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    k i r i

    練習練習。

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    どこも滅んでない平和な世界線でまた会った青年グホ

    DANCE216-1
    “昨日のことのように覚えている”





    「父の名代で参りました。デルカダール王に於かれましてはごきげん、えと、ご機嫌…」
    玉座の前で跪き、故郷を出る前に何度も父と練習した口上を述べようとしたが、緊張のあまり、舌がもつれてうまく話せない。
    まずい、次はなんて言うんだったか。焦れば焦るほど頭の中が真白になっていく。
    固まっていると、そう畏まらなくともよい、と頭上から優しい声色が降ってきた
    そっと顔を上げると、名君と名高いデルカダールの王様はその声と同じく優しく笑っていた。
    「お主とはまだ幼い時分に会ったことがあるが、覚えておらんだろうな」
    「申し訳ありません」
    「謝ることはない。もう10年近く前のことだ。あの頃は今のマルティナと同じくらいの年頃だったが、立派になった」
    「まだまだ未熟な若輩者です」
    「そう謙遜するな。バンデルフォンにかの剣神ジエーゴも認める若き騎士がいるという噂はこの国まで届いておるぞ」
    「先日ジエーゴ殿のところから戻ったばかりですが、最後まで師匠には怒られっぱなしで」
    正直にそう白状すると、愉快そうな笑い声が降ってきた。
    「時にお父上は、魔物に襲われ怪我をしたと聞いたが」
    「大したことはないのですが、如何せん足をやられてしまって、長旅はまだ」
    「そうであったか。
    ともあれ、名代とは言えせっかく遠路はるばるやってきたのだ。ゆっくりして行くとよい」
    自分を労わるその言葉に、ありがとうございます、と再び頭を深く下げた。





    玉座の間から出て、大きく息をひとつ吐き出した。
    王への謁見を終え、取り敢えず、これで父上の代理としての一番の仕事は終えた。
    細かなお使いはまだ残っているが。
    一息つこうと宛がわれた貴賓室への廊下を早足で進んでいると、向かいから談笑しながら歩いてくる二人組が見えた。
    黒髪の少女と、自分と同じくらいの、金髪の青年。
    黒髪の少女はマルティナ様で間違いないだろう。
    兄妹のようにも見えるが、確かこの国の姫君は一人っ子だったはずだ。

    道を開け、頭を下げると姫君はにっこりとこちらに笑顔を向けてくれたが、隣の青年はまるで自分が見えていないかのようにこちらに視線をやることすらしなかった。

    (…スカした、感じの悪い奴だな)

    顔を上げ、目の前を通り過ぎたその後姿を見遣ると、金色のしっぽがその背で揺れていた。

    「―――」

    気が付いたら、思わず一歩駆け寄って、後ろからその腕を掴んでいた。
    驚いて振り向いた金色の瞳と目が合う。

    「…何か?」

    これでもかと言うくらい声と視線に不信感を露わにして、金色の瞳の持ち主は頭一つ高いこちらの顔を睨みつけた。

    「あ、…すまない、あの、…」

    力加減も忘れて掴んだ腕を慌てて離してから、必死に言葉を探した。

    「…その、覚えていないだろうか、昔、会ったことがあると思うんだが、」
    「ホメロス、お友達なの?」

    姫様が横から不思議そうに自分たちを見上げた。
    ホメロスと呼ばれた金髪の青年はこちらの頭のてっぺんから爪先までを一瞥してから、さも興味なさそうに、知りません、と言った。

    「人違いでしょう。…行きましょう、姫様」

    後はもう何事もなかったかのように、彼はその場を後にした。
    ちらちらと何度もこちらを振り向く姫様とは対照的に、一度も振り向くことはなかった。





    貴賓室の寝台に寝転がってぼんやりと天井の模様を眺める。
    あの後、世話係のメイドに聞いたが、あの金髪の青年は姫様の家庭教師兼遊び相手で、名前をホメロスと言うらしい。

    金色の髪の、ホメロス。
    思い出の中より幾分か輪郭がしゅっとしていたが、その面影は間違いなく彼だった。

    胸の上に乗せていた本を手に取り、色褪せた赤い表紙を眺める。
    デルカダール建国神話だ。
    あの日彼が聞かせてくれた話の続きが知りたくて、母上や姉上にせがんで何度も何度も読んでもらった。
    自分でも読めるようになりたくて、必死に字の勉強もした。

    今回、もしかしたら懐かしい友に返すことができるかもしれないと持ってきていたものだったが、どうやらそれは叶わないらしい。

    暫くぼんやりとその表紙を眺めていたが、やがてベッドから起き上がり、その本を荷物の一番奥にしまった。






    16-2
    心臓がうるさい。
    掴まれた腕が熱を持ったように熱い。馬鹿力め。

    『…その、覚えていないだろうか、昔、会ったことがあると思うんだが、』

    覚えているに決まっている。
    昨日のことのように覚えている。
    記憶の中の少年と随分みてくれは変わってしまったが、間違いなくあいつだった。

    あの頃は背も自分と変わらない、むしろ自分の方が高かったくらいなのに、見上げるくらいになってしまった。まるで大人の騎士だ。
    それでも記憶の中と変わらない翠玉のようなその瞳に、一瞬見惚れてしまってから、すぐにそんな自分が恥ずかしくなってしまった。
    変に思われただろうか。
    こんな状況で、自分も覚えていた、なんて、とても言えない。

    ああ、腕だけでなく、顔まで熱くなってきた。

    「待って、ホメロス、早いったら」

    無意識に早足になっていたらしく、姫様の声に慌てて歩を緩める。

    「失礼しました、姫様」
    「もう。急に早足になるんだもん。

    …あら、どうしたのホメロス、顔が赤いわ」



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