朝露とタバコ朝の光が、まだ冷たい。
縁側に腰かけた太宰は、湯呑を両手で包みながらぼんやりと庭を眺めている。
その姿は、まるで借り物の体で生きているように頼りない。
「……また誰かに言われたのか?」
隣に座った檀が、火のついていない煙草を口にくわえたまま問いかけた。
太宰は視線を動かさず、かすかに笑った。
「“弱者を甘やかしてる”ってさ。ありがたいね。俺の文章を読んで、いちばん手厳しい読者が批評してくれるなんて」
太宰は遠くの空を眺めている。
檀は煙草を指先で弄びながら、庭の草の葉をじっと見た。
朝露が光るその先に、二匹の蟻がせわしなく行き交っている。
「人の弱さを見て見ぬふりするほうが、ずっと簡単だ。突き放せば、楽だ。正論ってやつは、誰かの心を潰す時に便利だから」
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