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    りま!

    @ririmama_1101

    たまに絵とか小説更新します。
    主にらくがきなので薄ぼんやり(?)見てください。
    幻覚、存在しない記憶ばっかりです。

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    りま!

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    一時的に記憶を失った戴天を自宅に連れ帰る宗雲の話。

    #宗戴

    腹の底「──危ないッ!」

     鋭い声が辺りに響き渡る。ドンッと肩に衝撃が走り、一緒にいた男、高塔戴天に抱き締められる。戴天の頭へ何かがぶつかるのが見えたと同時にバランスを崩して倒れ込む。覆い被さるように倒れた戴天を見ると、彼はぐったりとして目を閉じていた。
    「おい、大丈夫か?!」
     肩を叩いてみるものの反応は無く、仰向けにすると頬を数回叩く。
    「しっかりしろ!」
     う、と呻き声をあげながら戴天が目を開く。数回瞬きをすると辺りを見回して「ここは……」と呟いた。
    「気分は?」
    「気分……?体調は悪くありませんが……ええと……あなたは?ここはどこでしょうか」
    「……正気か?」
    「すみません……。何も覚えていなくて、自分の名前も……」


    「カオスワールドの主は荒れていたようで、足を踏み入れた時からありとあらゆる物が飛んできて危険な状況だった。その中で飛んできた物が高塔を直撃。起きた時には記憶が飛んでいた」
    「戴天さんの記憶が…?」
    「一応すぐに病院へ連れて行ったが、一時的なもので戻るらしい。ただ、それが1日か1週間か、1ヶ月かは分からないようだ」
     記憶が無いと言う戴天と、とりあえずカオスワールドを抜け出し、病院へ連れて行った。外傷はほぼないが、頭を打った衝撃で記憶が飛んでいるらしい。仮面カフェに寄り、戴天には聞かれないようにエージェントを店の奥へ呼び出し、事情を説明する。
    「雨竜くんにも知らせないと」
    「待て。この状態を話すと心配をかけてしまう。こいつは明日は久しぶりに休みだと言っていた。1日だけ俺が面倒を見ても構わないか?」
    「でも、」
    「1日だけだ。それでも戻らなければきちんと雨竜にも説明する。許してくれないか?」
    「宗雲さんがそこまで言うなら……。でも本当に1日だけですよ」
    「分かっている。お前から雨竜に連絡してくれるか?」
    「はい。分かりました」
     本来ならば雨竜にも連絡すべきことだとは分かっている。しかし雨竜はしっかりしているように見えてまだ未成年だ。突然記憶を失った人間の面倒を見ろと言われても大変だろう。そんな言い訳を並べて、こちらに敵対心の無い戴天の側に居たいという我儘を通してみたくなった。そして、何故自分を庇うような真似をしたのかを知りたくなってしまった。


