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    nae_purin

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    nae_purin

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    弓を打つタル
    供養。

    #鍾タル
    zhongchi

     野次が飛ぶ中一人弓を構えたタルタリヤに緊張は見えない。ただ気分がいいように微笑を浮かべて手元の弓を構えていた。「はやく」と外野の声にはいはいと返す声はずいぶん気楽だ。タルタリヤと真反対の壁際に男が立つ。その手には一枚のモラが握られていて、あれが的となるらしい。なんどか手遊びのようにコインをはじいている。
    「準備はいいか?」
    「いつでもいいよ」
     ふふん、と鼻を鳴らして弓を見せ、矢を一つ取り出す。
     周囲の熱が上がる。かの執行官の腕前がどれほどのものか見極めようと人の目が集まる。「当たるわけがない」「いいや当たるさ」賭け事を始めるテーブルもあるほどだ。鍾離は一人残された席で酒を飲みながらその様子を眺めていた。
    「じゃあ、いくぜ」
     男が腕だけ伸ばして、コインを親指の第二関節上へと置いた。おぉ、とついに周囲が体を乗り出す。騒がしい酒場が一層騒がしくなった。
    タルタリヤが、すぅと短く息を吸う。そしてごくごく自然な動作で矢を番え、両腕を胸の高さまで掲げる。柔らかくも、固くもない深海の瞳はただただ前を向くばかり。力を入れているようにも思えない。鍾離はわずかに目を見開いた。あたりの喧騒が遠のいて、鍾離の視界にはたった一人の人間しか見えなくなる。
     瞬間。
     キン、と爪がコインをはじく音。鍾離はただタルタリヤを見ていた。
     ふいに、矢を引っ張っていた指が、離れる。まっすぐな線をたどるように矢は放たれた。そして。
    「おぉぉ!」
     小さく、甲高い音ともにコインの軌道が逸れる。とすりと音を立てて壁に矢が到達し、周囲から歓声が起こる。タルタリヤの矢は、寸分の狂いもなくモラを打ち抜いていた。
     コインを投げた男が興奮した様子を隠すことなくタルタリヤに続き、その弓の腕をほめる。周囲もそれに合わせてタルタリヤに声をかける。
     その人の中心で、やはりタルタリヤは笑っていた。特別深くもなく、けれど人好きのするような笑顔。年相応、というのはずいぶんと上手すぎる笑顔。

    「…ね、先生から見てどうだった?」
     やがて人の輪を抜けて席に戻ってきたタルタリヤが鍾離に話しかける。机の上の料理は先ほどから一つも進んでおらず、酒だけが減っていた。
    「弓が苦手だと聞いていたが」
    「苦手だよ。当たったけどね」
    「お前は……」
     鍾離は口を開き、少し時間をおいて酒を飲んだ。ぐい、と些か彼に似合わないくらい豪快に飲み干して、じっとタルタリヤに目線を向ける。突然見つめられたタルタリヤは首をかしげた。
    「いや、いい」
    「そう?そんな言い方されたら気になるなあ」
     そうは言いつつタルタリヤの視線は鍾離を離れ、机の上の料理に手を付け始めた。食べ始めてずいぶん経つがまだ入るらしい。タルタリヤが見た目以上に健啖家だと知ってずいぶん経つ。
    「弓はどこで習ったんだ」
    「ちゃんとした師はいないよ。見様見真似」
    「そうか」
    「ふふ、どう、俺の弓は」
    「……あぁ、まぁ良かったんじゃないか」
    「なにそれ!あはは、あんなに熱心に見つめてきたくせに!」
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    Replies from the creator

    nae_purin

    MOURNINGモブに色々改造されて先生に救出されてほっとするも(まだ公子の威厳ギリ保ってる)こんな体みないで!って絶望して(先生に見られてもう自分が公子に相応しくないって思ってしまって)鬱になってふらっと出た徘徊先で旅人にぼろぼろの姿見られてガン泣きしながら迎えにきた先生に回収されて欲しい、話です。供養。
     鍾離をの洞天を抜け出し、行く先もなく歩く。かろうじて履いたスラックスと、肩にひっかけただけの真っ白のシャツ。見下ろした自分の体は見慣れた傷しかない。鍾離に直してもらったばかりのまっさらな体。治療の際、ひとつひとつ鍾離の指先が辿っていったその傷たちはもうないはずなのに、隠すように振るえる指先シャツのボタンを留める。
     踏みしめた地面に転がる石を感じながら足元を見る。洞天から転がり出た先がどこにつながるのか考える暇もなかった。呆然としたまま辺りを見回す。先ほどから見える木々は黄金に色付き、璃月の地であることは伺える。しかし2人ほどが通れる程度の道は舗装されているともいえず、裸足で歩くような道ではないことだけが確かだ。差し込む光を遮る木の葉が影をつくり道を彩る。木漏れ日の隙間から除く青空は雲一つなく、暖かい。常であれば息をのむ景色だったのかもしれない。けれど、いまのタルタリヤにとって景色がどうなどとは関係無かった。ただ、この道の先を進めば鍾離の視界から少しでも遠くに行けると盲目的に信じているだけだ。足を傷つける小石が意識の端に引っかかっては消えてゆく。
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