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    影緋(えいあ)

    @_Eiagnsn

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    影緋(えいあ)

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    相互の誕生日リクエスト
    レンタル彼氏をやってる鍾離と、留学生アヤックス
    全年齢になってた

    #鍾タル
    zhongchi

    今日から故郷から遠く離れた、念願の璃月大学の入学式だ。勉強したい事が山程あるし、寮暮らしも初めてだから少しワクワクしてる。充実した大学生活を謳歌してやろう。
    ──と、意気込んで一週間。「遠距離恋愛とかやっぱ無理」と彼女にフラれ、オマケにホームシックというものに陥り家族に会いたくて仕方が無い。友達は出来たが、故郷の話しが出来る奴は誰一人居なくて寂しい。

    「はぁ……」

    何か寂しさを紛らわせるものがあればな。せめて彼女と電話とか出来ていれば……イヤイヤ。本当は他に好きな人が出来たから、遠距離恋愛を口実に振ってきた奴に縋ってどうする。かと言って寂しさを紛らわせる為に新しい彼女を無理矢理作ってもなぁ。別れる時に「ホームシックが治ったから別れよう」とか言える訳無いし。良い笑いものだ。
    ネットサーフィンをして良い方法が無いか探していると、“レンタル彼氏”なるものが引っ掛かった。検索に『寂しい』『紛らわせたい』って入力したから検索者が女だと勘違いされたんだろう。

    (ん?意外とアリか?)

    レンタルするなら彼女の方だろうと思ったが、土地勘が無いから会うとしたら大学付近になる。もしレンタル彼女とのデートを友人に見られて茶化された時に困るし、彼氏の方がバイト先の先輩だとか適当な嘘でかわせる。
    試しに男でもレンタル出来るのか調べたら男女共に借りれるし、値段も初回サービスとかで安かった。詐欺サイトの謳い文句っぽくて心配になるが、まあものは試しだ。詐欺られても人生経験として笑い話にでもしてやろう。指名無しで予約をすると、3営業日以内に誰が来るのか返信するとメールが来た。

    (3日待てばいいって事?)

    よく分からないので、取り敢えず返事を待つ事1日。“鍾離”という人が来てくれる事が決定した。


    ◆❖◇◇❖◆


    「早く来過ぎた……」

    緊張して予定の40分前に着いてしまった。
    待ち合わせ場所は大学近くの公園の噴水前。
    璃月に来て1番驚いたのは遊具の多さだ。遊ぶ事がメインというより、健康遊具だけど。平日の昼間だからか、健康遊具を利用するお年寄りが多い。まだまだ時間はあるし、暇潰しとして遊具を見てみる事にした。

    「ん…………」
    (どう使うのが正解だ?)

    ハンドルが2個ついてる遊具を見るが、これは何のための健康遊具なんだ。周りをチラ見すると、お婆さんが両手でそれぞれのハンドルをグルグル回してる。
    使い方を見ても、一体どの部分が健康になるのか分からない。肩周りの筋肉が解れるとか、そういう効果があるのだろうか。
    試しに回してみるが……やっぱり良く分からない。なんだか恥ずかしくなってきたので、待ち合わせ場所で待つ事にした。


    ◆❖◇◇❖◆


    「お前がアヤックスか?」
    「ヒョッ……アッ、俺っです……」

    する事も無くてボーッとベンチに座ってたら、美丈夫に顔を覗き込まれて心臓が止まるかと思った。予定の5分前に来てくれるなんて、ちゃんと仕事が出来る人なんだな。

    (ってか、顔面良過ぎだろッ!)

    レンタル彼氏って、皆こんな美丈夫だったりするの?男の俺でも心臓がバクバクするレベル。
    鍾離さんは俺の隣に座って、今日のデートプランを聞いてきた。レンタル彼氏だから、デートに掛かる費用は全部俺持ちだ。今回は初回サービスで半額だから、2時間で4000円。ここまで来てくれた交通費は別だから、基本料金しか払えないならこのまま公園をブラブラするか、ウィンドウショッピングをするか、お金が掛からないデートプランもある。

    「あー、俺、大学に入学して璃月に来たばっかで……大学付近に何があるか分からないからオススメの料理店とか、教えて貰えたらなぁって……あんまり高い所は無理だけど、昼食代くらいなら出せます」
    「成程。大学1年生か……なら、安くて美味くて量も多い料理店がある。昼食はそこにして、大学近くの商店街へ行こう。他にも希望があれば遠慮せず言ってくれ」
    「ありがとうございます!」

    鍾離さん、学生なの考慮してくれるの優しい。こういうのって無理矢理高いレストランとかに連れてかれたりするんじゃないかって、ちょっと不安だった。

    「デートプランも決まった事だし、今から2時間だな。折角璃月に来たんだ。1秒たりとも無駄にせず楽しんでくれ」
    「あっ、ありがとうございます」

    この人は仕事だから当たり前だろうけど、こうして歓迎してくれるのは凄く嬉しい。当たり前に大学は殆ど璃月人だから、微妙に馴染みにくかった。嫌われてたり、虐めなんて勿論されてないが、微妙に浮いちゃってる。俺が緊張して、余所余所しくしちゃうってのもあると思うけど。

