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    minamidori71

    @minamidori71

    昭和生まれの古のshipper。今はヴィンランド・サガのビョルン×アシェラッドに夢中。

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    minamidori71

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    ビョルアシェ。原作の五年前くらい。おそらくイングランドのどこかで、砦を攻め落とした直後、たそがれるアシェラッドとそれを見守るビョルンの話。
    twitterで、ちょっと呟いたネタです。

    #ヴィンランド・サガ
    Vinland Saga
    #腐向け
    Rot
    #ビョルアシェ
    byelorussia
    #アシェラッド
    asheraad
    #ビョルン
    bjorn

    残照 昼前から激しさを増した戦闘の勝敗が定まり、砦のすべての門が開かれたのは、川向こうの森に傾いた陽の端がかかるころであった。
     残党狩りの指揮をトルグリムとアトリに命じ、アシェラッドは物見櫓にかかる梯子を昇る。背後には、ビョルンが影のように付き従っていた。いつもなら、残党狩りも金目のものの探索もビョルンに任せるのだが、なんとなく今日はそうしなかった。その理由はおぼろげに判っているが、あえてそこには焦点を絞らず、梯子を昇りきる。弓に当たって死んだ守備兵の死体を下に落とし、梯子を昇ってきたビョルンの手を取って、引き上げた。
     物見櫓の上は、さすがに眺望がきいた。砦の搦手門のあたりで残党が最後の抵抗をみせているらしく、アトリが指示を飛ばす声が聞こえる。
     と、その背後から矢のように飛び出した、小さな影があった。ビョルンがあ、と声を上げる間もなく、影はするすると敵に接近し、あっという間に二人斃してしまう。
    「トルフィン、あいつ……やりやがるなァ。最近はナイフの扱いが堂に入ってやがる」
    「ふん、堂に入るどころじゃねェだろ、ありゃ」
     だがな、と継ぎながらも、つい舌打ちしてしまった。トルフィンがこちらを見上げたのが、はっきりとわかったためだ。案の定、それで隙ができたせいで、敵に撃ち込まれている。しかしすぐに体勢を立て直し、喉笛を掻き切って三人目を片付けた。
    「クソガキめ、オレの目を気にしているようじゃ、まだまだだ」
    「そりゃ仕方ねェよ。手柄を立てたら決闘に応じてやるって言ったのはアシェラッド、あんただぜ」
     ――だから、そういうのが気に喰わねェんだ。
     そのひとことは呑み込み、視線を遠くへと転じた。
     長い夏の陽は、ようやく森の彼方へと没してゆこうとしていた。西の空は毒々しいほどの夕映えに染まり、群雲が燃えるようだ。その苛烈な色は手前の川面をも染めあげ、砦の中すらも焔に灼かれているようにみえる。
     ――地獄だな。
     砦の中に視線を落とし、黙したまま、足下で起こっている阿鼻叫喚を眺めた。残党狩りはもうじき決着がつくだろう。倉庫に火の手が上がっていたが、それも鎮火されそうだ。生き残りの兵を縛める者たち、下働きの女たちを追い回し、髪を掴んで引き倒す者たち。すぐ近くで、絹を引き裂くような悲鳴が上がった。物陰で、早くも蛮行に走る連中がいるのだろう。
     ――地獄だ。
     なぜ、こんなときにキリスト坊主の説教が思い出されるのか。アシェラッドは奥歯を噛みしめる。もう二十年近くも昔、ウェールズにいたころに聴いたきりだというのに。
     ――祈りなさい。悔い改めなさい。地獄の業火に灼かれぬように。この世と同じ苦しみが、未来永劫続かぬように。
     坊主どもにそう説かれ、善良な人びとは素直に頭を垂れる。しかし祈ったからといって、救いが訪れる訳ではない。祈りの最中に教会ごと焼かれた者たちを知っているし、母もまた、礼拝の最中にデーン人に襲われ、連れ去られた。犯され、孕まされ、使い捨てられた。その挙げ句に、産み落とした子は父殺しに手を染め、長じては悪党の頭目になって、子分どもに狼藉の限りを尽くさせている。
     ――燃えてしまえ。
     陽が没し、いっそう苛烈さを増す残照に、指の先が染まる。燃えてしまえ。いっそのこと、業火に灼かれてほんものの灰になってしまえばいい。そうすれば、もう真の王を待たずにすむ。むごいこの世を救う王を見定め、仕えるためだけに、身をやつし心を偽り、待ち続ける苦しみからも解き放たれる。
     そのときだった。そっと肩を引き寄せられ、抱きしめられたのは。
    「なにも、言うな。アシェラッド」
     低く、静かな声が耳朶を撫で、抗おうとして固めかけた拳が緩んだ。男の手がアシェラッドのうなじを覆う。大柄な男の腕の中に、アシェラッドはすっぽりと包み込まれてしまった。ビョルンの胸に額を押しつける格好になり、アシェラッドはなすがままに任せることにした。
    「なんて顔してんだ。見てられねェよ」
    「……」
    「どうせ、理由を訊いたって答えちゃくれねェんだろ。だから、訊かねェ」
    「……判ってんじゃねェか、ビョルン」
     苦笑がこぼれる。吐息が頬にわずかに当たったが、いやではなかった。
     腕の中に静もっていると、眼に映るものは、男の着ているチュニックと、肌着の袖の色だけになった。何かに縋りたいと思ったことはないが、今だけはこの男の腕に、守られていたかった。背を向けたまがまがしい残照の色は、もう追いかけてこない。周囲の物音も遠くなってゆく。
     男の掌が、そっと髪を撫でてくる。その掌にさりげなく頭を押しつけて、アシェラッドは眼を閉じる。男が小さく息を呑んだのが聞こえたが、ただ黙して、彼の匂いとぬくもりに身を浸す。聞こえるのは吹き過ぎてゆく風の音と、すこし速度を増した男の心臓の鼓動のみ。ひたひたと忍び寄る夕闇に、ふたり紛れてしまえばいいと思った。



