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    ぎねまる

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    ぎねまる

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    網走の夜の一幕。「月下の獣」の続きのSSの予定でした。多分「地獄にふさわしい」ってフレーズが書きたかっただけ。

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    朔の竜「なあ月島。ここは戦場に似ていたか?」
    「いいえ。
     砲弾も飛んでこない。
     飛び散り焼け焦げる肉片も無い。
     敵はまともな武器すら持っていなかった。
     せいぜいが、制圧です。」
     虐殺という言葉は使わない。
    「ああ、腹が減ったな」
    「携帯糧食はありますが、駆逐艦の中です」
    重焼麵麭カンパンは嫌だ。口の中の水分を持っていかれる。握り飯がいい」
    「我慢してください。石を舐めたら唾が出ますよ」
    「ここの台所に食べものがあるんじゃないか? 位置的に燃えていないはずだ」
    「将官が略奪を企んでどうするんですか……」
     
     ああそうか。
     弁えている。
     
     鯉登は甘えるべきところ、我儘を言うべきところを知っている。身なりを整え清潔に上品に味の良いものを食べるべき場所と、泥と血に塗れながら喰い物を食べ戦い続ける場所とを知っている。あるべき場所での振る舞い方を知っている。

     殺戮の朝、血が汚泥に混じり人肉の焼ける匂いが漂う中、食べるもので我儘が言えるこの青年のほうが、よほど地獄にふさわしい。
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    ぎねまる

    MOURNING初登場前の、苛烈な時代の鯉登の話。わりと殺伐愛。
    過去話とはいえもういろいろ時期を逸した感がありますし、物語の肝心要の部分が思いつかず没にしてしまったのですが、色々調べて結構思い入れがあったし、書き始めてから一年近く熟成させてしまったので、供養です。「#####」で囲んであるところが、ネタが思いつかず飛ばした部分です。
    月下の獣「鯉登は人を殺したことがあるぞ」

     それは鯉登が任官してほどない頃であった。
     鶴見は金平糖を茶うけに煎茶をすすり、鯉登の様子はどうだ馴染んだか、と部下を気にするふつうの・・・・上官のような風情で月島に尋ねていたが、月島が二言三言返すと、そうそう、と思い出したように、不穏な言葉を口にした。
    「は、」
     月島は一瞬言葉を失い、記憶をめぐらせる。かれの十六歳のときにはそんな話は聞かなかった。陸士入学で鶴見を訪ねてきたときも。であれば、陸士入学からのちになるが。
    「……それは……いつのことでしょうか」
    「地元でな──」
     鶴見は語る。
     士官学校が夏の休みの折、母の言いつけで鯉登は一人で地元鹿児島に帰省した。函館に赴任している間、主の居ない鯉登の家は昵懇じっこんの者が管理を任されているが、手紙だけでは解決できない問題が起こり、かつ鯉登少将は任務を離れられなかった。ちょうど休みの時期とも合ったため、未来の当主たる鯉登が東京から赴いたのだ。
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