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    Sasaran_11

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    Sasaran_11

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    書いて貰ったdndzが可愛かったので許可を貰って載せます。

    #だんだざ
    danza
    #dndz

    それでも水をやる図書館の朝は早い。
    といっても、全員が規則正しく起きるわけではない。
    誰かが眠っていれば、誰かが起きている。
    誰かが沈んでいれば、誰かが笑っている。
    ──生きているとは、そういうことだ。

    「……また、こぼれてるじゃないか」

    檀一雄が中庭の縁に腰を下ろすと、そこには小さなバケツがぽつんと置かれていた。
    底には、釘を抜いたような小さな穴がいくつも空いている。
    注いだ水は、時間もかけずに地面へと吸い込まれていった。

    その様子を眺めながら、檀はふっと笑った。
    「これ、太宰が昨日拾ってきたんだ。“俺みたいだろう”って、上機嫌だったよ」

    「随分と自虐的だな」

    声はすぐ背後から。
    影を落とすように現れた太宰治が、朝焼けの中にぼんやりとした輪郭で立っていた。

    「でもね、俺は誇りたいんだ。こう見えて、一度くらいは“ちゃんと満たされた”ことがある。お前に」

    「それでも、漏れたんだろう?」

    「うん。……ごめんね」

    謝るのが、いつも早すぎる。
    それは彼の癖で、檀を少しだけ黙らせる。
    けれど、もう叱ることはしない。
    それは何度も、何度も繰り返してきたやり取りだったから。

    檀はバケツを脇へどけ、代わりに自分の手で土を掬った。
    まだ夜の冷たさが残る、しっとりとした黒土だった。

    「詫びる暇があるなら、花でも植えたらどうだ」

    「咲かないよ、そんな場所には」

    「それでも水をやるのが、俺の生きがいだからな」

    太宰は黙っていた。
    言葉を探しているのではない。ただ、ほんの一瞬だけ、息の仕方を忘れていた。

    「バケツが水を漏らしてもいい。また注いでやる」

    「……神様か何かのつもり?」

    「いや。お前に水をやれるなら、それだけでいい。泉の価値は、その一点で十分だ」

    やがて太宰は、目を細めて笑った。
    すべてを信じられるわけじゃない。
    けれど、この一瞬だけは、信じたいと思った。

    「じゃあ、次は穴を塞いでみようか。お前の水が、ちょっとでも長く残るように」

    「……やれるものならな」

    朝の光が、ふたりをそっと包む。
    バケツには、今日も新しい水が注がれていた。
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