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    omusub1_5656

    ☾︎.*·̩͙ 成人済夢女☾︎.*·̩͙  好きなように書いてます
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    omusub1_5656

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    一.般.人🌸とbntn hrcyが思.いもよ.らな.い形.で出.会.っちゃった話です

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    勢いって怖い「好きです!一目惚れしました!付き合ってください!!」

    日付も変わりそうな真夜中、気づけばアパートの階段で叫んでいだ。
    つい先ほどまで騒がしかった怪しい黒服達も、目の前にいる彼もこちらを見て怪訝な顔をしている。
    私だってこんなこと叫ぶつもりはなかった。
    どうか、私の言い訳を聞いてほしい…。



    遡ること1時間前
    この書類が終われば帰れる、と気分良くキーボードを叩いていると最近入社した後輩の女の子が泣きついてきた。
    特に難しい仕事を任せていたわけでもないのに…と繰り返し説明をしていると、
    「○○さんにはまだ難しかったかな〜?仕方ないな〜。おい、お前。これやっとけ」
    若い女に甘いと噂のあった上司に目をつけられ仕事を押し付けられた。
    はいはい、どうせ行き遅れたアラサー女には残業がお似合いですよ、なんて自虐的な考えをしていても仕事は終わらない。
    幸い明日は土曜日だ、早く終わらせてコンビニでビールとおつまみを買って飲みながら寝てしまおう。
    30分程で仕上げ、上司のデスクに書類を置いてオフィスを出た。


    途中コンビニによりお目当てのものを買い込み家路を急ぐ。
    少し前までは仕事が終われば当時付き合っていた彼が職場まで迎えに来てくれていたのだが、あまりの忙しさに「会えなさすぎて嫌だ」と振られた。
    年下だったし甘えたかったのかな…。
    昔から年下に好かれやすく自分なりに尽くしてはいるもののなかなか長続きしない。
    年上の方が長続きするんだろうか、そう思うものの出会いもなく毎日職場と家との往復くらいだ。
    とぼとぼ歩いていると自分の住んでいるアパートが見えてきた。
    街灯があるとは言えもうすっかり遅い時間だ、家が見えると安心する。
    が、いつもと明らかに違う光景が目に飛び込んできて先ほどの安心感は消え失せた。

    私の借りている302号室の隣、303号室前に誰かいる、しかも1人じゃない。
    確か隣は大学生くらいの男の子だ。
    怪しいツーツの男性達が玄関を叩いているのが分かった。
    家賃をケチってセキュリティの低いとこにしたのが悔やまれる。
    アパートの構造上、その隣の家の前を通らないと自分の家にたどり着けない。
    私が何か悪いことをしたわけじゃない、そっと後ろを通れば大丈夫だろうか…大丈夫であってくれ…!
    そう願いながらそっとアパートの敷地内へと入っていく。
    階段を上っていると声が聞こえてきた。
    どうやら借金の取り立てのようだ。
    大学生にしてこんな怖い人たちにお金を借りたのか…世も末だな。
    そんなことを考えているうちに自分の部屋がある階近くへと到着した。
    階段からちらりと覗くと大学生は留守なのか、居留守なのか玄関は閉まったままだった。
    怖いがこの場にいてもいずれ帰るであろう怪しい黒服達と鉢合わせすることになる。

    意を決して1歩踏み出そうとすると後ろから不機嫌そうな「?」と言う声が聞こえてきた。

    まずい、某探偵漫画のように黒服達のやり取りに夢中になっていると背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった…!やはり見てはいけないものだったか…っ!
    振り向くのも怖くて俯いていると声の主が階段を上って近づいてくる音がする。
    怖い、怖い、怖い…体は金縛りにでもあったように動かない。
    もしこの状況を切り抜けることが出来たら私絶対にセキュリティが皇居並みのとこに引っ越す!皇居のセキュリティとか分かんないけど…!!
    ぎゅっと目を瞑っていると背後にいた人は私の隣を通り抜け階段を上って行った。

    あれ?もしかして勘違い?考えすぎ…?
    なんだ、とホッと胸を撫で下ろして顔を上げると階段を上りきったところから私を見下ろしている明らかに堅気ではない人と目が合った。
    スーツ姿ではあるがその色のスーツは一般企業ではありえない色味だった。
    何より髪がピンクだ。
    バサバサのまつげも気になるが今はそれどころではない。

    人間諦めが肝心だ、なんて言うがこの時の私はどうにかこうにかこの状況を切り抜けられないかと頭を高速回転させた。
    戦うなんて無理だし、きっと叫んでも誰かが来てくれる前に殺されてしまうだろう。
    こうなれば…私の少ないIQで弾き出した結果は…!!