    鍾離さんは俺の手を引き、大学近くの商店街へ連れて行ってくれた。通ってる大学は都会にある。その所為か、商店街も華やかだ。平日の昼間なのに人が多い。

    「飲食店が多めだな。中に入ってしっかりとした食事を提供する場所もあれば、食べ歩きに向いてる屋台もある。地元住民も利用する事が多い為、日用雑貨もある程度なら揃えられるだろう」
    「へぇ……」

    鍾離さんは説明してくれてるのに、上手い相槌が分からなくて興味無さげになってしまう。
    鍾離さんは「ただ横断するだけじゃつまらないだろう。ゆっくり見て行くと良い」って言いながら、肉の良い香りを漂わせた屋台へ連れて行かれた。買わされる流れかと身構えたが、鍾離さんはこの屋台の1番オススメメニューの説明をするだけして、話し終えたら隣の店へ連れて行かれる。
    買わせる流れじゃないのかよ、と突っ込みそうになったが、鍾離さんの話しはスッと抵抗無く入ってきて楽しい。値段も安いし、今度1人で食べに来るのに丁度良いかも。

    「ん、もしかして、俺が1人で来ても困らない様に説明を……?」
    「嗚呼、そんなところだ」
    「わっ……有難いです……」
    「璃月に来たなら、璃月の美食をしっかり堪能してから故郷に帰って欲しいからな。もし御家族が遊びに来ても、多少覚えていれば食事に困る事は無いだろう」

    家族が来る予定は一切無いが、そんな事まで考慮してくれるなんて……。璃月のオススメ料理を教えて貰えて嬉しいし、話してる鍾離さんも楽しそうだし、相性が良いレンタル彼氏で良かった。

    「あ、こんなに説明してくれてたら喉乾きますよね?えっと……じん、ず?」
    珍珠ジンズゥ。タピオカ飲料の屋台だな」
    「それ!でっ……でーと、なので、飲みませんか?」
    「ふっ。嗚呼」

    デートって言うのが恥ずかしくて小声になってしまい、鍾離さんにくすくす笑われてしまった。恥ずかしさを誤魔化す為に鍾離さんの手を引っ張り、出店のメニュー看板の前まで来た。
    共通語でも書いてくれてるから、何味なのか大体の予想がつく。助かる。

    「無難に紅茶……あ、苺ミルク美味しそう」

    メニューの写真がどれもお洒落で可愛くて、見てるだけで少しワクワクしてしまう。全部美味しそうで悩むが、ここで時間を費やすのは勿体無いし、今度来る事を考えて無難にミルクティーにした。鍾離さんは白桃烏龍にしてた。

    「お待たせしました!」
    「ん、ありがとう。アヤックス」
    「おっ、ふ」

    微笑んで名前呼ばれるの、普通にドキドキしてしまう。この人、レンタルじゃなくても絶対モテるんだろうなぁ。

    (うまっ)

    何気に初めてタピオカ飲料を飲んだけど、思ってたより美味しい。
    鍾離さんは俺の手を繋いで歩きだし、また店の説明をしてくれた。人の話しを長々と聞くのが苦手なのに、不思議と退屈にならない。話し方が上手いんだろうなぁ。



    「む、あと50分か。食事をすればいい時間になるだろう」
    「あ、はい」

    楽しくて時間を忘れていた。そっか、あと50分か。ちょっと名残惜しいかもしれない。
    飲み終わったタピオカ飲料のカップをゴミ箱に捨て、鍾離さんオススメの料理店へ行く。大学からだと徒歩5分程度で行けるらしい。

    「此処だ。外観は……店だと分かりにくいが、味は保証する」
    (空き家かと思った)

    心配になる外観をしている。店の中に入ると、まだ綺麗だ。いや、結構年季が入ってる見た目してるけど、外観よりは綺麗って意味。
    少し緊張しながら鍾離さんについて行き、テーブル席に向かい合って座る。鍾離さんにメニュー表を渡されると、おばあちゃん店員が水を持ってきてくれた。

    「あらあら、鍾離くん久し振りだねぇ。この子はお友達かい?」
    「エッ」
    「俺の大学の後輩で、オススメの店を紹介してた所だ」
    「あらまあ嬉しいねぇ。鍾離くんは“いつもの”かい?」
    「嗚呼。よろしく頼む」
    「あいよ。後輩くんは?」

    衝撃の事実を知らされて吃驚だし、メニュー表の璃月文字が達筆過ぎて読めなくて困ってるし、待たせるのも悪いから鍾離さんと同じのを食べたいって言ってしまった。“いつもの”が何なのか分からなくて若干後悔してる。せめて「いつものってなんですか?」くらい聞けよ俺。激辛が来たらどうしよう。食べれる気がしない。
    メニュー表を片付けて水を飲んで一息つくと、何かを焼く良い音が聞こえて来た。ちょっと楽しみかも。

