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    りま!

    @ririmama_1101

    たまに絵とか小説更新します。
    主にらくがきなので薄ぼんやり(?)見てください。
    幻覚、存在しない記憶ばっかりです。

    リアクション𝐓𝐡𝐚𝐧𝐤 𝐲𝐨𝐮😘生きる糧です。

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    りま!

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    ⚠︎戴冠の器ストーリー後の宗戴です
    雨竜くん本当にありがとうございました。(?)

    イベスト後、こういうことがあったらいいなぁと思っている。
    戴天→宗雲、宗雲→戴天が結局どう思っているかは私の中でもまだ定まっていません。
    何通りも考えて全通りおいしい。

    #宗戴

    一水四見 業務は終了し、あとは荷物を鞄に詰めながら迎えの車を手配するだけ。それなのに戴天は迎えの連絡もせずに手元のスマートフォンを見つめて動けずにいた。
     秘書の雨竜は帰宅が遅くなると判断した時点で先に帰している。1人きりの社長室で、ただスマートフォンを見つめ続けて10分。やっとスマホから目を離し、机の脇に置いている紙袋を見る。贔屓にしているワインセラーから取り寄せたワインがそこには入っていた。
     雨竜からの助言もあって、先日の戦闘に助太刀として現れた宗雲にワインを渡そうとしているのだが、そのために取ろうとしている連絡を勇気が出ずに引き伸ばし続けていた。
     そして今日、そんな様子を見ていた雨竜から“兄さんが言い出さないなら僕が届けます”と宣言されてしまった。雨竜も戴天もそれでは意味が無いのだと分かっている。ただの助太刀への御礼、だけではないからだ。
     いつまでもこうしている訳にはいかない、と意を決して連絡先から宗雲を探し出し、発信ボタンを押す。
    「……どうした」
     何度目かのコール音のあと、宗雲の声が耳元で聞こえる。
    「……こんばんは」
    「珍しいな。何かあったのか」
    「いえ、特には……。今から少し時間はありますか?」
    「今から?」
    「お忙しいのなら結構です。日を改めますので」
    「いや大丈夫だ」
     いっそ断ってくれれば良かったのに、と理不尽な考えが戴天を満たそうとして、いけないと頭を軽く振る。
    「では今から商業地区へ向かいます。どこか良い待ち合わせ場所はありますか?」
    「何をする気だ?こんな時間から開いている店は……」
    「違います。渡したいものがありまして」
    「……?」
    「とにかく、お時間は取らせません」
    「分かった。ならば俺の家に来てくれるか?」
    「家には上がりませんよ。本当に渡したいものがあるだけなんです」
    「……住所を送る」
    「ありがとうございます。では」
     電話が切れると、1人しかいないビルの中では静寂が痛かった。

     迎えの車に乗り込み、宗雲から送られてきた住所を告げる。静かに走り出した車のシートに身を任せ、雨竜に連絡を入れる。頑張ってくださいという文字に苦笑いを漏らし、目を閉じた。不安と緊張を紛らわせるように、手元にある紙袋を抱き寄せる。
     車の中に流れるラジオのニュースを聞き流しながら、宗雲への言葉を考える。ある程度己の中で台本を作っておかないと、何と言えばいいのか分からなくなりそうだった。
    (助太刀への感謝……と、謝罪……)
     怪我をした戴天と、どうしてもその場に留まるわけにはいかなかった雨竜。本来であればタワーエンブレムとして片付けなければいけない戦闘に、エージェントの機転で宗雲が呼ばれ、助けられた。それに関してはエージェントにも宗雲にも御礼は必要だ。複雑だったのは“高塔”という家の問題に宗雲を巻き込んでしまったことと、“高塔”のために命を賭けようとした戴天に半ば強制的に宗雲を加担させてしまった。しかも“高塔叢雲”として。それについての謝罪。
     戴天はあの時の行動を間違っていたとは今でも思っていない。宗雲が少しでも戴天や雨竜に何か思うことがあるのならば、“高塔のため”に全力で剣を振るって欲しかった。それで戴天が命を落としても。しかし雨竜の怒りをぶつけられたとき、初めて道は一つでは無かったのかも知れないということに気がついた。支配とは、という問いに戴天と違う答えを導き出した雨竜のように、正しい道というものは必ずしも1つではないのだ。
     だから、もう一度同じ場面に遭遇してしまったとき同じことをするかと問われたら、それには否と答えたい。
     そこまで考えて、初めて宗雲には酷なお願い事をしたのだと思ったのだ。

