桃「楽俊!!」
待ち合わせ場所に友を見つけると、陽子は手を上げた。歩みを速め、ひとつに束ねた赤い髪が揺れる。
名を呼ばれたねずみは小さな手で振り返し、久しぶりだな、と笑った。
手頃な食堂に入り、何品か注文する。
美味しいと言い合いながら始まった互いの近況報告は、注文した食事が食卓に並んでも止まる事はない。
延王と延台輔がお忍びで突然来るので心臓に悪い、と楽俊が嘆くと陽子は笑う。
此の所、景麒のお小言を交わす術がわかってきた、と陽子がしたり顔をすれば、楽俊は苦笑した。
互いの本音と少しの背伸びは、鳥の声から聞くよりも感じ取れるけれど、口にすることはない。
する必要は、互いになかった。
またな、と別れ際、陽子は持っていた包みを楽俊に渡す。
「待ち合わせ場所に行く途中、見かけて買ったんだ。お土産に持って行ってほしい」
「気を遣わせて悪いな」
「気にしないで。懐かしくなって買っただけだから」
それじゃあ、またね、と陽子を見送ると、楽俊は包を広げた。
またな、と別れ際、陽子は持っていた包みを楽俊に渡す。
「待ち合わせ場所に行く途中、見かけて買ったんだ。お土産に持って行ってほしい」
「気を遣わせて悪いな」
「気にしないで。懐かしくなって買っただけだから」
それじゃあ、またね、と陽子を見送ると、楽俊は包を広げた。
赤い色の付いた桃が数個、ころころと入っている。
雨の中、倒れていた陽子を介抱した時に、思いを馳せる。
満身創痍の陽子に渡した桃煮は、心を閉ざしていた陽子に美味さを感じていただろうか。
過酷であったであろう当時を懐かしいと言う事ができる今の陽子の強さに、楽俊は微笑を浮かべる。
「おいらももっと頑張らなきゃな」
桃から立ち昇る芳醇の香りを、楽俊は胸いっぱいに吸い込んだ。