    「あ、先輩だから詳しかったんですね」
    「嗚呼。隠してた訳じゃ無いが、聞かれなかったからな。規約的に個人情報を自ら話すのは好ましくないんだ」
    「あー、そうですよね」

    一応小声で話す。鍾離さんもレンタル彼氏をやってるって知り合いに知られたくないだろうし、俺だって先輩をレンタルしてるとか知られたら二度と来れない。
    ソワソワして待ってると、おばあちゃん店員が両手に大盛り刀削麺と餃子をトレーに乗せて持って来た。

    (あっっか!食べれるかな……)
    「真っ赤だが、1番辛くないから安心してくれ」
    「これでぇ……?」

    璃月で外食をあまりしないようにしてたのは、辛い食べ物が多いからだ。前もって伝えるのを忘れていた俺が悪いので、勺子シャオズって言う璃月料理を食べる時に使うスプーンでスープを掬い、恐る恐る啜ってみた。

    「ングッ」
    「ははっ。辛かったか?」
    「ちょっと……あ、でも思った程じゃなかったです。美味しい」
    「そうか。それは良かった」

    水を飲んで一度口の中をリセットしつつ、チラッと鍾離さんを見る。鍾離さんもスープを飲んでから麺を食べ始めた。お上品な見た目だから食べ方も綺麗だと勝手に思ってたが、意外にも大口を開けててドキドキする。

    (沢山食べるし、女の人だったら母性本能的なの擽られそう。現に男の俺も、またご飯一緒に行きたいって思ってるし)

    鍾離さんに大学の先生達の事を沢山教えて貰った。どこの先生は淡白で話し掛け辛いが質問すれば嬉しそうに答えてくれるだとか、あそこの先生は凄く優しそうだが提出物の期限は1秒たりとも遅れたら受け取ってくれないだとか、この先生は博識で授業も楽しいがお気に入りになると頻繁に授業で当てられるだとか……。他にも色々教えてくれた。鍾離さんが取ってた授業の話しも聞きながら食べてたら、時間まで後10分になってしまった。

    (辛い以前に普通に腹一杯だ。食べても食べても減らない)

    辛いのを何とかする為に餃子と水で凌いでたら、腹がチャポチャポになってしまった。残すのは店の人に悪いし、時間になったら鍾離さんは先に帰って貰って1人でゆっくり食べよう。今は絶対に入らない。
    そう思って口の中に残った麺をゆっくり噛んでいたら、鍾離さんが俺の丼と食べ終わった自分の丼と交換して食べ始めた。

    「はぇ?」
    「前もって量と辛さを伝えてなくてすまなかったな。残りは俺が片付けるから大丈夫だ」

    そう言って残ってた3分の1をスープごと平らげた。助かって有難いというのと、初対面の相手の食べ掛けを躊躇無く食べれるの凄いなって気持ちが入り交じってる。

    「どっ……どこに入ってるんですか……?」
    「……ふはっ、こう見えて意外と大食らいなんだ。だからこの店に世話になってな」
    「普通の店の大盛りよりありますもんね……特盛より少し多いか?」

    金額にドキドキしながら会計をすると、2人合わせて1500モラだった。この店だけ物価が大昔か?せめて3000円近くすると思ってたのに、想像の半分って。大丈夫かこの店。絶対赤字だろ。

    「美味しかったかい?」
    「あ、はい!美味しかったです……ま、また来ます」
    「いつでもいらっしゃい。お腹いっぱい食べていきなさいね」
    「……!ありがとうございます」

    老夫婦が営む璃月料理店。おばあちゃん店員の笑顔がなんだか落ち着くし、次は普通盛りで食べに来よう。
    鍾離さんと店を出ると、丁度時間を知らせるアラームが鳴り響く。鍾離さんは仕事用のスマホを取り出してアラームを止めた。

    「あ……えっと、4000モラと交通費を」
    「嗚呼……ん、丁度だ。今日は俺を指名してくれてありがとう。アヤックスとのデート楽しかったぞ。良かったらまたレンタルしてくれ」

    そう言って俺の頭をポンポンと撫でて、鍾離さんは帰ってしまった。彼氏として会ってくれたから、頭を撫でたのはサービスだったのだろう。俺が女だったら絶対今のに惚れて指名する。何はともあれ人生初のレンタル彼氏。普通に楽しかったし大学近くに何があるのか知れて凄く助かった。


    ◆❖◇◇❖◆


    レンタル彼氏をしてから1週間。相変わらず大学で馴染めないまま。家族には見栄を張って友達沢山出来てるって言った手前、ホームシックになってるって弱音を吐けなかった。また寂しさを何とかしたくて、鍾離さんが居たレンタル彼氏のサイトを開いた。

    「あ、指名料……うっ……キツイな」

    指名料1000モラ、半額が無くなったから1時間4000モラ、プラス交通費や飲食代。最悪デートは公園を散歩、コンビニで買ったジュースやお菓子とかで安く済ませれるが、それでも高い。