     考え込んでいると車はあっという間に指定された場所へと辿り着いた。到着いたしましたと運転手から声をかけられて、車を降りる。窓から運転手に、すぐに戻るからと告げて正面のマンションへと歩き出す。
     エントランスに見慣れた姿を見つけて、紙袋を握る手に力が入る。ここで引き返すなどということはできない。
    「このような時間に呼び出してしまい、申し訳ございません」
    「突然だから驚いた」
    「こちら、どうぞ」
     差し出した紙袋を宗雲は戸惑ったように受け取る。
    「これは……ワイン?」
    「えぇ。あなたの好みに合わせて選んだつもりです。お口に合えばぜひ」
    「ありがとう……と言いたいところだが、お前に何かプレゼントされる覚えは無いが」
    「先日の御礼と……謝罪を」
    「謝罪?」
    「あのあと、私も考えたんです。私がやろうとしたこと、その結果何が残るのか」
    「……待て。その話をこの場所で聞きたくない」
    「……すみません。ではまた機会があればお話いたします。お時間を取らせましたね。それでは」
     そう言い、踵を返して帰ろうとした戴天の腕を宗雲が掴む。道路脇に駐車している送迎車のランプがチカチカと点灯しているのが目に入った。いつまでも運転手を待たせるわけにもいかない。
    「そういう意味じゃない。……部屋に上がれ」
    「いえ、後日でも構いません」
    「また雨竜に怒られるんじゃないか?話をするために来たんじゃないのか」
     雨竜の名前を出され、ぐっと言葉に詰まる。確かに名目上はワインを渡すだけでいいのだ。しかし雨竜もそれだけでは納得してくれないだろう。“何かお話されましたか?”と脳内の雨竜が問いかけてくる。そしてそれは宗雲も容易に想像できたらしい。
    「……お邪魔します」
    「あぁ、どうぞ」
     エントランスの中に入っていく宗雲の後ろを着いて行きながら、すぐ近くにいる運転手へ電話を掛ける。長くなりそうなので先にお帰りくださいと告げると、優秀な運転手は理由を聞くこともなく、車はやがて走り去っていった。

