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    hydroxideion010

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    hydroxideion010

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    チョコレートと鋭百

    #鋭百
    excellentHundred

    【鋭百】チョコレート・ジェネシス 真っ赤な果実がプリントされた箱の中からは、十粒ほどの艶やかなチョコレートが顔を覗かせた。その中の一粒がつままれて、口の中へ放り込まれる。こり、とチョコレートを頬張った百々人は口元を綻ばせた。
    「美味いか」
    「うん、すごく美味しい」
     こちらに顔を向け、とろん、と目尻を下げて微笑む百々人に自然とこちらも頬が緩んでしまう。ほんのりと爽やかな甘い香りがして、友人から貰ったという珍しいチョコレートはなるほど確かに美味しそうだ。
    「マユミくんも食べる」
     そんなに物欲しそうにしていただろうか。一瞬己の行動を省みたが、一人じゃ食べきれないから、と言われてしまえば断る理由もない。
    「いいのか」
    「もちろん」
     百々人はそう言ってもう一度箱に手を伸ばし、一粒チョコレートをつまみ上げる。てっきり箱ごと差し出されると思っていたから、その一粒は百々人の口の中へと運ばれていくのだろうと思った。しかし百々人はそのまま自分の顔の前に手を持ち上げて動きを止めた。どうするのだろうかと眺めていたが、動く気配はない。意図を図りかねて顔を見ると、小首を傾げてこちらを見つめ返してきた。
    「どうぞ?」
     どうやら鋭心が受け取るのを待っていたらしい。一人納得して手を差し出す。しかし百々人はチョコレートをつまんだ手を後ろに引き、鋭心が伸ばした手から遠ざけてしまった。そして反対の手の人差し指で自分の口元を指差した。
     勘違いだったら恥ずかしいことこの上ないが、百々人の行動から想定できる答えは一つしか浮かばない。伺うように軽く身を乗り出したが、今度は百々人の手は動かなかった。少しだけ顔を前に出しても逃げられないことが分かると、観念してその手に顔を近づける。ちらりと目線をあげると、こちらを見つめる瞳が肯定するようにゆっくりと瞬いた。もう少しで指先に届くというところで僅かに唇を開くと、静止していた指がつまんでいたチョコレートを押し込んできた。
    「ん」
     思わず目を見開くと、鮮やかなマゼンタと目が合う。互いの前髪が触れ合うほどの距離で見つめられてしまえば、その視線に捉えられてしまい動くこともできなくなってしまう。じわじわと耳に熱が集まってくるのを感じるが、金縛りにあったように身体は動かすことができない。唇に押し当てられた人差し指でそのままそわりとなぞられた。
    「美味しい?」
     一瞬口の中のチョコレートの存在を忘れていた。唇から指先が離れ、ようやっと時間が動き出す。ころりと口の中で転がして噛み砕くと、チョコレートの甘さとみずみずしい赤い果実の香りが鼻に抜けた。
    「……美味い」
     鋭心の言葉に良かった、と百々人はふわりと笑った。もう一度箱に手を伸ばし、今度は自分の口へチョコレートを運ぶ百々人の横顔を眺めていると、じくりと喉の奥が鈍く痛む。
     一粒のチョコレートは甘さと酸味と僅かな苦味と、ぼんやりとした甘美な罪の味がした。
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    hydroxideion010

    DONEチョコレートと鋭百
    【鋭百】チョコレート・ジェネシス 真っ赤な果実がプリントされた箱の中からは、十粒ほどの艶やかなチョコレートが顔を覗かせた。その中の一粒がつままれて、口の中へ放り込まれる。こり、とチョコレートを頬張った百々人は口元を綻ばせた。
    「美味いか」
    「うん、すごく美味しい」
     こちらに顔を向け、とろん、と目尻を下げて微笑む百々人に自然とこちらも頬が緩んでしまう。ほんのりと爽やかな甘い香りがして、友人から貰ったという珍しいチョコレートはなるほど確かに美味しそうだ。
    「マユミくんも食べる」
     そんなに物欲しそうにしていただろうか。一瞬己の行動を省みたが、一人じゃ食べきれないから、と言われてしまえば断る理由もない。
    「いいのか」
    「もちろん」
     百々人はそう言ってもう一度箱に手を伸ばし、一粒チョコレートをつまみ上げる。てっきり箱ごと差し出されると思っていたから、その一粒は百々人の口の中へと運ばれていくのだろうと思った。しかし百々人はそのまま自分の顔の前に手を持ち上げて動きを止めた。どうするのだろうかと眺めていたが、動く気配はない。意図を図りかねて顔を見ると、小首を傾げてこちらを見つめ返してきた。
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