    そう、そして冒頭に戻る。
    なんでこの人に媚びようと思ったのか自分でも分からない。
    ピンクの彼は大きな目が零れ落ちそうなほど目を見開いている。
    大学生の部屋の前にいた黒服達もなんだなんだ、とこちらに来て不思議そうに私のことを見ている。
    終わった…素直に何も見ていない、隣に住んでるから帰ろうとしただけだと言った方がまだ望みがあったかもしれない。

    「いいぜ」

    ほら、死刑宣こ……え?????

    「ツラも悪くねえし俺の女にしてやるよ」

    人間現実逃避すると幻聴まで聞こえるのか。
    ピンクさん(仮)が言ってることが理解できない。
    いいぜ、って言った?自分で言うのもアレだが普通見ず知らずの女に告白されてオッケーするか?
    パッと見だが女に困っているような容姿には見えない。
    綺麗な顔立ちだしすらっとした体型だ。あれ、結構私のタイプだな…

    「来いよ」

    ぐるぐるとない頭を動かしていると近づいてきたピンクさんに腕を掴まれて一緒に階段を下りていく。

    ど、どどどどどうしよう!!???やめてくださいと腕を振り払っていいものなのか?
    さっきの告白は嘘なんですと言って大丈夫なものなんだろうか?

    パニックになりながら半ば引きづられるように1階に到着するとアパートの前に黒塗りの車が横付けされていた。
    あ、これは生きて帰れないやつだな。そう確信した。
    部下らしき人が後部座席のドアを開けてくれピンクさんに乗れよ、と背中を押される。
    こんなことになるならコンビニから帰ってくる時にビール飲んでいれば良かったな…。
    全てを諦めて私はタバコの臭いが染み付いた車へと乗り込んだ。




    コーヒーのいい匂いといつもよりふわふわの枕の感触で目が覚めた。
    ここどこだっけ…
    寝起きで頭が回らない。
    重い体を起こして周りを見渡すと昨晩のことをじわりと思い出してきた。
    そうだ、ピンクさん…いや、春千夜さんの家で抱かれたんだ。
    かけられていた布団とちらりとめくりあげると下着すら身につけていないが、体はさっぱりとしていたので綺麗に後処理がされているようだった。
    寝起きの頭が覚醒していくと次第に昨日のことを鮮明に思い出してきた。

    なんか…なんか、すごい上手かった…!
    いや、そんなに経験人数が多いわけではないけど、ものすごく気持ち良かった!
    あの見た目だ、きっと経験豊富なんだろう。
    恥ずかしさで顔を覆って座りこんでいるとガチャリと扉が開いて春千夜さんが入ってきた。

    「起きたかよ。朝飯出来てるから顔洗ってこい、洗面台あっちな」

    そう言って大きめのTシャツを渡してきた。

    一通り身支度を整え、お待たせしましたと一緒に席について朝食を摂った。
    挽きたてのコーヒーを飲みながら大きな窓から外の景色を見ているとここが高層階だということが分かった。さすが堅気じゃない人はお金持ってるなぁ、なんて思っているとずっと無言だった春千夜さんが口を開いた。

    「俺仕事行くから、お前も帰れよ」
    「あ、はい」
    「オートロックだから鍵は気にしなくていい」
    「わかりました」
    「……お前さ、」
    「なんですか?」
    「いや、なんでもねえ。タク代置いとくから、じゃあな」

    テーブルに諭吉を1枚置いて、代わりにスマホと電子タバコを持つとスタスタとリビングを出て行ってしまった。
    食べかけのパンをお皿に置いて春千夜さんの後に付いていく。

    「なんだよ?」
    「い、いってらっしゃい…?」

    玄関のドアノブに手をかける春千夜さんが驚いた顔でこちらを見ているが、家を出ようとしている人に声をかけるのってそんなに変なことなんだろうか…。
    ふっと笑う春千夜さんが行ってくると玄関をくぐって行った。


