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    okusen15

    まほ晶が好き

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    okusen15

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    【新作】全年齢事後フィ晶♀ メインスト2部の内容を少し含みます

    ピリオドのレース 向かい合って眠っているフィガロの肌は、薄い青色に染まっていた。紗を纏っているみたいに見えて、肩に指先を滑らせてみる。繊維ではなく、真夏の日、海からあがったばかりみたいな、しっとりした肌の感触。深く物事を考えられない頭で、ぼんやりと室内を見渡した。魔法で外から見えなくした窓が目について、そこから飛び込んできた夜明け前の色と知る。
     途切れ途切れの喘ぎ声と切羽詰まった息遣い、それから小さな水音。眠る前まで、この部屋を満たしていたのは、それらだったのを思うと、変に居心地が悪くなった。きっちりと並んでいる薬瓶や壁にかけられた聴診器から、あるはずのない視線を感じて、毛布を深く被る。眠ってしまおう。朝まで、まだ時間がある。
     深く息を吸いこむと、二人分のこもった熱と、少しの汗と青臭さが匂った。果てて気を失うまではべたついていた体が、綺麗になっているのに、こういうところにフィガロが気が付かないはずがない。魔法で取り除かなかった、わざとらしい残り香だった。それに引っかかる私も私だ、と残り香に釣られて、下腹が熱を思い出そうとするのを、足を曲げて耐えた。
    「ーー寒い?」
     ぎゅう、と足の親指が縮こまった。いつの間に。というか、いつから起きていたのだろう。耳輪にあたる唇から伝わってくる振動が、くすぐったい。少し掠れたフィガロの声は、とてもセクシーだった。
    「それとも暑い?そんな火照った頬しちゃって……」
     人差し指の背が頬を撫でてくる。子猫を撫でるみたいな手つきに、また頭がぼーっとしてきた。
    「別に、寒くも暑くもないです……」
    「そう?」
     素っ気なく見える二文字が、空気に溶けていく。からかわれたのが恥ずかしくて、力を込めて視線をそらす。余裕そうなのが、また悔しい。
     くつくつと、フィガロは笑っている。かわいいなあ、と私に聞こえるように呟いて、体を寄せてきた。
    「俺は寒いから、くっついちゃおう。晶はあったかいね」
     完全に弄ばれている、と思ったのだけど、実際に触れてきた体は、ひんやりと冷たかった。さっき、肩に少し触ったくらいでは分からなかったけど、全身が水に薄くコーティングされているような体温だった。びっくりして胸板から手を離すと、抱きついてくる力が、ますます強くなる。
    「フィガロ、冷たいですね」
    「うん。言ったでしょ?寒いって」
    「冗談かと……」
    「本当のことしか言わないよ。……こうやって抱き合ってると、きみの心音が聞こえてきて、安らぐ」
     フィガロは耳を澄ませるように目を閉じた。瞼の内側の、深海魚も泳がない暗闇では、私の鼓動だけが、エコーのように響いているのだろうか。見えないものに聞きいることに集中して、溺れていないだろうか。

    『フィガロは弱っている気がします』

     ふと、底に沈んでいた記憶の欠片が浮かび上がった。居ても立ってもいられなくなって、フィガロの胸元に耳を寄せた。トクトクと波打つ音に、ほっと息をつく。
    「……どうしたの?不安そうだね」
    「なんだか……一人になっちゃったみたいに、感じて……。馬鹿ですよね、ここにフィガロはいるのに」
     正直に言うのは憚られた。むつみあった後だったし、何より、フィガロの確かな鼓動に、言うまでもない、と否定されたような気がして。自分でも馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、一部を切り取って口にすると、私の頭を撫でていた手が、ゆっくりと止まった。心臓がひやりと汗をかく。
     胸騒ぎを抑えながら顔をあげると、フィガロは目を開いて穏やかに微笑んでいた。儚さすら感じる笑みだ。背中に回した手に自然と力がこもる。散々知った柔らかい唇が動くのを、息を詰めながら見守った。
    「……きみのそばにいるよ、いつも。でも、そう感じさせちゃって、ごめんね」
     二千年、世界の移り変わりを泰然と見つめてきた瞳が、私だけを捉えている。丸裸の人間の女を。私も見つめ返す。丸裸の、神様だった男の人を。
    「ーーいいえ。そうですよね、いてくれますよね……」
     宥めるように、ゆっくりとフィガロは頷いてくれた。畏怖や祝福ではない、体中に浸透してくるような温かな愛情で、胸を撫で下ろした。安堵を補強するように、オズが言っていたことを思い出す。
     南の国で暮らしやすくするために擬態している。フィガロが弱って見えるのは、そのせいだと。つい忘れていたことに、少し恥ずかしくなる。もう一度、フィガロの胸に顔を埋めて、鼓動を聞く。メトロノームのように、規則正しい音がした。
     ーーどうか末長く続きますように。私がいなくなった後もずっと、と目を伏せる。そのまま、ぬくぬくとした暖かさに意識を委ねようとして「ん?」と顔を顰めた。
    「……あの、ちょっと、手が際どいところを触ってるんですけど……」
    「きみを不安にさせちゃったから、もしかして足りなかったのかなーって」
    「た、足りてます!ほら、もう明るくなってきましたから!」
    「えー、いいじゃない、もうちょっとくらい」
    「良くないです……!!」
     抵抗してもフィガロの手は、びくともしない。防音魔法がかかっているとは分かっていても、声を潜めたじゃれあいが、ベッドを叩く。
     フィガロが、つねられた手をわざとらしく、大げさに痛がる。二人で笑い合いながら、私は頭の片隅で未来を想像して、目頭が熱くなった。
     この愛が、私たちを永遠に繋ぐものだと信じたい。けれど、私はフィガロを置いていく。寿命か、元の世界に戻されるか、どちらでかは分からないけれど。
     未来にただ一人残されたフィガロは、いつまで私のことを覚えていてくれるだろう。薄れた記憶の細い糸は、愛を繋いだままだろうか。きっと私はそれを確かめられない。フィガロに忘れないでいて欲しかった誰かに、なるかもしれない。
    「もう寝ますよ!今日はお昼に一緒にピクニックに行く予定でしょう?」
    「ええ〜?予定変更しない?」
    「しません!」
     だからこそーー懸命に愛おしもう。未来がどうなるかなんて、誰にも分からないから。
     一秒一秒、抱きしめて息をしよう。フィガロといられるこの時間を。
     私を深く抱き込んでくるフィガロの体は、すっかり温かい。つむじに、ぴったりと何かが嵌まるような感覚あった。私のつむじを台にするように、フィガロが顎を乗せている。少し泣いてしまった私は、顔を見られない位置にいるとは知っていても、目を細めた。万が一、見られても笑顔だと勘違いしてくれるように。どうか、まつ毛を濡らす涙に気づきませんように。
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