    「喋るの、楽しかったんだよな……」

    頻繁に利用するわけじゃ無いし、2時間は無理だが1時間なら散歩しながらホームシックの愚痴とか吐けそうだし。頼れる人が居ないから、金で安心を買った。



    無事に指名が出来て、前回と同じ公園の噴水前で待ち合わせをした。

    「指名してくれたって事は、俺の事が気に入ったのか?存外嬉しいものだな」
    「ウッ……顔が良い……」
    「ははっ!」

    真っ直ぐ目を見て微笑まれて心臓が抉れる。深呼吸して落ち着かせていると、鍾離さんが今日のデートプランを聞いてきた。

    「えっと……散歩したり、座って喋ったり……ちょっと愚痴聞いて欲しいなぁって思って……あ、飲み物とお菓子買ってきました!」
    「嗚呼分かった。この公園でゆっくり座って喋れる場所まで散歩して、それから色々喋ろう」
    「はい!」

    愚痴聞いて欲しいって聞いて嫌な顔しないの、仕事でも有難い。我ながら、強がってホームシックになったのが言えないってダサいな。
    アラームをセットし、早速デート開始。今日は良い天気で、風も程よい強さで心地好い。

    「前回教えて貰った商店街、通いやすいし凄く助かってます。教えてくれてありがとうございます!」
    「嗚呼良かった。また機会があれば、大学付近を散歩しよう」
    「はい!……?」

    これは、次の営業を掛けられているな。最近まで高校生だった世間知らずでも流石に分かるぞ。返事しちゃったけど、大丈夫だよな。強制的に予約してる事になってない?
    少し不安になりながら目的地に到着。ベンチの近くに大きな木が生えてて、良い感じの日陰になってる。座ってみると、草木の匂いが風に乗ってきて落ち着く。
    鍾離さんに飲み物を選ばせて、汚れにくいチョコレート菓子を摘みながら雑談の続きをする。

    「────で、遠距離やっぱ無理って振ったクセに、次の日には新しい彼氏とのツーショットSNSに上げてるし!」
    「それはまた……酷いな」
    「ですよね!?……まぁ、振られたのは悲しかったけど、思ったよりショック受けてなかったって事は、やっぱそんなに好きじゃなかったんだろうなぁって」

    高校生なんて、気付いたらカップルになって、気付いたら別れて、また気付いたらカップルになってる生き物。周りが彼氏彼女を作る経験をしてる中、俺は高校2年生になっても彼女を作ったことがなかった、仲が良かった男子には「まだ彼女居ないって事は童貞?」って揶揄われる始末。ムカついたが、高校生になったからと言って付き合った子とそういう事をするのは違うと思った。考え方が古いのか、恋愛面に関しては友達と話しが合わなかった。
    そして夏休み前、同じクラスの子が告白をしてきた。可愛い部類だと思う。俺は好きじゃなかったが、断るのも忍びなかったから付き合った。彼女は俺が頷くと思って無かったのか、泣きながら「嬉しい」と言ってた。俺も何だか嬉しかった……気がする。
    夏休みに入ってデートしたり、一緒に喫茶店で宿題したり、彼女の家に行ったりもした。
    今思えば彼女は俺を家に呼んだ時、ずっとソワソワしていた。キスのひとつくらい、してやるべきだったのだろう。結局留学する前、空港でもキスはしてやれなかった。

    「俺は好きじゃないのに、元カノのファーストキス貰うなんて出来なくて……結局好きって言ってあげなかったし、振られても仕方無いかなって……はぁ。1年半付き合ったんだし、正直に言ってくれれば良かったのに」
    「……」

    振られた時から今まで何ともなかったのに、目の奥がジワッと熱くなってきた。他人に話して、今頃実感が湧いたらしい。泣き顔を見られるのは恥ずかしくて俯いてたら、優しい声で名前を呼ばれて、それから肩を抱き寄せられた。

    「しょ、りさん?」
    「俺の前では我慢しなくて良い。泣いても面倒だと思わない。人肌恋しい人の為に俺が居るんだ」
    「っは……鍾離さんは、優しいなぁ」

    無意識に元カノを好きになってたんだな。鍾離さんの肩に凭れ掛かって、声を押し殺して泣き続けた。その間鍾離さんは何も喋らず、俺を抱き寄せて頭を撫でてくれてた。



    「今日のモラです。俺はもう少し休んでから帰るので、鍾離さんも気を付けて帰ってください」
    「嗚呼……」

    自分でも吃驚するくらい大号泣して目が腫れてしまい、鍾離さんに心配してる目を向けられる。でもレンタル彼氏の規約上、延長しないなら帰らなきゃいけないので、鍾離さんは俺に気を掛けながら公園の出口へと足を進めた。








