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    小栗ビュン

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    小栗ビュン

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    20231104牛天ワンライ お題「片道切符」

    #牛天
    niuTian

    片道切符振り返る日が来るとしたら、それはいつの日になるだろうか。そんなことを考える間もなく、成人を迎え、走り続けている。高校時代に誰かに惹かれることを知って、そのまま互いを受け入れた。そして共有していたものを卒業と同時に分かち、互いの道を突き詰めるべく、別な場所で生きることを選んだのだった。

    自分の都合で恋人と会うことが出来ない生活をしている。それこそ互いの生き方を振り返らなければ変わることがないかもしれない。恋人の繁忙期に会うことはほぼかなわない。自分の都合は所属団体のスケジュール次第だ。所属しているところに従うことが自分のためにしか思えない。そこが自分の「わがまま」であり、会えない時期というのが互いの「わがまま」となる。

    互いに上手くいかない時、相手の努力が実った時、そしてセンスが輝いた時それぞれに、「わがまま」を持っていていたからこそ関係を保てていたのだろうとも思える。相手に執着してしまえば、その時点で互いに歩むことが終わってしまうからだ。「欲」を出してしまえば、関係が壊れるということを互いに話さずとも悟っていた。そこが高校生の時から持っていた、互いの性分の違いがうまく噛み合っていたのだろう。

    「会いたい」などという言葉を「欲」としてタイミングを間違えれば、相手の何よりも努力すべきところから、恋人として目を背けることになる。

    愛することを考えた時、まずは互いの選んだものを否定しないことを決めたのが若利だった。逆に相手が選んだものに対して、感想を素直に伝えることが、自分なりの節介になる程度に思っていたのが覚だった。互いに何かを言われても、大抵のことでは怒らない。自分を熟知して上で相手を愛することが噛み合ったのがこのふたりだった。



    「クリスマスが終わったら日本に帰るね。」

    「ああ、母がお前のショコラを楽しみにしている。」

    関係を壊すのが怖いから、「わがまま」を押し付けないのではない。若い間は、互いの尊厳を守ることで生きてもいいのではないかと、ふたりで過ごすうちに思えてきたことだった。互いの関係を振り返る日が来た時、それは自分の立場が変わる日だ。新しい道を選ぶ時となる。その日まで、互いの関係を深めたいと思うからこそ、突き進む姿を見守ることに決めたのだ。愛したいから、自分への厳しさに素直になる。そこからまた先へ進む日が来たら、打ち明ければいいだけのこと。

    「覚。」

    「うん?」

    若利はスマートフォンに寄せた口元を僅かに綻ばせた。片方は日本、片方はパリにいる。時差を考えなくても相手の時間を読むことができるようになった。

    「落ち着いたら、家を建てよう。」

    「あはは!どうしたの!!」

    振り返るまでにはいかない。けれど、恋人として在りたい姿は少しだけ見えた気がした。若利が続けた。

    「帰る場所ぐらいあってもいいだろう。」

    「、」

    卒業した日、負けたあの日から、まるで片道切符を手にしたように走ってきた。走ってきたなりに、留まる場所を作ってもいいだろう。恋人の存在を構えていられる場所があってもいいのではないかと思えるようになったのだった。

    「若利くん、新しいプロポーズ?どこで覚えたの。」

    勿論プロポーズなどと意識して言ったわけではなかった。しかし、否定する必要もない。若利は、ふっと目を細めて笑った。

    「オリンピックが終わったら、結婚しよう。」

    片道切符は、一枚ではなかった。互いに一枚ずつ持って度だった。その切符はまだ手にしているままだ。

    片道切符。

    それは寂しいものでも、自分を追い込むだけのものでもない。行き先が互いに同じものであれば、後は距離だけの問題なのだから。
    己を悟り、互いを思うことにズレがなかった関係は強かった。覚の返事はここで述べるまでもなく、世界的に自由になりつつある流れに乗って、平然と答えるふたりの姿がメディアに溢れたのだった。



    終わり
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    小栗ビュン

    DONE東西真ん中バースデー!!
    大人時代からさらに十年後の東峰旭とモブ女子の会話。
    十年後のバースデー「東峰さん、お疲れ様でした。」

    春の新作の発表を無事に終えることができて、そのお披露目ショウが終わった会場でただ立ち尽くしていた時だった。後輩の女子社員から労いの言葉を貰い、ふと我にかえる。

    「ありがとう、細かいところも手伝ってもらえて、本当に助かった。」

    いつの間にか後輩が出来て、追い抜かれたりする焦りも感じて、あっという間の十年間だった。ヘーゼルナッツのような色の柔らかい髪が、微笑んだ際に揺れた。

    「お疲れ様でした、先輩。」

    「ありがとう。」

    それからちらほらと後輩がやってくる。片付けを手伝ってくれる事務所の後輩達を見ていると、つい最近まで一緒にコートの中にいたあいつらを思い出す。あの時から、倍の年齢を生きている。三十代はあっという間だなんて言うけれど、全くその通りだった。俺は最初に入ったデザイン事務所に籍を置きながら、フリーの仕事も手がけて生きている。アパレルデザイナーだけあって、皆個性的な服で働いている姿を見ると、あの二色で統一されたユニフォームを着た排球男児が恋しくなるのは何故だろう。大きな仕事を終えた日に限って、何故懐かしむ感情が強くなるのだろう。
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