    あの後、私も自分のアパートに帰った。
    色々と頭の中で整理してみるものの自分が本当に春千夜さんの彼女になったのかも怪しい。
    そもそも連れ去られている車の中でようやく名前が聞けた程度でそれ以外は何も分からないままだった。
    きっと向こうも本気ではないだろう、ワンナイトってやつだな!と自分を納得させることにした。
    ちなみに例のお隣さんは引っ越したらしい。空室になっていた。
    本当のことなんて知らないし知らない方が身のためなんだろう。



    数日後、いつも通りに仕事をしていると非通知で電話がかかってきた。
    そっとスマホを持ちトイレに行く振りをして応答してみるとまさかの春千夜さんだった。

    『何してんの?』
    「は、春千夜さん!?え、っと…仕事中です」
    『今日何時に終わる?』
    「今日は定時には上がれると思います」
    『迎えに行くから待ってろ、飯行くから』
    「え、ご飯ですか!?わ、分かりました」

    最低限の会話だけ済ませて早々に通話が終了した。
    そもそも何で私の電話番号知ってるんだろう?非通知ってことは自分のは教えたくないということだろうか…。と言うか職場までバレてる…?
    やはり堅気の人間じゃないんだろうな。
    何より二度目があることに驚きを隠せない。
    私、ただの遊びだよね…?
    色々と考えてしまうが今は勤務中だ、とりあえず今は仕事に戻ろう。
    夜ご飯なんだろうな〜とかわくわくしちゃうのは能天気すぎるんだろうか。



    食事を終え、食休みでたわいもない話をしていると春千夜さんから「鍵やるよ」と薄いカードキーが渡された。

    「これは…この間お邪魔したお家の鍵ですか?」
    「そうだけど…いらねえなら返せ」
    「い、いえ!ありがとうございます…」
    「…おう」

    連絡先より先に家の鍵をもらってしまった…。
    ワンナイトではないのは分かったが、これはセフレという関係だろうか?
    ますます春千夜さんが何を考えているのか分からなくなってきた。
    その日はこの後も仕事があるとかで家まで送ってくれて解散となった。



    その後も食事に誘われたり、「腹減ったから飯作って」と言われ家に呼び出され私が手料理を振舞ったり、家で一緒に映画が見たりと本当に恋人と何ら変わらない存在になっていた。
    家でくつろいでいる時に連絡先の話もしたが、そういえば忘れてたわと言われすんなりと教えてもらうことが出来た。
    何でお前から連絡ないのか不思議だったけどそういうことか、とお酒が入って少しテンションが高い春千夜さんは笑って私の髪を撫でた。

    幸せだった。
    確かに出会いは普通ではなかったがこうやって気を許せる相手が出来て、お酒を飲み優しく
    笑いかけてくれて、たまに春千夜さんの気まぐれでプレゼントを貰ったり…楽しい毎日だった。
    好きになってしまいそうだった。体から始まった関係が上手くいかないことは分かりきっている。それでもこの人の隣にいたいと強く願ってしまうほどに。


    だから忘れてた
    この人が普通の人でないことをーーーーー




    その日は金曜日で、仕事が終わる少し前に春千夜さんから連絡が入った。

    【俺の家で待ってろ】

    明日からお休みだからお泊まりだろうか?
    最近では泊まることも増え春千夜さんの家にお泊まりセットを置いているので直接向かうことにした。



    「遅い…」

    少しだけ残業をしてから貰ったカードキーで家にお邪魔して出来そうな家事を一通り済ませたが帰ってこない。
    時刻はもう21時になろうとしていた。
    何か夜ご飯を作っておいたほうが良いのだろうか、この時間から外食はしないよねと考えているとガチャリと玄関の開く音がした。

    「春千夜さん?遅かったですね、待ちくたび、れ……」

    そこにいたのは血まみれの春千夜さんだった。
    ゼーゼーと息が荒い。

    「大丈夫ですか!?」

    慌てて駆け寄り春千夜さんの体を支えようと手を伸ばした。

    パシンッ!

