1日1K暁①1
はやく、と急かされて珈琲片手にソファへ戻ると映画はもう始まっており、目を輝かせている暁人を横目で盗み見る。コロコロ変わる表情が愛らしい。もしあの夜の様に全てが終わろうとしてもコイツが隣に居たならば、オレはそれだけで満たされるだろう。なんて格好つけて緩む口元をカップで隠した。
『世界の終わりは、幸せで』
(お家デート)
2
好きと伝えるだけで満足出来る程子供じゃないし、触れ合うだけで察せられるほど大人じゃない。どっちも欲しいんだ、欲張りかな。今日も言えなかった言葉の代わりにおやすみを。背中合わせの熱を感じながら、呟く寂しいの一言は音にならずに口の中で溶けて消えていった。
『寂しい、と呟いて』
(すれ違い)
3
座ったまま眠る暁人の、目元に居座る隈を親指でゆっくりなぞる。ハードスケジュールに疲れ切っているのか起きる気配はない。将来が明るい若者の隣にこんなおじさんがいて良いのだろうか。彼は誰よりも幸せになって欲しいのに、きっとこの思いは彼の幸せの障害になる。けれど。ああ、こんな感情は、
『きみがねむっているうちにころさなきゃ』
(歳の差①)
4
昔、刑事をやってた頃に迷子の兄妹を目的地に連れて行ったことがある。しっかりした子供で、二人して泣きそうな顔してるのに絶対泣かなかったのを覚えている。特に兄の方は強がって、眉に力が入ってて面白い顔してたぜ。今オマエあの時と同じ顔してるよ。あー泣くな、可愛い顔しやがって。飲みすぎだ。
『運命を感じろ!』
(昔話)
5
KKは色気出して迫れば僕か根負けして許すと思ってるよね。今度こそだめです。そもそも青少年の教育に悪い顔を外でするの止めてよ、僕がどれだけ心配になるかわかる?そんな顔見たら耐性の無い子たちなんて皆引っかかるよ。そういう顔は二人きりのときだけにして、他の人に見せないで。…KK、聞いてる?
『いやお前が言うな。』
(嫉妬)
6
炊飯器を開けると白い湯気が立ち、ふわりと香る白米のにおいに暁人は顔を綻ばせた。味噌汁と焼き鮭と玉子焼にお漬物。納豆は買い忘れたので無しとして、簡単な和朝食の完成だ。久しぶりに一緒に食べる朝食に気持ちが弾む。丸1日オフとはいえ、そろそろ起こさなくては。寝室を覗いて声をかけた。KK!
『朝食を御一緒しませんか』
(朝の日常)
7
唇にすり、と触れると暁人は顔を赤く染めて顔を背けた。初心な所も可愛いが、我慢もそろそろ限界だ。後ずさる彼を壁に押しつけ、服の裾に手を差し込み腰をゆっくりと指先で撫でる。止めるように肩に置かれた手を掴んでその指先に唇を寄せた。
「無意識だとしても煽り続けた自分を恨めよ、暁人」
『腹を括れ』
(誘惑)
8
朝からそわそわしていた気持ちが時間が経つにつれて萎んでいく。前に好きだと言っていた服で一緒に出掛けたが反応は何もない。女々しい事をしているのは自覚しているが、それでも少しは期待し…いやまて相手はあのKK、気付くわけがなかった。自分からアピールしないと始まらない!そう決意して早半日。
『そろそろ気付いてよ』
(根気勝負)
9
ベッドに引き倒され、ため息をついたかと思うとカサついた手のひらが目を覆ってきた。眠れてないのか、という質問に答えられるほど頭が働かない。温かい手が心地よく、眠気を誘う。KKの腕を引いて隣に寝かせると、手に頬ずりをした。
優しいこの手はいつか僕を置いていく。だからそれまでは一緒に。
『眠ってしまおうよ。』
(歳の差②)
10
アジトからほど近い銭湯で湯船に浸かりながら、頭をガシガシ洗うKKを眺める。あのときの約束を彼はきっと覚えていない。今日は池に落ちるなど、水難の不幸が重なったから仕方ないのかもしれない。けれど楽しみにしていた僕は遣る瀬ない気持ちでいっぱいだ。湯船の縁に頬杖をついて呟いた。
町中華…。
『叶わない約束なんて、しないでよ』
(くいしんぼ)