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    yomoya_32

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    キスする月鯉(明治軸)

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    接吻 二人で行った初詣の帰り道。全くひとけのない瑞垣の外で、鯉登少尉殿と初めて接吻をした。
     
     賑わいを遠く感じながらゆく道すがら、隣を歩いていた彼がふいと立ち止まった。黙って私の肩を握りしめる指先の力がやけに強くて、見上げた顔は思うより近くにあった。
    「月島……」
     白く見える息が顔にかかる。新年特有の静謐な、冷たい夜風に、温く酒精の香りが混ざっていた。さきほど境内で振る舞われていた御神酒を飲んだからだ。そんな少尉の吐息が心地良くて、思わず知らず強張っていたらしい身体がふっと、緩んだ。
    「はい」
    「口を吸ってもいいか?」
     表情は変わらなかったと思う。が、瞳孔が開いたような感覚はあった。
    「はい」
     ──目を瞑ってやるべきだろうか。そう逡巡するうちに、まぶたを伏せた少尉の顔が迫っていた。上から顔を押し付ける体で、むにゅ、と柔らかく湿った唇がやや遅れて押し当てられる感覚がした。
     触れるだけの拙い接吻。一度きりかと思ったがそうではなく、二度三度と何かを確かめるような動きで繰り返される口づけは、次第に熱を帯びてゆく。
     息つぎの拍子、至近距離で目があった。日ごろは鋭く研がれたような眦をしているが、今はとろりと潤んで、不敬ながら艶めかしいと小さく感動した。
     離れた唇がカパリと開いて、今度は私の唇を斜めに喰む。こういうやり方を知らないわけではないんだな。
    「ふぅ……ん、月島……」
     鼻にかかる声は、彼の口内と同じように甘い。けれど肩に食い込む指力はあいかわらず少し痛いくらいで、そのアンバランスさを愛おしいと思った。
    「んぁ……ン」
     冷たいものが頬や鼻に当たっている。それが少尉殿の鼻頭だと気づくまでには少し時間がかかった。
    「月島……月島ぁ、……んん、ぅう」
     すりすり、すりすり。浅い呼吸の合間に私を呼びながらすり合わされるのは、他ならぬ鯉登少尉殿のかんばせ。よく知る髪の香り。肌の匂い。
     厚めの唇は弾力があって、舌はたっぷりと濡れている。
     自分からも舌を伸ばし、粘膜を吸う。と、素直にはふはふ、息を漏らすからかわいらしかった。
     触れた歯列の艶やかさに驚く。そして──高い鼻梁は寒空の下、こんなにも冷たくなるのだと初めて知った。
     どれもこれも、自分に触れる彼は確かに”あの”鯉登少尉殿である。日夕見慣れた顔──なのに、肌でもって知覚することは想像以上の興奮を自分に齎した。というのも、この美しい人は触れても美しいかたちなのだと再認識したからだ。
     きめの細かい肌は頬に吸いつくようで、びっしりと生えたまつ毛に眼球のふくらみ、ごつごつとした骨格。触れてみて、その凹凸の顕著さにはっとする。
    「ぅ……、ふ」 
     離れ際、聞き逃してしまいそうな細い声が漏れた。目や鼻の奥がチクチクとして、腰は重く熱くなった。
    「鯉登少尉殿」
    「……なんだ」
     私が乱した髪を整えながら声をかける。少尉の返事はどこかぶっきらぼうだった。だが目を合わせたと思えばそらし、またそろりと戻ってくる視線と、噛み締められた下唇から、どうやら照れているらしいと知れた。

    『正月は届けをだしてうちに来ないか』
     そう言われた時から目的は理解していた。けれど、こんな甘酸っぱいやりとりを経るものとは。
    「本当に、よろしいのですか? このあと──」
     聞けば、少尉殿はゆったりと首肯する。
    「わたしから、誘った」
     そして困った時のように眉をさげ、瞼を伏せた。口元には微笑みをうかべながら。

     私はこのあと、鯉登少尉を抱くのだ。




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    kyosato_23

    MAIKING子供の頃に女の子の服を着て近所の子の性癖をおかしくさせていた少尉の話です(書きかけ)
    推しが子供の頃に好奇心などで女の子の服を着て周囲の男の初恋泥棒になるのが性癖です
    月鯉ですが幼少時代モブから好かれている描写あり。
    金塊争奪戦後設定のある種生存ifですが、中尉や師団に関する話は出てきません(パパは原作の現状通り亡くなった前提で書いています)
    菫の花の君




    月島は函館の鯉登邸に足を踏み入れるのはこれが初めてだった。
    全てが終わってから初めて迎える年の瀬、故郷に帰らないのならば自分の家へ来いと鯉登に半ば引きずられるように連れて来られたのだ。
    月島は当初は遠慮したが、お前と私の仲なのだから家に来るくらいはいいだろうと拗ねられてしまうと弱かった。
    先の戦で夫を失った母親が心配なのも大きいのだろう。人数が多い方が賑やかで良いと白い息を吐く横顔に僅かな憂いが滲んでいた。
    鯉登邸で月島は歓迎された。服喪であるからと大々的な新年の祝いの料理はなかったが、それでも鯉登家のささやかな料理というのは月島にとっては大層立派な膳である。
    十分に礼を尽くして出された食事を平げ、鯉登やその母親と歓談したり近くを散策したりと緩やかに時間は過ぎた。
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