    乾いた音が玄関に響いた。

    何が起きたか分からず、遅れてやってくるジンジンとした手の痛みに払いのけられたんだと気づいた。

    「え…春千夜、さん…?」

    驚いて痛む手をさすっているとふらりと体を起こした春千夜さんの手が私の頭に伸びてきた。
    悪い、と言って頭でも撫でられると思ったがそういうわけではないようだ。
    冷たく硬い感触が額にあった。
    何が起きているか分からなかった。
    パニックで何も考えれない中、ぎりぎり思考出来たのは今、拳銃を突きつけられているということだけだった。
    本物なんて見たこともないが、頭に突きつけられている銃口から威圧感が伝わってくる。

    「何してんだ…殺すぞ」

    冷たい声で浴びせられたその言葉に何と返事をすればいいのか分からずガタガタと震え自分の手を握りしめるしか出来ない。
    春千夜さんの目がいつもの優しい目じゃない、どこを見ているのか分からない…ただただ恐怖だった。

    「あ、あの…ごめ、ごめんなさ…帰りま、す…」

    緊張で張り付いた喉から必死に声を絞り出した。
    震えて立ち上がろうとしない足をなんとか踏ん張って玄関へと向かった。
    ドアノブに手をかけるが、恐怖で手に力が入らない。
    こんなに重い扉だっただろうか。

    「おい」

    後ろから声がしたと同時に自分の顔の横を通り過ぎて、玄関の扉に何かが叩きつけられ床にどさりと落ちた。

    「さっさと帰れ」

    足元を見ると自分の荷物だった。そういえばリビングに置いたままだった。
    後ろを振り返るなんてもう無理だ。
    急いで荷物を拾い上げ勢い良く扉を開け転がり出るようにマンションの外へと出た。



    あれから2週間、
    春千夜さんの連絡先はブロックし、貰っていた家の鍵は封筒に入れてマンションのポストへと投函してきた。もちろんあちらからの連絡もない。
    これで良かったんだ。
    そもそも出会いがおかしかった。
    明らかに堅気でない彼に殺されまいと必死でついた嘘から始まった関係だった。
    本当に好きになるなんて、そんなことあり得ない。
    この気持ちは久しぶりの刺激で頭がどうかしていたんだ。
    忘れてしまおう。住む世界が違う人だったんだ。
    また仕事と職場の往復の毎日に戻るだけだ。
    「次こそはいい人見つけて、ちゃんとした恋愛がしたいな」
    自室で春千夜さんにもらったプレゼントを1つの段ボール箱に詰め、この想いも一緒にガムテープで蓋をしクローゼットの一番奥へと仕舞うことにした。
    きっとこの部屋を解約して出て行く頃には処分する決意が出来るだろう、そう祈って…。





    「🌸〜!飲んれる〜!?」

    酒が弱いというのにどうしてこの友人は呂律が回らなくなるほど飲むんだろうか。
    数日前にこの隣で酔っ払っている友人から真剣な顔で折り入って頼みがあると言われた。
    どうやら取引先で好きな人が出来たらしい。
    アピールを続けていると「今度みんなで飲み会でもしませんか?」とお誘いがあったらしい。
    5人くらい誘っておいて、と言われたらしいがもう飲み会という名の合コンなことは明白だった。
    華の金曜日、残業にならないように仕事を終わらせ待ち合わせ場所のお洒落なお店へと向かった。
    楽しく飲んでいると次第に誰からともなく席替えが始まった。
    一般的なものより少し高そうなスーツを身につけた男性たちは思い思いの女性たちに話しかけ楽しんでいるようだった。

    「🌸さん、グラス空いてるけど何飲む?」

    私の隣にいた男性もにこにこと話しかけてくれるし、空いたグラスのことも気にかけてくれる。
    春千夜さんも素っ気なかったけど「何飲む」って聞いてくれたな…。
    はっ!いけない、いけない!
    過去のことを引きずっているようではいい恋愛なんて絶対出来ない!

    「甘めのお酒がいいな〜カシオレとか」

    嘘だ、こんな甘ったるいお酒は好きじゃない。でも男ウケのため…!