    「アヤックス」
    「っ!?え、何で?俺、延長料金用意してなくて……」
    「今日俺をレンタルしたのはアヤックスだけ。つまり、今はプライベートの時間だ。先輩が泣いてる後輩を放置すると思うか?」
    「っ……ははっ、なんだそれ……鍾離さん、本当に優しいですね」

    鍾離さんはわざわざコンビニに行って、水とプラカップに入ってる氷を買って戻って来てくれたのだ。氷カップに自分のハンカチを巻いて、腫れた俺の目を冷やしてくれた。金銭が絡んでない優しさに涙がジワッと出て来たが、必死に目を強く瞑って涙を抑え込む。

    「ほ、他のお客さんにも、こんな優しくしてるんですか」
    「む」

    涙を引っ込めたいからと言って聞いていい内容では無い。申し訳なさで氷を強く押さえ付けていると、鍾離さんは「目が悪くなるぞ」と言って氷を取り上げた。

    「勿論、アヤックスだけだ」
    「え」
    「ふっ……可愛い後輩を慰めるのも先輩の役目だからな」

    なんだ、後輩だからか。心臓がバクバクしてると、優しく瞼にハンカチを綺麗に巻き直した氷カップを当てられた。

    「当たり前だが、サークル等の飲みの席で優しいフリして酔わせてくる奴は要注意だからな」
    「流石に分かりますよ!」
    「本当か?アヤックスは純粋だからな、付け込まれないか心配だ」
    「俺をなんだと!?そもそも酒飲める歳じゃないし!」
    「わざとグラスをすり替える奴も居るぞ」
    「エッ」

    飲み会には酒が飲める歳になるまで絶対参加しないと心に決めた。
    結局鍾離さんは、俺の目の腫れがマシになるまでずっと傍に居てくれた。流石に悪くてお金を払おうとしたが、延長料金を無理矢理払わす為に戻ってきた訳じゃないと言い俺の頭を撫でてから帰って行った。
    スマートで優しくて、案外男もいけるかもしれないとか魔が差してしまった。絶対別れたばっかりのところに優しくされたから、勘違いしてるだけだ。明日から切り替えて大学生として頑張ろう。


    ◆❖◇◇❖◆


    鍾離さんと居ると安心できるし、喋るのが楽しくて月2〜3の頻度でレンタルしていた。でも当たり前に学生の俺じゃ毎月数万の出費は痛く、ホームシックも落ち着いてきたしレンタル頻度を下げた。今じゃ月1の頻度。鍾離さんは会う度に「もう会えないんじゃないかと思っていた」と安堵した顔で言う。きっと、他のお客さんにも言ってるんだろう。その顔で可愛い事を言われると、今回で最後にしようと思ってる気持ちが何度揺らいだことか。でも今回で本当に最後にする。最後だって言いに来たんだ。金は無いからカラオケだけど。

    「璃月も冬は寒いや。雪降る程じゃないけど」
    「冬国は毎年雪が凄いらしいな」
    「もう雪積もってるみたい。父さんが除雪が面倒臭いって嘆いてたよ」

    慣れたもので、いつの間にかタメ口で話してた。それでも鍾離さんは怒らないし、距離が縮まったって嬉しそうだった。レンタルを辞めるって伝えるのが凄く心苦しいが、仕方無い。1番は金が無い。次は研究に力を入れたい。本当に付き合ってる訳でも無い人と時間を無駄にするくらいなら、ちゃんと結果を出して、鍾離さんの自慢の後輩にならないと。

    「あの、さ」
    「ん?どうした?」
    「俺……もう、レンタルするの、辞めるつもり」
    「っ…………俺の何処か、気に入らない所でもあったのか?レビューに書いてくれれば改善を」
    「違うんだ!本当に!鍾離さんは凄く優しくて、一緒にいて凄く安心出来たよ」

    いくら金を貰ってるからって、俺の事を甘やかし過ぎだ。これ以上ズブズブにハマってしまったら、帰国する時に辛くなる。金の切れ目が縁の切れ目って言うし、俺には金が無いからこの関係はこれで最後。

    「今までありがとう。おかげで上手くやっていける様になったよ。本当はもっと鍾離さんと話したかったけど、普通にお金がキツくて」
    「なら……アヤックスが良ければ、プライベートで会わないか?」
    「え、で、でも、プライベートで会うのは駄目なんじゃ?」
    「大学の先輩後輩でもある。レンタル以外で会っても問題は無いだろう?」
    「そ……かぁ?」

    気軽に慣れてる人と会えるのは嬉しい事だ。でも、それがバレて鍾離さんがクビになったら責任が取れない。
    どうしようかウンウン唸っていたら、鍾離さんに左手をギュッと握られて心臓が飛び跳ねた。手は何度も繋いだ事はあるが、こんなに強く握られたのは初めてだ。

    「アヤックス、頼む。俺はまだ、お前と一緒に居たい」
    「ホア……ハッ、で、でも……」
    「っ……すまない。レンタル中に無理に強請る様な行為は禁止されているのにな……聞かなかった事にしてくれ」
    「あ……」

