夢の続き「檀、お腹空いた」
被監禁者である太宰からの要求に「分かった」と一言答えた監禁者である檀は部屋を出る準備をする。
「魚が食べたい」
「ああ」
太宰が暫く本を読んでいる内に、湯気のたつ料理を二人分持った檀が帰ってくる。檀と太宰は仲良く同じ机で食事を取る。
「万年筆のインクが切れそう」
「分かった。持ってくるよ」
スパイスの効いたバター焼きを食べている太宰が不意に口火を切った。
「なあ、そろそろ戻った方が良いんじゃないか?」
一瞬、檀の動きが止まる。それを見た太宰が口元を緩める。
(やっぱりお前に悪役は向いてないよ)
「今なら悪戯で済むさ」
黙りこくる檀に太宰は優しく声をかける。
黙り続ける檀に、太宰も黙って箸を動かす。
食べ終えた食器を持って檀が一人で部屋をでていく。
「…外に出たいか」
片付けを終えて帰ってきた檀の言葉に、向き合った太宰が「ああ」と応える。
「…出たら何処に行きたい」
「散歩したいな」
うつむく檀に、太宰がふっと笑う。
「司書には一緒に謝ってやるよ」
太宰の言葉を聞いて漸く檀が顔を上げる。
(ああ、好きだな)
太宰が笑ってくれているから、なにか大丈夫な気がした檀がずっと燻っていた意を決する。
「忘れ物はないか」
「ない」
「…ごめんな」
楼閣の扉が開いていく。今度は二人並んで。
その後に事情を説明された司書は「太宰先生も悪い気がしますがね」と思いつつ檀への叱責と罰を与えた。
罰として課された仕事を終えて疲れて帰ってきた檀の部屋には太宰が笑って待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
これさえあれば砂上の楼閣は要らなかったから檀は笑った。この日常がずっと続くことを願いながら彼のそばにいてやりたい祈りと彼を守る誓いを胸に彼の元へ向かった。