乾杯酒は別に好きじゃない。強い弱い以前に、それを自覚するほど飲んだことがない。
幸い職業柄、あとは時代性もあって、周囲に強制する人間はおらず、飲酒に対する嫌な思い出もなかった。好き好んで口にしないというだけであって、付き合いの場や冠婚葬祭では流石に最初の一杯に口をつけるくらいはするのだが、進んでいないグラスを見て何かを察したかのように「俺、もらおうか」と言い出す人もいた。そういう場合は軽く会釈をしてグラスをススッと移動させた。弱いと印象つけたほうが後々楽だ、そう教えてくれたのは菅原さんだった。
菅原さんは酒が好きだ。普段はそんなに飲まないものの、金曜の夜と土曜、そして飲み会では休肝日の分を取り返すかのように飲んだ。飲むとフニャンとした様子になり、人の膝の上に乗ったり人の頬を吸ったりと悪ふざけが加速するので弱い部類に入るのではないかと感じさせられる。介抱しようと近づいた人間は床に、テーブルの下に、そして自身の背中の後ろに大量の空き缶・空き瓶が隠されていたのを見て、大抵ギョッとした顔をする。
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