胃袋だけじゃ足りない③ 普段は凛々しく整った目元がフワリ、と優しげに綻ぶのが好きだ。
でも残念なことに今、杏寿郎が愛おしげに見つめているのは俺ではなく。
俺の作った芋料理、なんだが……。
『君の作った芋料理は格別にうまいのだ。だからもっと……もっと欲しいっ猗窩座…っ』
『……っっ!まかせろっ♡たくさん作ってやるぅっっ♡♡』
恋人のおねだりに即オチした猗窩座は張り切った。張り切りすぎた。
そして予想通り煉獄は猗窩座が張り切って作った芋料理に夢中なのである。
いや、だって杏寿郎に伏し目がちでもっと欲しいっ…とか言われたら張り切るしかないだろ?
「あの…杏寿郎。そろそろ…」
「んむっ?」
くそっかわいいなオイ。
いや駄目だ。ここは心を鬼(元鬼だけに)にして…っ!
「だから、杏寿郎っそろそ……」
「おかわりを頼む!」
「…っっまかせろぉぉ♡」
今度はキラキラの笑顔にやられて猗窩座はまた、即オチ2コマ状態になってしまう。
早く…早く何とかしないと!杏寿郎はずっと芋料理に夢中で、全然俺とイチャイチャしてくれない!!
「杏寿郎…そんなに芋が好きか?」
「うむ。好きだ!ずっと食べていたいほど、大好きだ!」
このままだと禁断の言葉『俺と芋…どっちが大事なんだ…!』を放ってしまうかもしれない。
怖い…速攻で芋って答えられそうだな。
杏寿郎ならあり得る。
泣くぞ、俺。
「…君、さっきから百面相で忙しいなぁ。あと…思ってることが全て声に出ているぞ」
「…………うぇっ!?」
いつの間にか食べることを止めた煉獄が猗窩座の顔を覗き込んでいた。
声に出てた…全部?
俺と芋どっちが…のくだりも?
芋に嫉妬してることも?
恥ずかしすぎる。
泣きそう、俺。
「ハハっ!また声に出てる。ばかだなぁ…君が俺の為に心を込めて作ってくれたから、こんなに美味しいのだろう?」
今、煉獄の目に映っているのは芋ではない。
猗窩座だ……。
「……杏寿郎っ」
猗窩座の視界がジワリ、と霞む。
「君は…泣き虫だな」
嬉しい。杏寿郎がやっと俺を見てくれた。
でも…少し、困らせてやるんだからなっ!
「…どうせ俺より、芋の方が…好きなんだろ…」
「腹ペコだから拗ねてしまったのか?」
煉獄は額をコツリと合わせ、猗窩座の頬に優しく触れた。
「気付くのが遅れてすまない…」
「次は君が…満たされるまで【食べて】いいぞ…」
「………あかざ?……え…っ?ちょっ…は、鼻血っっ!?」
拗ねた態度は何処へやら。
再び、即オチ2コマ状態になった猗窩座は恍惚とした表情で鼻から血を垂れ流すのであった。
「ふふっ…頼むからっ鼻にティッシュを詰めたまま顔を近づけないでくれ…っ笑いすぎて…腹がいたい…っ」
「酷いっ…杏寿郎!俺、泣くぞ…泣いてしまうぞっ!!」
情けない姿のまま、開き直り【いただきます】をしようとする猗窩座に煉獄が堪えきれず吹き出してしまう。
『ふふっすまない。………そんなに好きか?』
『きょ…杏寿郎っ…好きだっずっと食べていたいほどっ大好きだっっ!!』