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    minamidori71

    @minamidori71

    昭和生まれの古のshipper。今はヴィンランド・サガのビョルン×アシェラッドに夢中。

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    minamidori71

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    ビョルアシェ。ビョルン君埋葬時に、遺体に語りかけるアシェ。相手が死体なので、生前言えなかったことも結構言っています。甘口なので、お好みに合わなければ回れ右を。
    アシェの少年時代については、語っていた以上にひどいことがあったという気がしています。
    pixivで公開していますが、こちらにも試験的にアップしてみます。

    #ヴィンランド・サガ
    vinlandSaga
    #腐向け
    Rot
    #アシェラッド
    asheraad
    #ビョルン
    bjorn
    #ビョルアシェ
    byelorussia

    Last Kiss 雪に覆われた小高い丘の中腹まで下りてきたところに、見張りの番小屋がある。そこから薄く煙が立ちのぼっているのを確認して、アシェラッドは足を止め、担いでいた男を一旦下ろした。
     見張り当番の兵士に事情を話し、スコップを借りた。アシェラッドよりも年長らしい、人の好さそうなその兵士は、昨夜の飲み残しで悪いが、と言いながら、素焼きの酒瓶を差し出してくる。中身は蜂蜜酒だった。
    「こいつはありがてェな。お前好きだろ、ビョルン」
     すっかり体温を失ってしまったくちびるにひとしずく、指先で含ませてやる。わずかに生気がよみがえったが、そのせいでなにかもの言いたげにみえる。
    「なんだ、もっと飲みてェか」
     ひと口、アシェラッドも蜂蜜酒を口に含んだ。甘ったるい酒は好みではない。しかし今は、渇ききった舌に、その甘さが嬉しかった。残りを算段に入れながら、もうひと口。いつも美味そうに飲んでいた男の笑顔が、眼の奥にちらつく。
    「心配すんな、ちゃんと残しといてやるから。オレが蜂蜜酒好きじゃねェのは、知ってるだろ。朝っぱらから決闘二件、その後ガキども相手に長々と喋ったんで、喉が渇いちまった」
     小降りだが、雪はまだ止む様子はない。さらに降り積もってしまう前に、すべてを終えてしまったほうがよいだろう。
     なかば凍った土を深く掘るのは、やはり難儀した。時折腰を伸ばし、蜂蜜酒で喉を潤しながらも、滅多なことではこぼしたことのない弱音が、口をついて出る。
    「……やれやれ、歳ァとりたくねェもんだ」
     そもそも、こんな歳になるまで戦場の泥にまみれているつもりはなかった。とうの昔に主を見つけ、今ごろはどこかの王宮で仕えているか、さもなくば故郷に凱旋しているか。そのときはすべてを切り捨て、後腐れなく身ひとつでその場へ飛び込むつもりであった。いつでもその心づもりで振る舞い、余計な情など振りまかず、自分にもかけられないようにしてきた。なのに。
     ――例外ができちまったなあ、ふたりも。
     ひとりはトルフィン。もっともあの少年の場合、彼が父の仇としてアシェラッドに執着したせいだ。しかし残るひとりについては、アシェラッド自身がそう仕向けた部分は確かにある。それでも抑えていたはずなのに、知らず知らずのうちに、情を注いでしまっていた。
    「……お前があんまり、オレを甘やかすもんだからよ。ビョルン」
     墓穴のふちに腰掛け、アシェラッドは大きく息をついた。土の上に横たわる大柄の男を、なにものにも妨げられることなく眠らせてやれるだけのものを、ようやく掘ることができたようだ。
     穴の中に、男を慎重に横たえた。それから自分もその隣に腰を下ろし、酒瓶を引き寄せる。男の顔にこびりついていた血と泥を拭い、残りの酒をすべて口に含んで、なかば開いた彼の口に静かに注ぎ込む。
    「美味いか」
     乱れた髪も整えてやった。できればからだも清めてやりたかったが、それは叶わない。せめてもの手向け、できることは、ほかに何が、……。
     そう考えると、男の死に顔がますます、もの言いたげにみえてくる。とどめを差したとき、心残りなく逝かせてやれたようにみえたのは、やはり手前勝手な思い込みだろうか。
    「……そりゃア、拗ねるだろうなあ。お前、焼きもち妬きだからな。ずっとお前、オレのことをもっと知りたがってたろ? 子どものころとか、お前と出逢う前の話を。なのに長年一緒にいたお前を差し置いて、あのガキどもに話しちまったんだ。腹を立てるのも、無理はねェな」
     だがな、と呟いて、男の髪を掻き上げた。眼窩のくぼみの深い、いかつい額に触れる。幾度もくちづけた額。口もとに含羞を滲ませて俯く表情がずいぶん幼くて、からかってむやみに接吻しては、彼を困らせた。
    「なんでオレが、お前に話さなかったと思う? お前に失望されたくなかったからさ。それに、あのガキどもにも全部話した訳じゃねェ。子どもに聞かせられるか? あいつらが今知っている以上の地獄があるだなんて……たとえ奴隷の生んだ子とはいえ、実の息子に、腹違いの弟に……殺すよりもむごいことを、二年間も平然とし続ける男どもが、この世にはいるだなんて、な」
     しばらく男の額に触れたまま、アシェラッドは押し黙っていた。なにより自分自身に、驚いていた。
     そこまで話すつもりはなかった。いくら相手がすでに死人で、応えなど返ってはこないとしても、口に出してしまうとは思ってもみなかった。なのに、不思議なほどに冷静だった。むしろ、吐き出すことができてよかったとすら思う自分がいるのだ。
     ――ああ、ビョルン。
     喪って、はじめて思い知る。この男に、どれほど支えられてきたのかを。彼の声。彼のまなざし。彼のぬくもり。いついかなるときも傍らに立ち、絶対に自分の味方でいてくれる男。もっと縋ってしまえればよかった。もっと早くに、何もかもぶちまけて、からだだけではなく心も預けてしまえればよかった。そうすれば、もっと別の人生があったかもしれないのに。
    「まったくなんでお前は、オレなんかを選んじまったかねえ。……」
     そう、もっと別の人生があったかもしれないのは、この男とて同じではないか。しかし、赦しを乞えば、きっとこの男は烈火のごとく怒るだろう。
     だから、この男を送るためにかけてやれることばは、ひとつしかない。
    「……正直、オレはもう、疲れちまってね。あの王子を無事、王位に押し上げてやることが叶ったら、オレの故郷に手を出さないよう約束させて、……さっさとこの世からおさらばしてェもんだ。腐ったこの世界は、王子がなんとかしてくれるだろう。デーン人どもがどうなろうと、知ったこっちゃねェし、なによりオレのくだらない冗談につきあってくれるヤツがいねェ」
     胸の上に男の愛剣を置き、両の手をその上で組ませてやった。そして今一度、ゆっくりと額から頬を、節くれだった指をなぞる。慣れ親しんだ輪郭を、永遠に記憶にとどめておけるように。
    「ウェールズ人は、輪廻転生を信じているんだ。次はデーン人とも戦争とも奴隷とも、無縁な時代に生まれてェ。だからお前もさ、ビョルン。こんなクソみたいな時代じゃなくて、次はもっといい時代に生まれておいで」
     そうしたらそのときこそ、彼に惜しみなく与えよう。この心もからだも、すべてを包み隠さず、あるがまま。ありったけの愛を返してやろう。今生で彼から注がれたものを倍に、それ以上にして。
     最後に重ねたくちびるは、蜂蜜酒と雪と、ほんのすこしの塩の味がした。



       了
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