     自宅に連れ立って帰ると、ひとまず戴天をソファーに座らせる。落ち着かないようで、しきりに胸の前まで垂れた髪を撫でている。髪を触るという行為は無意識で心を落ち着けようとしている証拠らしい。要は不安なのだ。それもそうだ。突然記憶を失い、知らない男の家に連れて来られれば不安に思うだろう。
    「あの、宜しいんでしょうか。あなたのお家にお邪魔しても」
    「構わない。たまにお前もこの家に来ていた」
    何も覚えていないことを逆手に取り、嘘をつく。これで少しは気持ちが楽になればいい。
    「ありがとうございます。あの、あなたは」
    「自己紹介がまだだったな。俺は宗雲。そしてお前の名前は戴天だ」
     あえて高塔の名は口にしなかった。どんなきっかけで記憶を取り戻すのか分からなかったからだ。戴天が全てを忘れ去ったままずっとこの家に居て欲しいとは思わない。雨竜も心配するだろう。ただ1日という猶予が与えられた今、早々に手放すのは惜しいと思っている。
    「突然押しかける形になってしまってすみません。もしお邪魔になるようでしたら」
    「大丈夫だ。余計なことは考えるな。今日は疲れただろう」
    「帰る家さえ分からない、というのも困ったものですね」
     言葉通りに困り果てた顔で戴天が言う。俺の前でも素直に感情を表に出す無防備さに目を細める。記憶のない戴天から引き出せる情報など皆無だろうに、1日だけでもと側に置いておきたくなったのは何故か、それは考えてはいけないような気がしてやめておいた。
     家に帰る前に泊まるのに必要なものは準備しておいた。記憶に繋がるようなものがないか鞄を確認し始めた戴天をやんわりと制して早々に風呂に入れた。戴天の性格からして、他人の家の部屋を勝手に覗きはしないだろうと踏んで、戴天の持ち物は全て別室に入れておいた。案の定宗雲が風呂に行っている間もソファーから動かずに俯いて手を見つめていた。
    「テレビでも付けていれば良かったのに」
     そう声を掛けるとビクッと肩を揺らして戴天がこちらを見る。ここに来た時よりも怯えているようで、首を傾げる。
    「どうした?体調が優れないのか?」
    「いえ、そういうわけでは……」
     こちらを見ていた顔がまた伏せられる。頭を打っているのだ、医者には外傷はないと言われてはいるが気分が悪いのかも知れない。
    「俺のベッドで悪いが、今日はもう休め」
    「はい……いえ、宗雲さん」
    「なんだ」
     怯えと不安が入り混じった目がこちらを見上げる。血色のない唇が開いては閉じてを繰り返している。何度か繰り返して、意を決したように戴天が言葉を紡ぐ。
    「やはり私ここに居てはいけない気がして」
    「……何故そう思う」
     視線を左右に落ち着きなく揺らしながら戴天が続ける。
    「だって、普通は早く思い出せるようにするはずなのに。持ち物は取り上げられて、隠されている」
     戴天の興味を引くようなものを与えていなかったのは失敗だった。確かに知らない人間の家で唯一記憶に繋がるであろう可能性のある持ち物を隠されれば不信感が募るのは当たり前だ。そんなことにも気づかないなんて、大概自分も動揺しているようだ。
    「悪かった。そんなに警戒しないでくれないか?持ち物はここに持ってくる」
     そう言いながら戴天の荷物をリビングへ運ぶ。それをじっと見つめた戴天は再び俯いた。
    「ごめんなさい」
    「?」
    「記憶を無くした人間の世話を引き受けてくれているのに。私は疑ってしまいました」
     今度は深く反省しているようだ。
    「それは仕方ないだろう。確かに今のお前から物を取り上げるのは良くなかったな。気が済むまで好きなことをしていい。眠くなったら声を掛けろ」
    「あの、宗雲さんが良ければ」
    「なんだ?」
    「隣に座って話をしてくれませんか?忙しかったら良いんです。あなたの声を聞いていると落ち着くので」
     あまりにも無防備な様子に目眩がする。こんなに素直な戴天はいつぶりだろう。無意識に忘れようとしていた昔の記憶が甦る。
    「分かった。それくらいのことしか出来ないが」
    「ありがとうございます」
     戴天の隣へ腰をおろす。1人分ほど開けて座ってはいるものの、あまり近くに居ることもない相手と自宅で並んで座っているというのはなんとも違和感があった。
    「宗雲さんは植物が好きなのでしょうか?たくさん観葉植物がありますね」
    「そうだな。花を育てることは好きだ。ベランダでは家庭菜園もしている」
    「すごいですね」
    「今の季節なら……」
     戴天が素直に話を聞いてくれる。ただそれだけでいつもより良く口が回った。

