとさまになってんな」
     わざと冗談ぽく言ったのは、どこかで不安を覚えたからだ。
     二人でフランスに移り住んで、二年ほどが経った。まだ慣れないことや理不尽なことに戸惑うことはたくさんあるが、それもともに乗り越えてきた。
     煉獄は普段はパリの病院で勤務していて、ボランティアでスラム街や難民キャンプの医療支援をしたり、所属する医師団のNGOの要請があれば、医療危機の起きている危険な地域に入りこみ、紛争などで怪我を負った人々の治療をしている。
     紛争地にまで出向くことは滅多にないが、一度行くと数週間に渡るため、その間宇髄は生きた心地がしないのだ。
    「ロマネスクの建築について読んでいた」
     煉獄は本を閉じて、宇髄を見上げた。
    「ここの教会も、すべて修道士たちの手作りなんだそうだ」
     一つ一つ自分たちで壁石を積み、聖堂を立てた。だからロマネスクの建築は、どれも非常にシンプルな形をしている。それに、柱に彫られたレリーフや壁に埋めこまれたモザイク画は、拙いながらも言い知れぬ迫力と熱意を感じさせる。
    「まあ、寒さに震えながら、自分たちの造った石の床にじかに寝るような生活だったらしい。だから修道士たちの平均寿命は二十五歳くらいだったそうだ」
    「へぇ、なにを好きこのんで」
     そう言いかけて、宇髄は口を噤んだ。
     こいつだって、そうじゃないのか?自分の命を惜しむような人間なら、紛争地行きを志願したりするものか。
     だから宇髄は、
    「お前みたいな連中だな」
    と言ってやった。
     すると煉獄がくすりと笑う。
    「俺は神とは対話しない。食欲とも縁が切れないしな」
     キラリと、耳にいくつもつけたピアスが光る。今では唇と瞼のピアスはしなくなったが、左耳に三つ、右耳に二つのピアスは健在だ。こんな医者でもいいというのだから、フランスってのは自由なところだな、と宇髄はこっそり笑う。
    「それと、肉欲もあるもんな」
     捨てるなんて無理だよなぁ?と耳元で囁いてやれば、さっと顔を赤くして睨んでくる。
    「君が」
     煉獄は少し言い淀んで、中庭の方へと視線を向けた。
    「君が俺を、結びつけていてくれるんだ」
     この肉体に、この俗世に、そして自分自身に。
    ――ああ、そうだよなぁ。
     宇髄は思った。きっと、放っておいたら、自分のことなど顧みない。帰る場所も作らずに、人のためにばかり生きてしまう。
     そんな、この男のことが好きだから。宇髄はこの国にまでついてきて、その居場所となってやったのだ。日本とEUの医師資格を武器に、どこへでも行って、一番困っている人たち、一番苦痛に呻いている人たちを救うために我が身を削る。
     それはきっと、誰にも止められない。煉獄はそんなふうにしか生きられないし、その生き様を愛したのだから、宇髄はせめて、彼の居場所になろうと決めたのだ。帰ってきたら寛げる場所、一人の人間に戻れる場所、小さな我儘を言える場所。
     そのためにも、彼を人間らしいところに、引き止めておかねばならない。だから。
     教会を出て歩き出す煉獄の傍へと歩み寄り、耳元に再び唇を寄せる。
    「なあ、今日ホテルに早く帰ろうぜ。たくさんやりたい」
     この男を、堕落した人間の世界に堕としてやるために。たくさんいい思いをさせて、逃れられないくらいに。
     煉獄は扇情的な笑みを浮かべて、宇髄に視線を送る。
     村の小さな食堂で昼食を摂ると、再び村を散策した。あの小さな教会の前では、結婚の誓いを済ませたばかりのカップルが立っていて、皆から祝福を受けていた。
     南仏らしい色とりどりの花が舞い、花嫁と花婿を飾り立てる。
    「ジューンブライドだな」
     静かに、煉獄が言った。
     振り向いた彼は、背後からの陽光を纏って、輪郭が明るく輝いていた。
     花嫁のヴェールみたいだ。
     とりとめもなくそんなことを思い、宇髄は彼の手を取った。
     誓いだとか、約束だとかは、きっとこの男には必要ないから。
     黙って宇髄は、煉獄の左手の薬指に、そっとキスを落とした。
     案の定、煉獄はきょとんとしている。宇髄は思わず微笑んだ。そしてそのまま、手を引いて歩き出す。
    「宇髄、どうしたんだ」
     煉獄が怪訝そうに訊くが、宇髄は答えない。この男は知る必要がないのだ。これから、純白を纏う穢れのない花嫁を、掻っ攫おうというのだ。
     そう思うだけで、胸の奥がずくりと疼いた。
     ああ、いとも清らかで気高い恋人よ。お前のその穢れなき花を、今夜も散らそう。
     神でもなんでもいい、この偽りなき愛に、どうか祝福を。どうか。
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    Tari

    DONE相互さんのお誕生日祝いで書いた炭煉小説です。
    なんにも起きてないですが、柔らかく優しい情感を描きました。
    水温む 下弦の鬼を斬ったときのことだ。そのときの炭治郎には、実力以上の相手だっただろう。常に彼は、強い相手を引き寄せ、限界を超えて戦い、そして己の能力をさらに高めているのだ。
     そのときもそうやって、とっくに限界を超えたところで戦い、そして辛くも勝利した。最後の最後は、満足に身体が動かせなくなった彼のもとに、煉獄が別の任務から駆けつけてくれ、援護してくれたのだ。
     我ながら、悪運は強いと思う。こうして柱に助けてもらったのは、初めてではない。普通なら、とっくに鬼に殺されていたところだ。
     煉獄がほかの柱と違ったのは、彼が炭治郎の戦いを労い、その闘志や成長を率直に喜んでくれるところだ。
    「見事だった、少年」
     そう言って微笑んだ顔が、それまでに見たことのないような、優しい表情で。父や母の見せてくれた笑みに似ているが、それとも少し違う。多分この人は、誰に対してもこんなふうに微笑むことができる。それが家族や恋人でなくても、等しく慈しむことができる人なのではないか。限りなく深く、柔らかな心を、その匂いから炭治郎は感じ取った。
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