    名残惜しく離された手。鍾離さんの顔が凄く寂しそうで、案の定決心が揺らいでしまった。
    自分のスマホを取り出し、チャットアプリのQRコードを表示させ鍾離さんに見せる。鍾離さんは理解が出来てないらしく、細長の綺麗な目を真ん丸にして俺の顔をゆっくり見詰めた。

    「俺のアカウント……本当は、俺も鍾離さんともっと話したい……」
    「……!嗚呼」

    目を細めて、頬をほんのり染めて、なのにニヤけるのを必死に我慢してる顔が可愛くて、こっちまで照れてしまう。
    鍾離さんはチャットアプリはあまり使わないのか、友達追加をするのに手間取っていた。いつもスマートで優しかったからか、たまに見れるギャップが特別感あって嬉しくなる。

    (鍾離さんの連絡先……)

    追加出来たのか確認で適当に送りあったスタンプが1個ずつ並んでいる。鍾離さんは龍が好きなのか、デフォルメイラストの龍が你好ニーハオって文字を手に抱えてるスタンプ。俺はデフォルメイラストの鯨が手を振ってるスタンプ。
    ジワジワと後から来る嬉しさ。鍾離さんは誠実だから、客と個人的な連絡先を交換したりしないだろうし、後輩で良かったと心から思う。

    「いつでも連絡してくれ」
    「うん!……へへ」


    ◆❖◇◇❖◆


    アヤックスに連絡先を教えてから2日が経った。嬉しそうにしていたから直ぐにでも連絡が来ると思ったのに、スタンプのひとつも来ない。此方から連絡しようかと思ったが、営業を掛けているなどと勘違いされたくない。

    「まさかブロック……」

    ブロックされてるか確認したが問題は無さそうだ。安堵したが、何故連絡してくれないのか。他の客は店専用アカウントに煩い程連絡をしてくると言うのに。
    変に焦ってしまい、プライベート用のスマホの画面に通知が映される度に確認をし、アヤックスではないと落ち込んだ。
    いっその事、偶然を装って大学前で待ち伏せをしようかと思ったが、それこそストーカーと勘違いされたら二度と会えなくなってしまう。

    「アヤックス……」

    アヤックスが初めてレンタル彼氏を予約した日、男が利用する事が珍しかった上、異国の青年。良いカモになるんじゃないか?と自分が行くと名乗り出る者が多かった。自分の固定客を作るのは悪い事では無いが、高校を卒業したばかりの子に異国の地で嫌な思いはして欲しくなかった。
    幸い俺は人気上位。アヤックスの住所を見て土地勘があるから俺が行くと言えば、アッサリと承諾された。
    そして初めてのデートの日。前もって伝えて貰っていた場所に行けば、横顔が綺麗な異国の青年がベンチに座っている。直ぐにアヤックスだと分かって近付き、遠くをボーッと見詰めていたので顔を覗き込めば、顔を真っ赤にしてキョドっていた。可愛いと思った。デートプランを聞けば大学の後輩でもあると知り、ますます璃月で困らない様に手を貸してやりたい気持ちになった。
    初めは、この子は男色家だろうから望むデートをして楽しんでもらわないと。そう思って意気込んで来たのに、大学周辺の案内をして欲しいという。大学の友達に聞けばいい事を、何故レンタル彼氏に?と思ったが、聞かずにオススメの料理店を教えると伝えたら、全面に嬉しいを醸し出してお礼を言われた。こんな素直で可愛い後輩に会ったのはいつぶりだろうか。出来れば卒業する前に会いたかったと思いながら、アヤックスの手を取った。
    いつも彼女相手にしている事を癖でやってしまい焦ってアヤックスの顔を見ると、なんでもない様な澄まし顔をしているのに真っ赤になっていた。なんと言えばいいのか……。彼女が真っ赤になっても何も思わなかったのに、アヤックスは、こう、大事にしてやりたい?気持ちになった。手を離すのも変なのでそのまま商店街へ連れて行って、オススメを時間が許す限り紹介した。楽しそうに話しを聞いてくれるのが嬉しくなり一方的に喋ってしまったが、アヤックスは満足そうな顔をしてくれて俺としても一安心だった。

    「辛いのは大丈夫か聞いてやるべきだったが……健気に食べるアヤックスが可愛かったな」

    たまに覗く赤い舌をガン見してしまった。アヤックスが視線に鈍感で良かったとつくづく思う。でないと卑猥な目で見てきたとクレームになる所だった。
    レンタル終了のアラームが鳴った後、アヤックスが寂しそうな顔をしていたので、普段は何度もリピートしてくれる彼女にだけする、“頭ポンポン”をしてデートは終わった。もしかしたら、また会えるかもしれないと期待していたら、今度は指名でレンタルしてくれた。留学して来たばかりで大変だろうに。嬉しくて同じ待ち合わせ場所に行ってデートプランを聞けば、愚痴を聞いて欲しいという。
    そこで初めて大学に馴染んでない事を知り、何でレンタル彼氏を使ったのかも知った。泣くのを我慢しているのを見て、せめてレンタル彼氏の俺の前では気楽になって欲しかった。
    肩を抱き寄せて頭を撫でれば、留学してからの不安や悲しみが涙となって沢山流れ出た。小さく震えるアヤックスが弱々しく見えて、甘やかしてやりたくて仕方無かった。本当は禁止されている事なのに、レンタル終了後も泣いてるアヤックスに寄り添った。案の定怒られてしまったが、後悔はしていない。あのままアヤックスを放置して帰っていた方が確実に後悔していた。

