ピリオドのレース 向かい合って眠っているフィガロの肌は、薄い青色に染まっていた。紗を纏っているみたいに見えて、肩に指先を滑らせてみる。繊維ではなく、真夏の日、海からあがったばかりみたいな、しっとりした肌の感触。深く物事を考えられない頭で、ぼんやりと室内を見渡した。魔法で外から見えなくした窓が目について、そこから飛び込んできた夜明け前の色と知る。
途切れ途切れの喘ぎ声と切羽詰まった息遣い、それから小さな水音。眠る前まで、この部屋を満たしていたのは、それらだったのを思うと、変に居心地が悪くなった。きっちりと並んでいる薬瓶や壁にかけられた聴診器から、あるはずのない視線を感じて、毛布を深く被る。眠ってしまおう。朝まで、まだ時間がある。
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