    「本当に良いのですか?」
    「良いと言っている。お前の話が聞きたい」
     宗雲の部屋へは初めて入った。物は少なく、きちんと整理整頓されているぶん、大きな観葉植物の存在が目立っていた。昔から花を育てるのが好きな男だった。今でも変わりなく花を愛でているのだと分かって、変わらないなと懐かしい気持ちになる。
     ソファーに座るよう促され、大人しく従う。キッチンでは宗雲がお茶の準備をしつつ、渡した紙袋を開ける音がしている。
    「これは……一度飲んだことがある。好きなワインだ。よく分かっているな」
    「……たまたまですよ」
    「今から一緒に飲むか?」
    「いいえ。こんな時間ですので」
    「それもそうだな。誘っておいて今更だが、戴天こそ時間は大丈夫なのか?」
    「えぇ。深夜に帰宅することは珍しくありませんので」
    「……お前」
     呆れたようにキッチンから宗雲がソファーへと戻ってくる。その手にはカップが握られており、コトリと戴天の前に置かれる。香りからしてラベンダーティーのようだ。ラベンダーの甘さとフローラルが混ざった心地の良い香りが広がる。
    「まぁいい。話の続きを聞かせてくれるか」
     宗雲がこちらを見る気配がするが、戴天は目を合わせなかった。そっと手に取ったカップからラベンダーティーを少し口に含み、飲み込む。独特の苦味が舌に広がるが、香りも相まって心は落ち着いた。
     カップの水面を眺めながら、戴天は口を開いた。
    「私は今でもあのときの行動を間違ったものとは思っていません。高塔の利益のためであれば私の命ですらチェスの駒のようなもの」
    「……」
    「でも、正しい一手は一つではないのだと雨竜くんが教えてくれました」
    「……そうだな」
    「そして考えたんです。私が選択した行動で、あなたまで巻き込んでしまった。もしかしたら取り返しのつかないことになるような」
    「さすがに動揺したな」
    「あの時は、もし私がいなくなっても雨竜くんには……あなたが居ると思ってしまったんです。そしてあなたには大幹部を倒したという事実が残る。それはあなたにとっても利益なのでは、と」
    「お前は俺を何だと思っているんだ」
    「……そうですね。あなたに色々なことを背負わせてしまう。だから今日、謝罪に来ました」
    「恐らくお前は勘違いをしている。あのままお前を死なせることになったとき、雨竜とのことも勿論そうだが。きっと俺は俺自身が許せなくなっていただろうな」
    「それは……」
    「簡単に言えば、そうだな……。お前が居ない世界を考えたくない」
     宗雲の手が、カップを握ったままの戴天の手を上から包み込む。じんわりと宗雲の手のひらの熱が伝わってきた。そして宗雲がそっとカップをテーブルの上のソーサーに戻して、軽く引く。逆らうことなく戴天が手をカップから離すと、祈りを込めるように握りしめたまま、宗雲が自らの額に手を当てる。
    「お前を殺すことにならなくて……良かった。大切なものを失わなくて本当に良かった」
     そう言って顔を上げた宗雲を見て、戴天は絶句する。言われなくても分かる。心底安心したような、嬉しそうな顔だった。
     その顔を見ていると、顔に熱が集まり心臓がドクドクと力強く脈打つ。きっと今戴天の顔は真っ赤だ。なぜか急にとてつもなく恥ずかしい気持ちになった。
    「ッ……もう、わかりました」
     握られていた手を振り払うように外すと、宗雲がこちらを見て、目を見開いた。
    「照れているのか?……案外可愛いところがあるんだな、戴天」
    「からかわないでください!もう帰ります」
     ソファーから勢いよく立ち上がろうとする戴天の肩を宗雲が掴み、再びソファーに座るように促してくる。
    「すまない。つい。今からタクシーを呼ぶから」
     慣れた手つきでスマホを触り出した宗雲を見る。火照った体を冷ましたくて、もうすっかり冷め切ったラベンダーティーを口に含む。冷えてしまったぶん、更に苦みが増していたが、その苦みでいくらか冷静さは取り戻せた。

    「そろそろタクシーが到着する」
    「……ありがとうございます。見送りは不要です」
    「分かった。なぁ戴天……また食事に行こう。雨竜と3人で」
    「……えぇ。タイミングが合えば」
     戴天の返事に満足したのか、宗雲が一度頷く。それを見て戴天も軽く笑みを残し、宗雲の家を後にした。
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    りま!

    DOODLE⚠︎戴冠の器ストーリー後の宗戴です
    雨竜くん本当にありがとうございました。(?)

    イベスト後、こういうことがあったらいいなぁと思っている。
    戴天→宗雲、宗雲→戴天が結局どう思っているかは私の中でもまだ定まっていません。
    何通りも考えて全通りおいしい。
    一水四見 業務は終了し、あとは荷物を鞄に詰めながら迎えの車を手配するだけ。それなのに戴天は迎えの連絡もせずに手元のスマートフォンを見つめて動けずにいた。
     秘書の雨竜は帰宅が遅くなると判断した時点で先に帰している。1人きりの社長室で、ただスマートフォンを見つめ続けて10分。やっとスマホから目を離し、机の脇に置いている紙袋を見る。贔屓にしているワインセラーから取り寄せたワインがそこには入っていた。
     雨竜からの助言もあって、先日の戦闘に助太刀として現れた宗雲にワインを渡そうとしているのだが、そのために取ろうとしている連絡を勇気が出ずに引き伸ばし続けていた。
     そして今日、そんな様子を見ていた雨竜から“兄さんが言い出さないなら僕が届けます”と宣言されてしまった。雨竜も戴天もそれでは意味が無いのだと分かっている。ただの助太刀への御礼、だけではないからだ。
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    りま!

