その日は朝から風が強かった。
澄み切った青空の海を泳ぐように舞い上がる一筋の紅。
風に飛ばされ流れゆくそれを視界の端に捉えた途端、気付けば旬の身体は駆け出していた。
都会の喧騒は大小様々な音が入り乱れて構成されている。
人の声、歩く靴音、街路樹の囁き、風鳴りに車の駆動音、横断歩道の電子音に建設機械の作業音。その中に啜り泣くような小さくか細い声が聞こえた気がして水篠葵は背後を振り返った。
買い物しようと人混みの街中を兄と二人で歩いていた最中のことだ。その一瞬、ほんの少しだけ兄から目を離して、けれど結局音の正体も見つけられずに隣を見れば兄の姿が消えていた。
ええ?と焦って視線を彷徨わせたのは刹那のこと、周囲から起こった響めきにより居場所は直ぐに知る事となった。
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