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    k i r i

    練習練習。

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    どこも滅んでない平和な世界線で出会ったキッズグホの話。
    「僕と踊ってくれないか?」はDANDAN~な歌の歌詞です。好きです。
    ちなみにヒナゲシの花言葉は「恋の予感」ですってよ。

    DANCE 16-1
    恋に落ちる瞬間と言うものがあるのなら、
    僕の場合は初めて君に会ったその時だった





    幼い日に連れられていったあのお茶会は、何のお茶会だったのだろう。
    父と2人の姉と共に長い長い時間馬車に揺られ、到着したお城のような大きなお屋敷の庭で開かれたあのお茶会は。
    自分と同じ年頃の子供も大勢いたから、あまり格式ばったものではなかったように思う。
    更に思い返してみれば一緒にいたはずの父の姿はお茶会になかったから、子供たちをそこに集めて大人たちはどこか別の場所で何か難しい話でもしていたのかも知れない。



    「ちょっとこっちにいらっしゃい、グレイグ。リボンがゆがんでるわ」

    呼ばれておとなしく長姉の前に立つと、彼女は優しく胸元のリボンを結び直してくれた。

    「これでいいわ。
    いいこと、グレイグ。あまり遠くへ行かないこと、お行儀よくすること。
    …それと、素敵な子がいたらダンスに誘うのよ」

    長姉の言葉に首を傾げると、彼女は悪戯っぽく笑った。

    「お嫁さんが見つかるかも知れないわね」



    つまりは、お嫁さんにしたい子がいたらダンスに誘えと言うことなのか。
    理屈はよくわからなかったが、姉が言うならそういうものなのだろう。
    もっとも、自分は父上に教わったあの踊りしかできないが。
    『お嫁さん』はあの踊りを一緒に踊ってくれるのだろうか?
    子供心にそんなことを思った。



    その後は、同じ年頃の息女たちとおしゃべりに興じてる姉たちを尻目に、時折テーブルの上に用意されたお菓子をつまみながら、広い庭を探検した。
    自分と同じ年頃の子供たちも何人か見かけたが、彼らはすでに数人のグループで仲良く盛り上がっていて、その中に入っていくのはなんだか憚られた。

    つまらない。
    あとどれくらいここで時間をつぶせばいいのだろうか

    姉たちはおしゃべりに夢中でこちらを気にしている様子はない。
    あまり遠くへ行かないように言われていたが、もう少し庭の奥の方まで行ってみようか。

    こっそりお茶会の輪の中から抜け出すと、迷路のような植木の道をどんどん奥へ進んで行った。
    途中に見つけたオレンジ色の花は、母上へのお土産にしよう。
    この白い花はなんという花なのだろう。見たことがない。
    こっちの黄色い花をたくさん咲かせるこの木は、うちの庭にもある。
    今年もたくさん咲いたわねと、嬉しそうに母上が笑っていた。
    そうして自分の背より高い、植木の迷路を抜けると、小さな噴水があった。
    そしてその傍ら。白いベンチに。

    色とりどりのドレス、笑いさざめく人々の声、
    そんなものから切り離されたその静かな場所に、その子はいた。

    ひとり、白い木のベンチに座って本を読んでいる。
    光を集めたような金色の髪と、かわいらしい丸い顔。
    なんだか難しそうな分厚い本を膝にのせて、地面に届いていない足を時折ぷらぷらとさせていた。

    声をかけようか、どうしようか、

    こういう時、なんて声をかければいいんだろう。

    こんにちは、
    いい天気だね、
    何を読んでいるの?

    ふと、右手に握りしめている花に目がいった。
    さっき見つけて、母上へのお土産にしようと手折ったものだ。
    そうだ、これをあげればいいじゃないか。
    外で見つけたきれいな花を持って帰ると、母上や姉上たちはいつも喜んでくれるから。
    きっと、あの子も。
    意を決して白いベンチの前に一歩進み出る。
    心臓がすごい速さで鳴っている。

    「あの、」

    勇気を振り絞って声をかけると、彼女は顔を上げてこちらを見た。
    金色の瞳に見据えられて、呼吸が止まりそうだ。

    「…なにか」
    「えと、あの、これ、」

    緊張で顔が熱くなって、言葉が喉に張り付いてうまく話せない。
    手にしたオレンジ色の花を差し出すと、彼女は目を丸くした。

    『素敵な子がいたら、ダンスに誘うのよ』

    長姉の言葉が頭をぐるぐるとまわる。
    そうだ、ダンスに誘うんだ。ダンスに、誘う…

    「僕と、踊ってくれないか」

    金色の瞳が更に丸く見開かれた。
    そしてそれはすぐに、不愉快そうに細められた。

    「…僕は、男だ」

    それは、産まれてからの6年間で、一番の衝撃だった。
    驚きのあまり次の言葉が出てこない。

    「失礼な奴だな。髪が長いから間違えたのか?
    …それとも、馬鹿にしてるのか」

    彼女、いや彼はその細い目を吊り上げてきっと自分を睨み上げた。

    「いや、ごめん、そんなつもりじゃ、…ただ、」

    どうしよう。女の子だと思ったのは事実だけれど、別に馬鹿にしようなどとはこれっぽっちも思っていなかった。

    「男でも女でも、その髪、とてもきれいだと思って、それで」
    「きれい…?」
    「ごめん、嫌な気持ちにさせるつもりじゃなくて。本当に、きれいだとおもって、
     姉上が、すてきなこがいたらダンスに誘えっていっていたから、あの、」

    必死に言葉を紡ぐと、彼は視線を落として自分の金色のしっぽをつまんでくるくると指に巻き付けた。
    しばらくそうしていたかと思うと、ふ、と彼は少しだけ笑って、

    「…ダンスは踊ってやれないけど、これは受け取ってやる」

    震える自分の手から、ありふれた花を受け取ってくれた。












    6-2
    母上、お加減はいかがですか
    この花ですか?もらいました
    いいえ、お茶会で会った、知らない子です
    僕を女の子と間違えて声をかけてきたんです
    失礼な奴でした

    でもその後、本を一緒に読んだんです

    デルカダールの建国神話です
    その子はバンデルフォンから来たのだと言っていました
    続きが気になると言ったので、本を貸してあげたんです

    …ううん、いいんです
    僕はもう何回も読んでいるから


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