ただひとつのねがい双循さんが919って人のネクタイを掴んで動きを止める。
こんな状況で危険な敵前に飛び出すなんて。ほわんとシアンちゃんの歌をサポートする為にドラムを叩くけど、双循さんの事も気になって手元が狂いそうになる。
直後に聞こえて来たのは『すまんかった』って言葉。そして『帰って来い』という訴え。
いつもは人を喰ったような発言ばかりのあの人。でも、その願いが純粋で、切実で、真剣だって事が声の色から痛いほど伝わる。
この日食で隠れている太陽がもし見ているのなら、お願い。どうか、弟さんに戻って来て欲しい双循さんの、自分の存在をも懸けたたった一つの願いを叶えてあげて。
心の中で唱えながら、ドラムスティックを握る私の手には祈りによる力が籠っていた。
(おわり)