    「記憶をなくす前の私は、一体何をしていたんでしょう」
     一通り家庭菜園や家の中の植物の説明を終えると、ポツリと戴天が呟く。
    「お前は……大企業の社長だ」
     嘘をつくこともできたが、何も知らない戴天の目を見るとこれ以上嘘を重ねることはできなかった。
    「しゃちょう……」
     戴天が言葉を繰り返す。何か思い出したのかと思ったが、特に何も思い出せなかったようで、曖昧に笑う。
    「私が社長だなんて、なんだか想像できません」
    「毎日忙しくて働き詰めだぞ」
    「ふふ、そうなんですか?でもしっくり来ます。あまり何もしないというのは落ち着かないような気がしますので」
    「それにしても働きすぎだ。もっと自分の体を大切にしてほしい、とは思っている」
     普段の戴天には言えないような言葉がさらりと出てきて、自分でも驚く。直接会うことは無くても、戴天の多忙さは耳に入ってくる。それこそ異常なほどに仕事に追われ、またそれを本人も嫌がっていない。あるいは、その多忙さで高塔戴天という個人の意志を殺している。
    「そんなに働き詰めなのですか?」
    「そうだな。空いてる日を聞くと、3ヶ月後しか空いていないと言われる」
    「そう、ですか……」
    「本当によく頑張っていると思う。お前はあまり弱音を吐かない。だからこそ余計に心配だ」
    「そこまで言われるなんて……余程ひどかったのでしょう。……あ、れ?」
     突然戴天の目からポロリと涙がこぼれ落ちた。本人もどうして泣いているのか分からないようで、しきりに目から流れる涙を拭っている。
    「こするな」
     そう言ってティッシュを渡してやり、戴天が目にあてる。感情を整理するかのように、戴天が何度か深呼吸を繰り返す。
    「……記憶をなくす前の私が欲しかった言葉なのかも知れません。悲しいような……でも泣いてしまうくらい嬉しいのだと思います」
     すぐに何か返事をすることはできなかった。“欲しかった言葉”。記憶のない今の戴天にとっては何気ない一言だったかも知れない。でもそれが宗雲の胸に深く突き刺さる。思い返してみれば、一緒にタワーエンブレムを結成した頃は若く、また他にライダーがいない中で勢力を増す敵との闘いに必死だった。お互いに気にかけていたとは思うが、それを言葉にして伝えていたかと言われれば答えは否、だ。辛くても苦しくても言えはしなかった。特に戴天は性格上、弱音を吐かない。その癖にこちらの顔色を伺ってはいたように思う。では俺は……と考え始めたところで肩に重みが乗る。
     泣き疲れたのか、宗雲の肩に頭を預けて戴天が寝息を立てている。起こさないように抱き上げ、ベッドまで運ぶ。少しだけ悩んだが自分もその隣へ身を横たえた。背中へ流れる綺麗な髪を撫でる。サラサラと手を滑り落ちる感触が心地よくて、何度もなんども掬っては滑り落ちる髪を眺めた。