    「カシオレ好きなんだ、可愛いね」

    蛇のようにするりと腰に手が巻きついてきて急に距離を詰めてくる男性にゾワリと鳥肌が立った。
    選り好みしている場合ではないと思いながらもさすがにこんな男はきつい…!
    今日知り合ったばかりの男性に触れられることがこんなにも気持ち悪いとは想像もしていなかった。私よく知り合って1時間もしない内に春千夜さんとベッドに入れたな!?
    普段なら「キモい!」と突き飛ばしたところだが友人の恋愛が上手くいくかもしれないのに私が台無しにするわけにもいかない。
    なんとかこの状況を上手く切り抜けれないかとぐるぐる思案していると急に腰に纏わりついていた男子の手が離れた。

    「え…?」 

    不思議に思い男性の方を見ると、先ほどまで私の腰にあった手は後ろに捻りあげられていた。

    「は、春千夜さん…!?」

    第一印象から変わらない、長いピンクの髪、バサバサのまつ毛。
    久しぶりに見る春千夜さんは少し痩せているように見えた。

    「っ!!いてぇ!何だよ!?」
    「お前こそこいつの何?こいつに触れて良いと思ってんのか?」

    なるほど、美人の凄んだ顔は怖い。
    最後に会ったあの夜の怖さとはまた別物の怖さだった。
    春千夜さんは男性の手を雑に振り払い、財布から何枚かのお札をテーブルにこれまた雑に置いた。

    「おい、行くぞ」

    呆気に取られているうちに春千夜さんが私の手を取り店の外へと連れ出した。


    「あ、あの!待ってください!」

    車に乗り込もうとする春千夜さんの腕を掴み踏ん張って制止を試みるも全く気にもとめていないようだ。
    そのまま車に乗せられると運転席にいた部下らしき人に「出せ」と合図すると車は見慣れた景色の中を走り出した。



    「入れよ」

    約1か月ぶりの春千夜さんの家だ。
    玄関での一件があったためどうしても家に上がる勇気が出ずにいると、先にリビングにいた春千夜さんが玄関まで戻ってきた。

    「何してんの」
    「あの、私帰ります」
    「は?」
    「ごめんなさい」

    くるりと背を向けて玄関のドアノブに手をかけると後ろから長い腕が伸びてきて抱きしめられた。
    春千夜さんの硬い胸板が背中越しでも伝わってくるくらいには密着している。
    背中がじわりと熱い。
    心臓が耳の近くにあるのかと錯覚するくらい鼓動がうるさい。
    これ、私の鼓動だよね…?

    しばらく動かなかった春千夜さんが私の首に顔を摺り寄せてきた。
    髪と息が首筋に当たってくすぐったい。

    「お前、何で連絡返さねえの」
    「ブロックしました…」
    「鍵も返してきただろ」
    「もう、ここには来ないつもりだったので」

    ぼそぼそと話し始めた春千夜さんに一つずつ答えているとぎゅっと抱きしめられている腕に力が入った。

    「俺のこと、嫌いになったのかよ」

    あまりに普段とは違う弱々しい声に思わず心臓がぎゅっと握りつぶされたように痛む。

    「だ、だって…殺されかけたんですよ?」
    「悪い…ラリってる時のことあんま覚えてねえ」
    「ラリって…薬ってことですよね?それに銃も…私春千夜さんが何をされている方なのか知りません。初めて会った時から堅気の人ではないなと思っていましたけど…」
    「全部話したらお前怖がって逃げるだろ」
    「心構えくらいは出来たかもしれません」

    春千夜さんなりに色々考えていたことを今更になって知ることになった。
    もっと早くこんな話が出来ていれば少しは違う結末だったのかもしれない。

    「俺から離れんなよ…薬も控えるしもう二度とお前に銃向けたりしないから」

    痛いほどに抱きしめられて、きっと春千夜さんの本音なんだと感じ取れる。
    本音を話してくれているなら私も本音で春千夜さんと話がしたい。

    「私は、体だけの関係も、ご飯を作るために呼ばれたりだとか…もうそんな先のない虚しい関係は嫌なんです。春千夜さんにとっての都合のいい女に、その他大勢の女にはもう戻りたくな…んっ
    …!」

