バラ柄のハンカチ「こちら、落としていらっしゃいましたよ」
カート大会の自分の選手控え室を彼女が訪れた。
綺麗に指が揃えられた手で、ラベンダーカラーの生地にバラ柄のハンカチが差し出される。
「ピーチさんに落とし主に心当たりがおありかと尋ねたら、こちらだとおうかがいしたので」
こんな粗野な男がクラシック感のあるバラ柄のハンカチを持っているなんて、裏で嗤われるかもな。そんな捻くれた思考に至る。
「素敵ですね」
受け取ったままなにも言えないでいると、彼女が和やかに笑った。
きっと褒めた対象はこのハンカチの柄だ。何処かでそう言い訳を零す。
しかし別の何処かではおかしな期待をしながら、穏やかに弧を描く唇と三日月のように細くなる目に見惚れていた。
(おわり)