    俺があの日帰らずに傍に居たからかは分からないが、アヤックスは度々俺を指名してくれる様になった。金銭的に厳しいだろうに、俺に会いたかったと言って。俺としても、可愛い後輩の面倒を見れるのも楽しかった。たまに公園のベンチに座って肩を密着させてるだけで、俺の心も安らいだ。我慢出来ずに愚痴を零すのも愛おしく思えた。
    だがやはり学生。月に数万の出費が厳しかったのだろう。レンタル頻度が急に下がり、仕方無いと思いつつも、何故か不安になって彼女と居ても上の空。彼女達からは、俺が疲れてるんじゃないかと心配してる様な文面のクレームを入れられてしまった。今までこんな事が無かった為、暫く休んだ方が良いと言われた。それでも、休んでる間にアヤックスが俺を指名してきたらどうする?休みだと知って他の人をレンタルしたと知ったら、俺はどうなる?
    俺が客にハマってしまうなんて予想外で、自分でも戸惑った。毎日アヤックスからの指名が無いか確認する日々。
    やっとレンタルしてくれた。それなのに、レンタルを辞めるという。気付けば年越し前になっていた。アヤックスと出会ったのは4月後半。長い付き合いだったのではないだろうか。アヤックスの顔を見ると、俺と同じ辛そうな顔をしていた。
    思い切って連絡先を聞いたが、まさか本当に交換してくれるとは思わなかった。嬉しかった。これで気軽にアヤックスと話せる。

    「現実は上手くいかないな……」

    連絡先を交換してから、気付けば2週間。すっかり年も明けてしまった。もうこのまま、アヤックスとは連絡が付かないんだと落ち込んでいると、チャットアプリの通知音が鳴った。今回も違うのだろうと期待せずスマホの画面を見ると、アヤックスからスタンプが送られて来ていた。嬉しさのあまり直ぐにチャットを開いてしまったが、駆け引きなんて考える余裕は今の俺には無い。

    「ふっ……その鯨、お気に入りなんだな」

    「新年快乐」と、鯨のスタンプで新年を祝ってくれていた。嬉しくて口角が自然と上がっていると、故郷に1週間程帰省しており、先程寮に戻ったばかりだという。連絡しなかったのは、荷造りをしたり帰省していたりで忙しかったからなのだと分かり、安堵の深い溜め息が出た。

    『お土産買ってきたので、良かったら受け取ってくれませんか?鍾離さんの都合が着く日に合わせます』
    「お土産……」

    アヤックスから会いたいと言ってくれた。これがどれ程嬉しい事か。例え都合が悪くても、アヤックスに会う為に無理矢理都合良くしてやる。
    明日以降なら大丈夫だと連絡を入れると直ぐに既読が付き、明日の午後に会う事が決まった。
    辛抱強く待った甲斐があった。久し振りにアヤックスに会えるし、気合を入れた服にしないと。クローゼットを開けて1人ファッションショーを3時間近くしてしまったが、これで服装は完璧な筈だ。


    ◆❖◇◇❖◆


    翌日。約束のカフェに向かうと、既にアヤックスは店の前で待っていた。

    「寒かっただろ?中で待っててくれても良かったんだぞ?」
    「へへ……早く鍾離さんに会いたくて……」
    「っ」

    寒さで鼻と頬が赤くなってるのか、照れてるのか。久し振りに会えたアヤックスの可愛さを全面に浴びながら、一緒にカフェへ入った。

    「昼は食べたか?」
    「ううん。まだ」
    「今日は俺が奢るから、好きなのを頼むといい」
    「エッ、いや、奢って欲しくてお土産持ってきた訳じゃ……」
    「もうレンタル関係では無いからな。たまには俺に奢らせてくれ」

    アヤックスは申し訳なさそうにしていたが、無理矢理押し切って奢らせて貰う事になった。もしかしたら、アヤックスは押しに弱いのかもしれない。邪な気持ちを抱いてしまうが、そんな気持ちは捨て置いてアヤックスの話しを聞く。
    どうやら、故郷に居る兄弟達と楽しく遊んだらしい。殆ど遊んだ記憶しかないそうだが、アヤックスが幸せそうな顔をしていて心が暖かくなる感覚になった。

    (伝えるべきか……いや、悩む必要は無いと昨晩決めただろ)

