うたたねむりひめ二人だけの秘密の場所、星見のテラス。
この自然豊かな丘の上で、彼女は自分の肩を枕に眠ってしまった。
綺麗に生え揃ったまつ毛、リップの塗られた艶やかで柔らかく膨らんだ唇。絶妙な近距離で誘惑して来るそれらへ、奪うように口付けてしまいたいけれど。意識を手放した無防備な顔は何処までもあどけない少女そのもの。いくら自分が悪党でも起こすのは可哀想だ。
右手の手袋を外す。左手は腕ごと彼女に寄りかかられているので、手袋を噛んで引っ張った。
外気に晒されて涼しくなった右手で、キスの出来ない頬にひた、と触れる。白く繊細で柔和な肌触りを受け、異様に自分の顔が熱くなった。心音が一気に早く鳴り響く。
愛しさが心の中で溢れ出し、理性を決壊させる。
自然と顔が徐々に近づき、結局その可憐で美しい形の唇を奪ってしまった。盗むように呼吸を分け合うと、彼女の喉が『ん……』と微かに鳴る。やはり起こしてしまったらしい。
開く片目が間近に見える。まだ半分夢の中で、酔ったようにとろけたエメラルドグリーンの瞳。それと目が会った瞬間、詰まるほどの愛が胸から押し寄せた。
細い肩と背中を全身で抱える。少し寝惚けた状態の彼女の腕も、姿を探るように背面を這ってからふわりと抱き返してくれた。
ゼロ距離から鼻をくすぐるアプリコットの香水の匂いに、こちらが酔ってしまいそう。
体温に乗って伝わる幸福を逃したくはないと、彼女の体へ力を込めて精一杯両腕に閉じ込めた。
(おわり)