無自覚萌先生[呼び名]
「目金君さあ。そろそろ僕のことも先生じゃなくって君付けで呼んでくれても良いんじゃ無いかな」
「……一応ですが、萌先生だけで無く野部流来人先生も先生呼びをさせてもらっていますが」
「ノベルは友達っていうより尊敬する先生って意識が強いだろう?けど僕らは二人きりで会う機会だって他のメンバーと比べても多い訳だし、もっと気さくに呼んでくれてもいいと思うんだけど」
「そんな急に言われましても。……漫画、君?」
「…………。そこは萌君じゃ駄目無いのかい?」
「そんなっ!?敬愛する漫画萌先生を君付けで呼んだ挙句下の名前で呼ぶだなんて!絶対に出来ません!」
「うーーーん、そこまで言うなら仕方がないか。目金君の相手へのリスペクトを忘れない精神は好きだけど、苗字呼びに変わるのは距離感あってやだなあ。やっぱり先生呼びで良いよ。今の話忘れて」
「何だったんですか一体……」
[距離感]
「目金君ってさあ、人との距離感近いよね」
「……。そうですかね」
「そうさ。この間の突発で開かれた格ゲー大会の時なんか、闘馬と抱き合っていただろう?」
「抱き合うって。そりゃあ秋葉名戸サッカー部を誇る格ゲーの猛者達を一年生が、それもゲーム内で冷遇されているキャラで5タテするという最高の瞬間に立ち会ったとなれば、その勝者を讃える流れにはなるじゃないですか」
「だからってハグはやり過ぎだと思うなあ。闘馬が何も思わなかったからいいけれど、もしアイツのパーソナルスペースが広かった場合、悪意が無いとはいえ嫌がらせに成りかねなかっただろう?」
「…………あの、萌先生」
「なんだい目金君」
「貴方、この間僕のこと膝に乗せようとしてましたよね?サイズ感を測りたいという良く分からない理由で」
「え?その話今関係ある?」
「関係するに決まっているでしょう!人に散々パーソナルスペースが如何やらと説いていますが、当の本人が全く気にかけていないじゃ無いですか!」
「そうは言っても、目金君パーソナルスペース狭いだろう?特に気を許した相手なら見ているこっちが驚く位狭いじゃ無いか」
「……それは、そうかも知れませんが。いや、ですがっ。友人を膝に乗せるという行為を当然受け入れて貰えるという前提で話を進めてきましたよね?そっちの方がよっぽど人との距離感が可笑しいんじゃ無いですかねえ?」
「いや、そんな事目金君以外にする訳ないじゃないか」
「…………」
「僕は君とは違って誰彼構わず距離が近いってわけじゃ無いんだよ。分かったかい?」
「……ええ、よく分かりました」
「なら良かったよ」
「萌先生は、何かがおかしいという事が」
「えっ、何で!?」
[フォトスポット]
「おや、萌先生見て下さい。あそこにフォトスポットがありますよ」
「本当だ。ハートのオブジェに紐が吊るされた鐘。十中八九、恋人同士で撮ることを想定されている類の物だね。……それにしては、見知った顔が集まっている気はするけど」
「秋葉名戸の皆さんってああいう悪ノリ好きですよねえ」
「普段はそういうわけでも無いんだけど、旅先だと少し浮き足立つんだろうね」
「……折角ですし、僕達も撮ってもらいますか」
「あはは!良いね、行こう行こう!」
▽
「__はい、これで如何かな?」
「ええ、バッチリです。野部流先生、有難うございます」
「うわあ、こうして写真にされちゃうと悪ノリ感が強く出るね。撮らない方が良かったかな」
「おや、乗り気だった割に随分とネガティヴな事を言うのですね。僕はそういう可笑しさごと楽しむシチュエーションだと思いますよ」
「ハハハ、僕も目金君と同じ考えかな。そうだ目金君、まんがかだけとじゃなく、僕とも写真を撮らないかい?」
「野部流来人先生とですか!?折角のツーショットがカップル用フォトスポットというのは少し引っかかりますが、先生さえ良ければ是非__」
「駄目」
「え?」「へ?」
「目金君はもう僕と撮っただろう?これ以上長居すると、他のお客さんにも迷惑だ。早く移動しよう」
「いえ、ですが……」