    ちゃんと奢る事に成功し、共に喫茶店を出てアヤックスの名を呼ぶ。別れる流れだったのでキョトンとしているが、気にせず少し散歩しようと誘った。

    「勿論。実はもっと話したかったんだ」
    「そうか。俺も話したい事があるんだ」
    「え、なになに?」

    無邪気に笑うアヤックス。その顔がいっとう好きだ。
    気持ちを伝えるタイミングを伺いながら、待ち合わせ場所に良く使っていた公園に来た。アヤックスは足元を見て「雪降ったの?」と殆ど溶けた雪を踏んで遊んでいる。

    「嗚呼、昨晩少しな。冬国に負けるが」
    「あっはは!確かに。この程度の雪じゃ、泥だらけの雪だるましか作れないや」

    思えば雪だるまを作った事が無い。アヤックスは足元の雪を踏んで満足したのか、俺の隣に小走りで寄って来た。告白をするなら、このタイミングだろうか。

    「アヤックス」
    「ん〜?」
    「……アヤックス、俺と付き合って欲しい」
    「……??え?」

    予想通りではあるが、アヤックスは大困惑している。それでも続けて、気付けばアヤックスに会える日を心待ちにし、連絡先を交換した後の不安も素直に伝えた。自分自身、この告白は気持ちが悪いと思う。アヤックスは俺の気持ちを否定しないものの、何と言えば良いのか分からない顔をしている。

    「っ……すまない、困らせたな。アヤックスがそういう・・・・理由でレンタルしていた訳じゃないと分かってるんだが……」
    「お、あ、俺、パニックってて頭が上手く動いてないんだけど、つまり、好きって事?」
    「……嗚呼」

    頷くと、アヤックスは顔を赤くして忙しなく周りをキョロキョロ見渡し、足踏みをして手を組んでいる。ここまでパニックになるのは予想しておらず、少し申し訳なくなってきた。今ならまだ先輩後輩に戻れるかもしれない。忘れてくれと口を開けば、被せるように「俺でよければ!」と言われた。今度は俺の脳の理解が追い付いていない。振られると思っていたので言葉が詰まる。

    「恋心とかまだ良く分からないんだけどさ、鍾離さんと一緒に居ると落ち着くんだ。もっと傍に居て欲しいって思う……多分、好きって部類の感情だろ?」
    「そう、だと思う……」
    「鍾離さんも歯切れ悪くなる事あるんだね」
    「正直に言うと、俺も恋心が良く分からないんだ。ストーカー染みた思考になってないか不安になる」
    「ふはっ!」

    アヤックスはケラケラ笑うが、本当にストーカーにならない様に気を付けた。俺は仕事でとは言え、アヤックスの通う大学と生活範囲を知っているのだ。偶然を装って会いに行こうとした事が何度あったか。ちゃんと理性が働いて安心する。

    「一緒に恋愛してこうよ。お互い同性好きになったの初めてだろうし、手探りでさ」
    「嗚呼。もしこれが本当の恋心だと分かったら、一緒に雪だるまを作りたい」
    「雪だるま?」
    「兄弟と雪だるまを作ったと聞いて羨ましくなった」
    「勿論!鍾離さんも可愛い事言うんだね!」

    アヤックスの嬉しそうな顔を見て、勇気を出して告白して良かったと心の底から思う。
    少しだけ散歩するつもりだったがもっと一緒に居たかったので、いつものベンチで腕を組んで相手の好いた部分を教えあった。
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    nae_purin

    MOURNINGモブに色々改造されて先生に救出されてほっとするも(まだ公子の威厳ギリ保ってる)こんな体みないで!って絶望して(先生に見られてもう自分が公子に相応しくないって思ってしまって)鬱になってふらっと出た徘徊先で旅人にぼろぼろの姿見られてガン泣きしながら迎えにきた先生に回収されて欲しい、話です。供養。
     鍾離をの洞天を抜け出し、行く先もなく歩く。かろうじて履いたスラックスと、肩にひっかけただけの真っ白のシャツ。見下ろした自分の体は見慣れた傷しかない。鍾離に直してもらったばかりのまっさらな体。治療の際、ひとつひとつ鍾離の指先が辿っていったその傷たちはもうないはずなのに、隠すように振るえる指先シャツのボタンを留める。
     踏みしめた地面に転がる石を感じながら足元を見る。洞天から転がり出た先がどこにつながるのか考える暇もなかった。呆然としたまま辺りを見回す。先ほどから見える木々は黄金に色付き、璃月の地であることは伺える。しかし2人ほどが通れる程度の道は舗装されているともいえず、裸足で歩くような道ではないことだけが確かだ。差し込む光を遮る木の葉が影をつくり道を彩る。木漏れ日の隙間から除く青空は雲一つなく、暖かい。常であれば息をのむ景色だったのかもしれない。けれど、いまのタルタリヤにとって景色がどうなどとは関係無かった。ただ、この道の先を進めば鍾離の視界から少しでも遠くに行けると盲目的に信じているだけだ。足を傷つける小石が意識の端に引っかかっては消えてゆく。
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