       了
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    minamidori71

    DONEビョルアシェ。ビョルン君埋葬時に、遺体に語りかけるアシェ。相手が死体なので、生前言えなかったことも結構言っています。甘口なので、お好みに合わなければ回れ右を。
    アシェの少年時代については、語っていた以上にひどいことがあったという気がしています。
    pixivで公開していますが、こちらにも試験的にアップしてみます。
    Last Kiss 雪に覆われた小高い丘の中腹まで下りてきたところに、見張りの番小屋がある。そこから薄く煙が立ちのぼっているのを確認して、アシェラッドは足を止め、担いでいた男を一旦下ろした。
     見張り当番の兵士に事情を話し、スコップを借りた。アシェラッドよりも年長らしい、人の好さそうなその兵士は、昨夜の飲み残しで悪いが、と言いながら、素焼きの酒瓶を差し出してくる。中身は蜂蜜酒だった。
    「こいつはありがてェな。お前好きだろ、ビョルン」
     すっかり体温を失ってしまったくちびるにひとしずく、指先で含ませてやる。わずかに生気がよみがえったが、そのせいでなにかもの言いたげにみえる。
    「なんだ、もっと飲みてェか」
     ひと口、アシェラッドも蜂蜜酒を口に含んだ。甘ったるい酒は好みではない。しかし今は、渇ききった舌に、その甘さが嬉しかった。残りを算段に入れながら、もうひと口。いつも美味そうに飲んでいた男の笑顔が、眼の奥にちらつく。
    2677

    minamidori71

    DONEビョルアシェ。春の出航に向けて、イェリングの市場へ買い出しに訪れたふたりの話。あいかわらず、同衾前提の話になっていますが、後半に一瞬出てくるのみなので、警告入れません。今回は、気の合うふたりの会話を書くのが課題でした。なお、固形石鹸の登場は12世紀だそうです。今回出てくるのは、あくまで過渡期のものということでひとつ。
    最後の部分が、現パロになっています。幸せなビョルアシェを愉しみたい方向け。
    君よ知るや南の国 冬の間、村を覆っていた雪の下から土と水仙の芽がのぞき、街道を往来する乗り物が橇から馬車に変わるころ、いつものように窓辺で頬杖をついたまま、彼が言う。「そろそろか」、と。
     彼とふたりで三ヶ月、巣ごもりするようにゴルム邸の離れで暮らす日々は終わり、出航の準備にかかる時が来た。名残惜しくないといえば嘘になるが、この準備のための小旅行を、毎年ビョルンは心待ちにしている。なにしろ行き先はイェリング、日の出の勢いのデンマーク王国の都だ。しかも春の到来を前にした今、イェリングの市場は俄然活気づく。遠方からやってくる異国の商人たちが増えはじめ、掘り出し物が見つかりやすいのもこの時期なのである。
     その日も朝から塩漬け肉やら干し鱈を買い込み、旅籠の奉公人に荷物の番を頼むと、ビョルンは市場にさまよい出た。アシェラッドはすでにふらりと姿を消している。昼食を食って村に戻ると決めているので、正午の鐘が鳴るまでは何をしても自由だ。
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    minamidori71

    DONE現パロビョルアシェ、第四話。クリスマス休暇を目前にした木曜日の夜、ビョルンはつらい過去の夢にうなされる。泣き叫んでいた彼は、仕事から帰宅したばかりのルカに起こされるが……。
    ふたりの距離が、一気に縮まります。このシリーズは、次回で一旦ひと区切りの予定。
    Unknown Legend(4) その兆しは夜の眠りのさなか、ひたひたと忍び寄る。
     浅い眠りの瀬をたゆたいながら、その気配を察知し、ビョルンは焦る。早く夢など必要としないほどに熟睡しなければ、と。しかし次の瞬間、真っ黒な泥に巻かれて、深みへとひきずり込まれる。そうなってしまったが最後、自分の意思ではどうにもならない。悪夢のるつぼで泣き叫び、目覚めるまでもがき続けるしかないのだ。
     ――なんで……この夢なんだ。
     おかしなことに、自分で判っている。これは夢なのだと。しかしそこから抜け出せない以上、判っていてもなんの得にもならない。しかもよりによって、ビョルンがもっとも見たくない夢だった。あの日と同じように泣きながら、日の落ちたテムズ川の南岸をめちゃくちゃに走り回り、道ゆく大人たちの姿を必死に目で追う。けれどもビョルンが求めてやまぬ背中は、どこにも見当たらない。
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