    DOODLE叢+戴と宗+戴の一幕。
    ※恋愛要素は無いです!
    前半は穏やか、後半はギスギス。
    温度差で風邪を引いても大丈夫な方はどうぞ(?)
    進む先 カオスワールドの中、醜い雄叫びをあげてガオナクスが立ちはだかる。はぁはぁと荒い息を吐きながら、叢雲と戴天は身構えた。
     カオスワールドの主の意思が強いのか、いつも以上にガオナとガオナクスによる妨害が多かった。目立った怪我は無いものの、連続して起こる戦闘に2人の息は上がっていた。
    「……ふぅ、まだ行けるか?戴天」
    「無論。叢雲さんこそ大丈夫ですか?」
    「もちろんだ。……来るぞ!」
     ガオナクスが繰り出す攻撃を叢雲が防ぎ、戴天が光線で焼き尽くす。お互いが次にどんな動きをするのか、目を見るだけで分かった。
     後方にいた戴天の後ろに新たなガオナが出現するのを叢雲が目の端に捉えた瞬間に叫ぶ。
    「戴天ッ!」
     鋭い声が戴天の鼓膜を揺らすとほぼ同時に、叢雲の剣が戴天の背後にいるガオナに突き刺さった。戴天は考えるよりも先に叢雲の動きを予想し、半歩身を引いていた。音もなく消えていくガオナに安心する暇もなく、剣を突き出した腕を戴天が軽く引く。引かれた動きに抗うことなく身を翻すと、戴天がふわりと浮遊して前方のガオナを破壊した。
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    りま!

    DOODLE※①②③を先にどうぞ!
    雨竜くんが一度行った3人での食事会を経て、宗戴のその後を見守る話
    雨→戴→宗と目線が変わります。
    終わらせようと思ったけど続きます。

    ↓軽い設定
    •宗雲
    やんわり戴天が好き。深い仲に戻れれば良いと思っている。

    •戴天
    宗雲のことは許していないと思っているが、それは高塔の者として許されないという固定観念から来ていることに気づいていない。

    •雨竜
    どちらのことも大好き!
    兄達よ和解せよ④〜一歩前進編〜 玄関の扉が開く音に雨竜がリビングへ降りると、予想通り戴天が帰宅したようだった。
    「おかえりなさい、兄さん」
     戴天には休日というものが存在しないのではないか、というくらい働き詰めだ。今日も雨竜は休日だったものの、戴天は社内調整後の決裁のために出社をしていた。
     この決裁が終われば、ほんの少し戴天のスケジュールに余裕が出る。それを見越して明日は戴天の休日を作った。戴天は休日を渋ったが、このままでは何連勤になってしまうか分からないので、何も予定は入れませんと宣言したところでやっと了承してくれた。
    「ただいま、雨竜くん」
     靴を脱いでリビングへとやってきた戴天が雨竜に一声かけると、そわそわとした様子でそのまま部屋のある2階へと上がって行った。
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    りま!