    抱きしめられていた腕が緩んだかと思うとくるりと回されて春千夜さんに口を塞がれていた。

    「んぅ……」

    深いキスにお互い吐息が漏れる。

    「っ…、好きだ」

    お互いの口を繋いでいた唾液がプツリと切れた。

    「最初からずっとお前のこと特別扱いしてただろっ!家にも呼んで、鍵だって渡して、優しく抱いてやっただろ!」

    まくし立てるように話す春千夜さんに驚いた表情をしていると、チッ!と大きな舌打ちを1つ食らった。

    「お前と飯食うの好きだし、お前の作る飯も好きだ。体の相性だって良いし、ツラも好みだし、お前といるの落ち着くから好きだ……後、何言えば別れねえんだよ…」

    さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、一変して項垂れてしまった春千夜さんに違うと分かっていても、もしかして今も薬やってないよね?と少し不安がよぎってしまう。

    「は、春千夜さん…?」
    「何だよ…」
    「私、ずっとセフレだと思ってたんですけど…もしかして恋人でした…?」

    私の言葉を聞くと同時に春千夜さんが勢い良く顔を上げ私の肩を強く掴んでわなわなとした表情を見せてきた。

    「は、はあぁぁぁ!!?セフレだあ!?そんなもんその辺のホテルでヤり捨ててくるわ!なんでセフレに家の鍵渡さなきゃなんねんだよ!そもそも付き合えって言ってきたのお前だろ!」

    声が大きい。
    お酒でテンションが上がった時は少し大きめだったがこんな大声で話す人だったのか、と。また新しい発見だ。

    「だからさっきの男に乗り換えようとしてたのか?もしかしてもう抱かれた…?」

    春千夜さんの頭の回転が速すぎて会話しているはずなのに置いていかれそうになる。
    ジェットコースターのようなテンションの落差にはもう既に置いていかれている気がする。

    「抱かれてませんよ、友達に頼まれて同席していただけです」
    「でもお前、出会って数時間で俺に抱かれただろ」
    「う゛っ…!」

    痛いところを突かれた。

    「本当に抱かれてねぇんだよな?」

    私の顔を覗き込むように聞いてくる春千夜さんが捨てられそうな子犬に見えた。

    「誓って抱かれてません」
    「ハァ〜、ビビらせんなよ」
    「ご、ごめんなさい…?」

    気が抜けたのか、廊下に座り込んでしまう春千夜さんに手を引かれ私も廊下に膝をついた。
    私の手をぎゅっぎゅっと握って何かを考えている彼を横目に空いた片手でパンプスを脱いでそのまま彼の隣へと座り込んだ。

    「なあ、このまま一緒に住まねぇ?」
    「……え!?」
    「お前一人にしたらすぐ他所の男に尻尾振るだろ」
    「尻尾なんて振ってません!」

    考え込んでいたかと思えば随分失礼だな!ちょっとムッとした表情を見せると冗談、と少し笑ってた。

    「言い方変える、この家で俺と住んで。確かに危ない仕事してる、だからお前にこの家で待っててほしい。この家に帰らなきゃって思わせて」

    真剣な顔でこんな熱烈な告白を受けて断れる人っているんだろうか。
    心臓がばくばくと鳴り響いてる。

    「何のお仕事してるか聞いてもいいですか?」
    「出来る範囲でなら話す。話したくないとかじゃなくて全部話すとお前が危険だから」
    「ずっと気になってて聞けなかった口元の傷のことも聞いていいですか…?」
    「別に面白い話じゃねぇけどお前が聞きたいなら話す」
    「一緒に住むってことは、同棲、ですか?」
    「そうなんな。初めてするから何いるか分かんねえな…明日にでも買い物行くか」
    「はい…!楽しみで、きゃっ!」

    言い終わるよりも先に春千夜さんの腕がするりと伸びてきて軽々と抱き上げられた。
    お姫様抱っこなんて初めてされた…!

    「とりあえず今から充電するから」
    「充電…?」

    すたすたと歩いていく方向に嫌な予感がする。

    「お前と会わなさすぎて死にそうだったんだよ、出張もあったしでマジでお前不足だわ」
    「え、ちょっ、」
    「大丈夫だって、ゴム3箱あっから」
    「そういう問題じゃないです!」

    キングサイズの大きなベッドのスプリングがギシリと音を立てた。
    きっとこれ、明日買い物行くの無理じゃないかな。
    そう思いながらベッドの海に沈んだ。
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