「……あー、目金君。少し離れたところにも写真映えするエリアがあるらしいんだ。僕らはそこで撮ろうか。……構わないね、まんがか」
「僕に伺いを立てる必要なんて無いよ。……行っておいで目金君」
「!はいっ。あ、僕先に行って場所見てきます!」
「ああ、頼んだよ目金君」
「……まんがか」
「なんだいノベル」
「『何故自分がそうしたいと思ったのか』。それについて、君は一度真剣に考えた方がいい」
「……善処するよ」
[無自覚]
「萌先生って僕のこと大分好きですよね」
「へ?そりゃまあ友人として君のことはかなり好いている自覚はあるけど」
「あー、その。そう言うことではなくてですね」
「……えっ!?まさか僕がそっちの意味で目金君の事が好きだと言いたいのかい?無い無い!あり得ないよ!大体、僕に彼女がいる事くらい君だって知ってるだろう?」
「それは当然知っていますが、萌先生彼女出来ても僕と遊ぶ頻度全然減らないじゃないですか。優先順位可笑しいですよ」
「別にそれは向こうだって了承してるし、可笑しくないよ。今日だって笑顔で送り出してくれたよ」
「えっ、今日彼女さんと会ってたんですか!?」
「うん。遊ぶ約束してたけど目金君から連絡きたから断ってきた」
「嘘でしょう……」
「一体何を勘違いしてるのか知らないけど、恋人よりも友人を優先する事の何がそんなにおかしいのさ」
「友人全般を優先するならまだしも、萌先生は僕一人を優先し過ぎなんですよ。今回の件もそうですが、以前秋葉原で萌先生と偶然お会いした時、貴方彼女の事ほったらかしにして僕の買い物についてきましたよね?絶対可笑しいですよ!」
「あー、あったねそんな事。あの子は全然理解してくれなくてよくキレられたなー。まあすぐ別れたけど」
「その元カノさんが普通なんですよ。萌先生は僕への過度な関心を抑えるか、彼女と別れ……いや、この選択肢は無しですね。兎に角!最優先といかなくてもお付き合いしている相手をもっと大事に扱うべきです!」
「……それ、目金君にどうこう言われる話じゃないよね」
「っ!それは、そうですが……」
「第一、今の彼女は僕の行動に理解を示してくれてるんだから、それで良いだろう?何も浮気をしているわけじゃないんだからさ」
「そういう問題では無いと思うのですが……」
「目金君が何を問題視しているのかよく分からないけど、僕は彼女持ちのヘテロだし、友人として君のことは好いている。彼女と理解ある人だから今のままで全く問題はないよ」
「うーん……。まあ、僕は今のままで問題ありませんが、萌先生はそれで良いんですね?」
「目金君にしては珍しいくらいにしつこいね。良いっていってるだろう?」
「なら僕からこれ以上言うことはありませんね。……後悔しても知りませんよ」
「今日の目金君はずっと変なこと言うね。後悔なんて、するわけがないよ」
[10年越しの自覚]
「何てことがありました」
「何だよまんがか。急にどうした」
「いやまさか僕だって信じられなかったよ。十年だよ十年。それだけ長い時間があったら気付いたって良くないかい?いやでもさあ、気付けるわけないじゃん。僕彼女居たんだよ?女の子抱けたんだよ?ならこの感情は友愛だって思うのが普通だと思わないかい?」
「……?お前、まさか」
「ねえ、ゲームき」
「やめろお前これ以上喋るな」
「僕目金君のこと好きだって今更自覚しちゃったんだけどさあ、どうすれば良いと思う?」
「五月蝿え黙れ馬鹿!んな事俺に聞いてきてんじゃねえ!」
「そんなこと言わないでさあ〜!メガネハッカーズは僕と目金君とゲームきだけのチームなんだから話くらい聞いてくれたって良いじゃないか〜!」
「その三人中二人の、それも野郎まみれの恋愛模様なんざ知りたくも聞きたくもねえっつうの!」
「良いのかい?話を聞いてくれなかったら僕は報われない片思いをしている成人男性のロールプレイをアジト内で永遠とし続けるよ」
「最悪の脅しじゃねえか……」
「それで、話を聞いてくれる気にはなったかい?」
「もういいからさっさと話せよ。つうかお前、何で今になってメガネのこと好きだって自覚したんだよ」