    DOODLE※①②を先にどうぞ!
    雨竜くんが一度行った3人での食事会を経て、宗戴のその後を見守る話
    駆け引き編は宗雲目線。続きます。

    ↓軽い設定
    •宗雲
    やんわり戴天が好き。深い仲に戻れれば良いと思っている。

    •戴天
    宗雲のことは許していないと思っているが、それは高塔の者として許されないという固定観念から来ていることに気づいていない。

    •雨竜
    どちらのことも大好き!
    兄達よ和解せよ③〜駆け引き編〜「ありがとうございました。……では、また」
     そう言いながら車に乗り込む戴天がこちらを見た。その表情がどんなものだったか、戴天は分かっているのだろうか。
    (では、また……か)
     戴天にとってはただの挨拶だとしても、彼の口から出た言葉であればそれを理由に何とでも言える。宗雲はつい緩んでしまいそうになる口元を手で押さえた。

     リビングのソファーに座りラウンジの雑務を片付けていると、スマホのメッセージアプリの通知音が響く。アプリを開くと、雨竜から今日のお礼が届いていた。雨竜が居なくなったあとの様子が気になったのか、直接的な言葉こそないものの、気になる様子が伝わってきて苦笑いする。
     同じ家にいる戴天には聞かずにこちらに聞いてくる気持ちはなんとなく分かる。ひとまず、こちらは嬉しかったと伝えられたこと、ただそれを戴天がどう思っているかは分からないことを伝え、最後に家に帰った戴天の様子を聞いておいた。
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    りま!

    DOODLE※お出掛け編を先にどうぞ!
    雨竜くんが一度行った3人での食事会を経て、宗戴のその後を見守る話
    2人きり編は戴天目線。続きます。

    ↓軽い設定
    •宗雲
    やんわり戴天が好き。深い仲に戻れれば良いと思っている。

    •戴天
    宗雲のことは許していないと思っているが、それは高塔の者として許されないという固定観念から来ていることに気づいていない。

    •雨竜
    どちらのことも大好き!
    兄達よ和解せよ②〜2人きり編〜 雨竜が去り、カフェの店内に宗雲と戴天だけが残されている。雨竜のことを呆然と見送るしかできなかった戴天は、中途半端に浮いたままだった腰を再びソファーへと降ろした。
    「何か私に用事でもありましたか?それとも雨竜くんの前ではできないようなお話でもあるのでしょうか」
     戴天にとっては、宗雲と話さなければいけない用事も無ければ、何もないのにお喋りを楽しむような関係でも無かったから、今の状況がまるで飲み込めない。
    「いや、特にそんな話は無い」
     宗雲からの返答に戴天は訝しげな目線を向ける。
    「私もあなたに用はないのですが……」
     そう言う戴天に視線も向けずに宗雲は落ち着かない様子で手元のアイスコーヒーの氷をストローでかき混ぜている。カラカラと氷同士のぶつかる音が静かな店内に響く。グラスの表面についた水滴をコースターが音もなく吸いとっていった。
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    りま!

    MOURNING・嘔吐(体調不良)表現があります
    ・宗雲=叢雲の設定
    ・宗雲(叢雲)は高塔の一族でありながら高塔の隠された秘密を暴く側の派閥の生まれで、子供の頃から秘密を探っており、旧タワエンは探っていたのがバレて解散したという特殊設定(ですがあんまり関係ない)
    •戴天がヒスり、宗雲が少し暴力的かも
    •宗戴ですが糖度は低め
    欠けた月(前編) 広い屋敷の庭に面した縁側で、あなたは花の茎をパチンと花鋏で切り、花器に生ける。それを私はとても嬉しそうな顔をして見ている。できたぞ、と言って完成した作品はとても私の心を踊らせた。

    「ねぇ叢雲、もう一度お願いします」
    「戴天は本当に花を生けるのを見るのが好きだな。仕方ない、もう一度だけだぞ。ただし、」

     そう言ってあなたがこちらを見た瞬間、ゾクリと悪寒が走る。あどけない顔をしていたあなたが、立派な大人に見えた。まるでこちらを責め立てているような。

    「対価が必要だ。お前の隠していることを教えろ」

    「──ッ!」

     目が覚めるとそこは見慣れた自室で、戴天ははぁと短く息をつく。もう何度も何度も見た夢。幸せだったと同時に嘘で塗り固められたあの頃。全てが嘘だったとしても、優しさだけは確かにそこにあったと、今でもそれだけを大事に抱えている。
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