図書館の静けさの中、整理するために積み上げた本を太宰は一冊一冊手に取ってぱらぱらと捲る。確認をして本を閉じると小さく溜息をついた。
「人間って、ほんと、不思議だね。どうしてこうも、苦しんだり、憎んだり、救おうとしたりするんだろうね」
司書は棚から本を戻しながら、落ち着いた声で応じた。
「それを知るために、本を読むんじゃないんですか」
太宰作品の愛好者でもある彼女は、助手の当番になった太宰と度々問答をするのが日常だった。
本を数冊持ったまま、太宰の方へと司書が体を回す。古い紙の匂いがする部屋の床に短い影が落ちる。
「……なぜ太宰先生は、二足歩行して、手先が器用で、少し他より頭が回るだけの、自己正当化に思考を費やす動物の一種に、夢を見ているんですか」
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