「それはこの間二人きりで飲んでた時……ってちょっと待って?」
「あ?」
「今更だけど何でゲームきは僕が目金君のこと好きだっていって全く驚かないんだい?」
「んなの、秋葉名戸サッカー部の連中は全員お前がメガネのこと好きだって分かってたぞ。お前が自覚する前からな」
「えっ!?全員……えっ!?!?」
「自覚してねえだろうが、お前学生時代からメガネへの執着剥き出しだったし、俺とかノベルはその被害をモロに喰らってたからな。被害に遭ってねえ奴も俺らの様子を見て『まんがかのメガネに対する執着心は並大抵のもんじゃねえ』っていうのが共通認識だったな」
「嘘だろう……」
「つうわけで、お前がメガネの事好きだって話は引っかかりどころでも何でもねえからさっさと顛末を話しやがれ」
「それ話聞く態度じゃなくない?まあ良いけどさあ。……それで、目金君とサシ飲みしてた時の話なんだけどさ。あの日僕めちゃくちゃ疲れてて、アルコールの回りが早かったんだよね。それで僕、目金君にダル絡みしちゃってさあ。何話したか覚えてないけど、目金君困り笑いしてこう言ったんだよね」
『萌先生って、本当に僕のこと好きですよね』
「__って。それ聞いてさ、目金君いつもそれ言うなーって笑ってたんだけどさ。ふと気付いちゃったんだよね。『あれ僕って相当目金君のこと好きじゃ無い?』って」
「遅えよ」
「いやだってさあ〜」
「あぁ分かった分かった!管巻かねえでさっさと話切っちまえ」
「ちぇっ、ゲームきは冷たいなあ。……それで、二人で飲んだ日から色々と考えてみたんだ。確かに僕の感情は男女間なら付き合うなり告白なりしてないと可笑しいものだ」
「答え出てんじゃねえか」
「そうじゃなくてさ。目金君へ向ける感情の大きさは確かに否定できるものでは無いけど、それだけじゃまだ友愛の域を出ないだろう?だからただの友人なら気にならない筈のもしもを色々と考える事にしたんだ。手始めに、もし目金君に彼女が出来たらどう思うのか想像してみたんだ。そしたらさあ……」
「何だよ」
「ふっつーに吐きそうになったよね」
「重症じゃねえか」
「いやでもまだ友人に対する過度な独占欲の可能性も捨てきれないだろう?」
「その時点で諦めろよもう」
「だから次は目金君をそう言う目で見れるのか、物理的に試してみたんだ」
「ーっもう分かったそれ以上話すな!」
「そしたら普通に抜けちゃってさあ。もうビックリだよね」
「話すなっつっただろうが!」
「ごめんこれだけは絶対共有したかった。僕だって抱えきれないよ、十年来の友人で抜けただなんて」
「二度も言うんじゃねえ……」
「こうなったら流石に自覚するしか無いなーって受け入れたんだけどさ。幾ら恋愛感情を自覚したからって今更どうすることも出来ないし、これまで通り仲間として普通に接し続けようって思ってたんだよ。だけどさあ」
「……ああ。それでお前今日やたらと挙動不審だったのか」
「だって、好きな子とこんな至近距離で話して正気で居られるわけがなく無い?僕悪く無いよね!?」
「そうは言っても相手はメガネだぞ」
「目金君だからだよ!」
「……それで?どうすんだよまんがか」
「何がだい?」
「メガネのやつ、もう時期昼飯から帰ってくるだろ。正気保てんのか?」
「…………僕もご飯休憩行ってきて良いかな?」
「てめえさっきそこで飯済ませただろうが」
「そんなこと言ったって、ゲームきが変な事言うから意識しちゃったじゃ無いか!」
「どうせ俺が言わなくても勝手に意識してただろ」
「あーもう無理僕一回外行ってくる!」
「あってめえ!仕事サボってんじゃねえ!……ったく。これからどーすんだよ、あいつ」
「ただいま戻りました。ってあれ、萌先生は休憩中ですか」
「おいメガネ」
「何ですか芸夢君」
「まんがかの奴、ようやくお前への思いを自覚したかと思えばクッソ面倒になりやがったぞ。もうお前から告白してやれよ」
「ええ?うーーーん。……今日の萌先生、とっても可愛らしいじゃないですか」
「は?」
「だからもう少し、眺めていたいんですよね」
「……。っはぁー!もう知らねえ!好きにしろ!」