AWAY,AWAY,AWAY from HOME ホメロス4日目4日目
「…どうしたんだこれは」
思わず感嘆の声が漏れる。
目の前の箱にはそれぞれ違う種類のケーキが4ピース。
一目でわかる。昨日の大量生産型スイーツとは格が違う。
目の前の男が何か説明しているが、(聞いておいてなんだが)正直どうでもいい。早く食べたい。
そんな雰囲気を珍しく察したのか、男が皿を持ってきた。
渡された皿に箱の中のケーキを一つ選んで乗せ、いそいそとリビングへ向かう。
ソファに座ると同時にひとくち口に入れてみると、幸せな甘さが口内を満たした。
思った通りだ。格が違う。
幸せな味を噛み締めていると、グレイグが紅茶の入ったカップを持ってきた。
「貴様にしては、良い店を知っているではないか。上出来だ」
言葉は分からなくても、褒められていることは分かるらしい。
グレイグはオレの目の前にお茶を置いて、にこにことこちらを見ている。
「…欲しいのか?」
食べかけがのった皿を向けると、グレイグは慌てた様子でぶんぶんと首を横に振った。
「フン…まぁ欲しいと言ったところでやらんがな」
視線を皿に戻して続きを堪能する。
生クリームも使われているフルーツも昨日食べたスーパーのものとは比べ物にならないのはもちろんだが、スポンジ部分からして味が違う気がする。
そう言えばここバンデルフォンは小麦の一大産地だったな。
そんなことを考えながら一つ目を完食し、次を取りに行こうとしたところで、まだグレイグが傍らでこちらを見ていたことに気が付いた。
「まだそこにいたのか。…何を見ている」
軽く睨め付けると、グレイグは妙に焦って何か言い訳のようなことを言った後、手にした辞書のページをめくりいくつかの単語を指差した。
『観光』
『外食』
何故家にこもっているのかと言いたいのだろう。
喧騒から離れて静かに過ごしたいからわざわざこんな田舎くんだりまで来ているのだ。
観光やグルメを楽しみたいならそもそももっと別の所に行く。
そんなこともわからないのかこの愚鈍は。
オレはグレイグの手から辞書をひったくり、ひとつの単語を指差した。
『アホ』
驚いた顔で固まってしまったグレイグを横目に、ふたつめのケーキを選ぶべくオレはさっさとその場を後にした。
観光にはいかないが、確かにこんないい天気の日に部屋にこもって仕事をするのはもったいないかもしれない。
仕事に充てる予定だった午後の予定を変更して、オレは日当たりのいい窓際に置かれたソファに寝転び、持ってきた本を開いた。
窓の外は明るく、静かで読書にはもってこいだ。
時折吹く風も心地よく、数ページも読み進めないうちに眠気がやってきた。
ケーキを二個食べた後に昼食もとった後だ。致し方ないだろう。
本を閉じ、眠気に抗わず目を閉じる。
グレイグ、無知なお前に教えてやる。
これが贅沢な休暇の過ごし方だ。
そうして次に目を覚ました時、あたりはすっかり暗くなっていた。
本格的に眠ってしまっていたらしい。
「グレイグ?」
ソファの上で体を起こしてその名を呼んでみるが、返事はない。傍らの時計に目をやると時刻は8時を過ぎていた。
グレイグはとっくに帰っている時間だ。
「…そんなに眠っていたか」
開いていた窓はカーテンも閉められ、しっかり施錠されている。
戸締りはしっかりやっていったようだ。
ついでにオレにはブランケットがかけられていて、読んでいたはずの本はテーブルに置いてあり、更に真っ暗では危ないと思ったのか灯りがひとつだけ付けてあった。
「…」
暗い部屋に、グレイグのつけた灯りがひとつだけ。
その灯りの下、本の上に置かれていたメモを手にとる。
『夕食 冷蔵庫』
文字の横には下手糞な絵が添えられていた。
「…これは…キノコのつもりか?」
わざわざ言われなくてもキノコ料理が出てくるであろうことは想像がついていたが。
そう思いつつ、下手糞なその絵に笑いが込み上げた。