死を越えて、君と「太宰、やめろってば!」
檀は必死で太宰の手を押さえようとするが、太宰はにやりと笑って彼を振り払った。
「だって檀、一緒に死んじゃうって言ったじゃないか。今がチャンスだろ?」
太宰は目を輝かせながら、檀を見つめる。その表情が怖いくらいに楽しそうだ。檀は眉をひそめ、肩をすくめた。
「だからって、こんな形で死ぬわけないだろ!少しは考えろ!」
「でもさ、俺たち、死にたい気分なんだよ。お前もそうだろ?」
太宰は檀にぐっと近づき、低い声で囁く。その声はやけに切実に聞こえた。
「違う!俺はお前を止めたいんだよ!死ぬなんて馬鹿げてる!」
檀はそう言いながらも、内心では少しだけ冷静を保とうとしていた。しかし、太宰のその目を見ると、どうしても答えを出せない自分がいた。
「なんだよ、そんな顔して。お前だって、俺が死んだら困るだろ?」
太宰は、わざとふざけたように笑った。
「それもそうだな、俺がいなくなったら、お前はきっと一人で何もできないだろうし」
檀は思わず息を呑んだが、すぐに反論した。
「…俺は、そんな弱くない」
「それはどうだろうな?」
太宰はにやりと笑う。その瞬間、檀は力を込めて太宰の胸元を押さえた。
「お前は、本当に、どこまで俺を試すつもりだ?」
太宰はその問いに応えることなく、ただ楽しそうに目を細めた。
「そうだな、試すっていうか…俺たち、こうして騒ぐのが楽しいんだよな。だから、少しだけ、続けてみようぜ?」
檀はうんざりした顔をして、ため息をついた。
「全く、お前は…」
そして、二人はまた騒ぎながら、しばらくその場に留まった。太宰の笑顔と檀の冷や汗が交錯する、そんな奇妙な空気が二人を包み込んでいた。
檀は太宰を見つめ、また呆れるような表情を浮かべた。
「お前、本当に人を困らせるのが得意だな」
「得意っていうか、無意識なんだよ。困らせてるつもりはないんだよ、檀」
「でも、どう考えても俺を困らせてるだろ?」
「それは…そうかも」
「それに、また無茶なこと言ってるし」
「一緒に死のうって言っただけだろ?そんなに怖い顔しないでよ、檀」
「怖くはない!怒ってるんだ!」
太宰は肩をすくめて、「あ、怒ってるんだ」と言いながら目を泳がせる。その姿に檀は思わずため息をついて、額を手で押さえた。
「本当にもう、どうすればいいんだ…」
「うーん、気にしないで。俺、もうちょっと寝てるから。檀が気にしすぎなんだよ」
「寝るな!」
「はーい」
太宰は横になり、さっきまでの真剣な表情をすぐに取っ払って、何事もなかったかのように寝転がる。それを見た檀はしばらく黙っていたが、ふと気づくと、太宰の足元に座り込んでいた。
「お前さ、本当にこういうところが、俺を悩ませるんだよ」
「悩んでるのか?俺、結構楽しいんだけど」
「楽しいって、どうしてそういうことに楽しさを見出せるんだよ」
「だって、檀が本気で怒ってるのが面白いんだもん。普段はあんなに冷静なのに」
檀は一瞬、言葉を失った。太宰の目には、いつもの冷徹な瞳ではなく、どこか幼い笑顔が浮かんでいる。無邪気というか、少しわがままな笑顔だった。
「…もう、本当にお前には振り回されっぱなしだよ」
「だからこそ面白いでしょ?」
檀が太宰を睨むと、太宰は目を細めて微笑んだ。
「だから、俺を嫌いにならないでね、檀」
「太宰、もうちょっと静かにしてくれないか?」
檀が眉をひそめながら、太宰の肩を軽く押さえた。
「静かに?こんなに楽しいのに?!」
太宰は檀の手を払うと、ニコッと笑って言った。
檀はその笑顔に一瞬戸惑いを見せ、すぐにため息をついた。
「もう、勝手に騒げ。俺が何か言っても無駄だろうし」
「うん、無駄無駄。檀がどうしても言うこと聞かないからね!でも、そうだ!今日は俺たちの大切な日だもん、騒ぐに決まってるでしょ!」
太宰はぐるぐると手を回しながら部屋を歩き回る。檀はその姿に呆れた顔をしながら、静かに太宰を見守る。
「大切な日?何が?」
「決まってるじゃん!『今日も一緒に生きてる日』だよ!」
檀はその言葉を聞くと、心の中で小さく溜息をつく。太宰の言葉に、時々本当に理解できない一面がある。でも、嫌いじゃない。
「…まあ、それなら仕方ないな」
檀はそのまま椅子に腰を下ろして、太宰の様子をじっと見守る。
太宰は檀の方を見て、嬉しそうに言った。
「檀、今日も元気そうだね!俺は元気をもらってるよ、檀がそばにいるだけで心強いし」
檀はその言葉に少し驚き、でも口元を緩めて言った。
「…お前、そういうところは急に可愛いな」
太宰はその言葉を聞くと、顔を赤らめて、照れたように目を逸らす。
「何それ!そんなこと言われたら照れちゃうだろ!」
檀は静かに笑った。
「お前、いつもそんな感じだな」
太宰は「むぅ」と唸りながら、檀の隣に座り込んだ。
「檀も、そうやって素直に笑ってくれたら、もっと嬉しいんだけどな」
檀は無言で太宰の頭をぽんと軽く叩いた。
「うるさい」
太宰は満足そうに頷いて、檀に肩を寄せてきた。「だから好きなんだよ、檀」
檀は少し戸惑った顔をしながらも、太宰の肩を抱き寄せる。
「お前が好きとか、何度も言ってるだろうが」
太宰は顔を赤らめ、しばらく黙っていたが、やがて大きな声で言った。
「好きだからこそ、檀が元気ない時に、俺は絶対に守るって決めてるんだよ」
檀は少し驚いたように太宰を見つめ、そしてそのまま柔らかな笑顔を浮かべた。
「お前な、そんな真面目なこと言うの、ほんとに可愛いな」
太宰は照れながらも、檀に抱きしめられるのを心地よく感じていた。
「ねぇ、檀、ずっとこうしていてもいい?」
檀は静かに頷き、優しく太宰の髪を撫でる。
「…まあ、今日はお前が騒いでもいい日だからな」
太宰は目を輝かせて、「よし!」と元気に言った。「じゃあ、これからも一緒に騒ごう!俺と檀、二人で永遠に!」
檀は呆れ顔でため息をつきながらも、心の中でその笑顔を大切に思った。