     目が覚めると閉め忘れたカーテンから陽の光が降り注いでいた。戴天が隣ですやすやと穏やかに眠っている。今日、記憶が戻らなければ手放すことになる。そうしたらもう庇った理由を聞くことは困難になる。きっとどんな手段を使ってでも逃げられるだろう。1日の猶予を貰ったのはある種の賭けだった。
     寝起きが良くないのは相変わらずなようで、こちらが目を覚ましてじっと見つめても起きる気配は無かった。
     いつまでも寝顔を見つめていたい気持ちもあるが、今日という日は有限だ。起こすために戴天の肩を緩く揺さぶる。起きない。戴天の両頬を手で包み込み、やわやわと揉むように撫でる。
    「んぅ……めて……」
     目は閉じたまま、戴天がむにゃむにゃと何かを言おうとしている。恐らく「やめて」だ。それでもやめずに頬を揉んでいると、薄く目が開く。
    「ぁ……?そううん……さん……?」
     こちらを認識したのか戴天が呟く。頬を包み込んでいた手を離し、髪を後ろへ流すように撫でる。
    「おはよう。目は覚めたか?」
    「はい……」
     はい、と言いながら閉じようとする目を見て、まだ完全には覚醒していないらしいことが分かる。心地よい温度が眠気を誘うのだろうと思って、起き上がると同時に布団も捲ってしまう。急になくなった温もりに、再び戴天の目が開く。
    「ここは……どうしてあなたが……」
    「昨日のことは覚えているか?」
     ようやく目覚める気になったらしく、戴天が自ら起き上がる。額に手を押し当てながら、昨日のことを思い出そうとしているようだ。
    「カオスワールド……記憶……」
     まだ思い出していることがあるかも知れない、と続きを待つ。
    「記憶をなくした私をあなたが連れ帰った……」
     どうやらこの戴天は全てを思い出しているようだ。賭けに勝った、と笑んでしまいそうになる口元を必死に押し殺す。
    「そうだ。全て思い出したか?」
    「ええ。残念ながら昨日の夜の記憶もあるようです」
    「体の調子は?」
    「特に異変はありません。痛むところもないようです」
    「そうか」
    「色々とご迷惑をお掛けしました。後日お詫びの品をウィズダムに届けます」
    「お詫び……?そんなものはいらない。それより」
    「?」
     起きたばかりで隙だらけの戴天の肩を押し、もう一度ベッドに沈める。抵抗されないように両手を縫い付け、真っ直ぐに目を見つめて1番聞きたかったことをストレートに問いかけた。
    「カオスワールドでどうして俺を助けた?」
    「えっ……」
     それは戴天にとっては予想外の問いかけだったようで、目を見開いて固まっている。
    「お前は俺を突き飛ばすことだって出来たはずだ。なのにわざわざ覆い被さるようにして助けた。確実に自らが傷つくことになるのに。その真意が知りたい」
    「咄嗟に体が動いた、ただそれだけです」
    「本当か?」
    「…………。でも、あの時あなたが傷つくのは嫌だと、感じたのは確かです」
    「……戴天、」
     無意識のうちに縫い付けていた手の力を緩める。言われた言葉を心の中で繰り返した。戴天の真意を聞けたことへの喜びよりも、もしかしたら自分は期待していたのかも知れないと気づいてしまった。何を期待していたのか──
    「宗雲さんこそ」
     緩んだ拘束を見逃すはずもなく、戴天が両腕を振り払う。そのまま逃げ出すかと思ったが戴天の両手が宗雲の頬に添えられ、ちょうど先ほど起こした時のように頬を撫でられる。
    「昨晩は何故、私にあのようなことを?」
     あのようなこと、とはその身を案じたことだろう。記憶を取り戻した戴天が昨日言った言葉を覚えたままである可能性はもちろん考えていたが、それについて追求されるとは思っていなかった。
     適当に誤魔化すことも、うやむやにしてしまうことも出来たが戴天が期待していた言葉をくれたことに背中を押されて、思っていることを素直に口にすることにした。
    「日頃から思っていたこと、いや、昔から思っていたことを口にしたまでだ。今まで言えなかったが、お前の心の支えになりたかった」
    「もう、遅いですよ……」
     泣きそうな顔を見られたくないのか、頬に添えられていた手が後頭部へ周り、ぐっと引き寄せられる。逆らうことなく戴天の上に倒れ込む。
    「何もかもあの頃とは変わってしまったが、それでもお前のことが心配なのは本当だ」
    「ふふ……私のこと監視対象にしてるくせに?」
    「それは……」
    「冗談ですよ。それこそ昔とは立場が違うのです。仕方がありません。でも私だってあなたのことを守りたいという気持ちくらいあります」
    「ああ。嬉しいよ」
     窓から差し込む陽の光を浴びながらベッドの上で抱き合う、こんな時間がいつまでも続けばいいのにと、らしくもなく思った。

     結局お互いの心の奥底を少しだけ明け渡したものの、これからも自分たちの立場や考え方は変えられない。この家を出た瞬間から、また俺たちはウィズダムシンクスのリーダーとタワーエンブレムのリーダーとして、過去には何も無かったものとして日々を過ごしていくのだろう。
     それでも今回、垣間見た感情はお互いの奥底に大切に仕舞われるのだ、そう思うだけで少し心が晴れたような気がした。
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