「……眠れないのか?」
カーテンの隙間から漏れる街灯の明かりの下、檀がぼんやり目を開けていた。
布団の中で、背を向けている太宰に声をかける。
「うん、ちょっとね」
太宰の声はかすかに揺れていた。
「雨音がうるさくて?」
「ううん。違う。……生きてると、時々“やりすごした日”があるなって思って。今日が、まさにそれだった」
檀は眉を寄せて、少し身を起こす。
「……やりすごしただけでも、立派だと思うぞ」
「……お前は、やさしいね。ほんとに」
太宰はぽつりと言って、少し笑ったようだった。
「やさしいっていうか……お前がここにいてくれてる、それだけで、俺としては万々歳だ」
「ふふ。それ、言ってる本人は簡単でも、受け取る方は泣きたくなるんだよ」
「じゃあ、泣けよ」
檀が毛布ごと太宰を引き寄せる。
太宰の背中に檀の体温がぴたりとくっついて、彼は目を閉じた。
「ねえ、檀」
「ん?」
「今夜、死にたくならないように、いっぱい甘やかしてくれる?」
「死にたくなっても、お前が死ぬ時は俺も死ぬからな。そこんとこだけ忘れるなよ」
「……馬鹿だなあ、君って」
「知ってる。でも、お前より馬鹿にはならない」
雨の音だけが部屋を満たしていた。
それでも、心の底から静かで穏やかな夜だった