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    忘羨とLIMEのお話。

    #忘羨
    WangXian

    「藍湛のLIMEって素っ気ないよな」

    何気ない魏嬰の言葉に藍湛は激しく動揺した。
    素っ気ない、それはどう捉えても悪い意味だ。
    魏嬰に悪い意味合いの言葉を投げられた、ということは

    「私に・・・飽きたのか・・・?」
    「は?」
    「言ってくれ。どこを直せばいい?どうすれば君は私の傍から離れずにいてくれる?」
    「藍湛?藍湛?」
    「私には君しかいない。君しかいらない。魏嬰、どうか愚かな私にもう一度だけチャンスを」
    「お前はさっきから何勘違いしてるんだ!別れ話をしてるんじゃないんだぞ!」
    「・・・・・・違うのか?」
    「違う!ちょっとした世間話をしてただけ!」

    藍湛はゆるゆると肩を下ろすと、ほっと息を吐いた。

    「君に嫌われたのかと」
    「俺がお前を嫌いになるわけないだろ!」

    そう言って魏嬰が力いっぱい抱きついてくるので、藍湛も強く抱き締めた。
    ぐりぐりと肩口に額を擦り付けてくるので少々くすぐったい。
    魏嬰は本当に深い意味もなく言っただけなのだ。
    要件のみのシンプルな文章は藍湛らしいと思うし、そういうところも含めて藍湛が好きだ。
    ただ、やっぱり、ちょっとだけ。
    たまにでいいからスタンプとか使ってほしい。
    眠る前の「おやすみ」に「愛してる」とか付け足してほしい。
    なんの脈略もなく「好きだ」って言ってほしい。
    そんなちょっとした下心があっただけなのだ。
    魏嬰の首筋に長く吸いついていた藍湛は、やがてゆっくり顔を上げると宣言した。

    「私は、LINEの送り方を習得してみせる。待っていてくれ」
    「お、おお」

    何か変なスイッチを押してしまったらしい。


    ◇◇


    それから数日。
    二人で手を繋いで歩いた帰り道。
    家の前まで魏嬰を送り届けた藍湛は、その両手を握り魏嬰に告げた。

    「今日、私は学んだ成果を君に見せようと思う」
    「何のこと?」

    魏嬰は記憶力がすこぶる悪かった。

    「・・・・・・・・・君が、私のLINEが素っ気ないと言った」
    「あ、ああ!あれね!うん、覚えてる!」

    すっかり記憶の片隅に追いやられ、藍湛に言われないかぎり思い出しもしなかっただろうが、慌てて頷く。
    藍湛の真剣な目を見て魏嬰も背筋を伸ばした。

    「待っていてくれ」
    「うん」

    戦地に向かうような凛とした背を見送りながら、魏嬰は楽しみなような恐ろしいような、なんとも言えない気持ちだった。


    ◇◇


    ポコン

    魏嬰は独特の通知音を鳴らすスマホにすぐさまかぶりついた。

    魏嬰💕

    この時点で魏嬰の腹筋は崩壊した。

    魏嬰💕
    ただいま😘✨✨
    湛湛は今家に家に着いたよ‼️
    今夜は冷えるね☃❄お風呂🛁💞にゆっくり浸かって暖かくしてネ😘
    今日の魏嬰もとっても可愛かった😍😍
    思わず食べちゃいたいくらい😝
    来週の土曜日はお泊まり💕なんてどうカナ❓❓✨✨
    君と一緒に過ごしたいなーなんちゃって😆



    魏嬰は瀕死だった。



    ◇◇



    おかしい。
    確かに既読はついているのに、魏嬰からの返信がない。
    時計を見てもまだ眠る時間ではないはずだ。
    まさか、何かあったのか・・・?
    居ても立ってもいられず、藍湛は再び魏嬰の家へと向かった。


    ◇◇


    「魏嬰!!」

    合鍵を使って部屋の中へと駆け込むと、魏嬰はベッドの上で蹲っていた。

    「魏嬰どうした。こんなに震えて・・・腹が痛むのか?」

    救急車を呼ばなくては、と顔面蒼白でスマホを取り出す藍湛を魏嬰は震える声で止めた。

    「藍湛、藍兄ちゃん。お前どんな顔してこの文章打ったんだ?」
    「どんな顔とは?」
    「まさかそんな真面目な顔して打ったのか?!お前が?!」

    そう言うと魏嬰は再び腹を抱えて笑い出した。
    どうやら腹痛で震えていたわけではないとわかると、藍湛は落ち着いて魏嬰の背中を撫でた。

    「魏嬰。息をしなさい」
    「ひー、っひーっ」
    「吸って、吐いて」

    だんだん呼吸が正常に戻ってきた魏嬰を見て、藍湛はそっと目を伏せた。

    「私は、上手くできなかった?」
    「そんなことはない!完璧だよ!」

    あまりにも悲しそうな目をするので、魏嬰は笑いすぎてしまったことを後悔していた。

    「ただ、そうだな。俺が予想していたのと180度違ったから驚いただけなんだ。確かにこういったメッセージを送る人間もいるけど、お前には似合わないから無理する必要はない。いつも通りでいいんだよ」
    「しかし、それでは・・・」
    「けどやっぱり寂しいから、たまにスタンプとか送ってくれると嬉しいかな。あとは・・・その、寝る前に愛してるって言ってほしい」

    パッと顔を赤らめる恋人に藍湛もまた耳朶が赤くなった。
    こうして、二人のLINEでのやり取りに一日一回は「愛してる」という習慣が生まれた。
    なお、一度学習したことを忘れない藍湛はその後思い出したかのようにおじさん構文でメッセージを送り、魏嬰の腹筋を苦しめたのだった。
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