「父さん、夕飯だけどさぁ……」
確かにノックして返事も待たずにドアを開けてしまったのは僕だ。行儀が悪いことをした自覚はあるけれど、日常ではよくあることで、なんでもない時であれば許されるありふれた光景だった。
ただ今回は状況が違っていた。それだけの話。けれどこの状況を予想することは、どう考えても無理な話だった。
まだ日が高く、店の準備も始まらない時間。ドラ公は完全に寝ているし、父さんだって起きているかも怪しいタイミングだった。起きているならと軽い気持ちで声をかけただけなのだ。
「あ……」
「え……?」
処理しきれず僕の手の中から滑り落ちたスマホが、ごとりと嫌な音をたてて床に落ちた。画面にヒビが入ってしまったかもしれないが、今はそんなことすら考えられないくらいに目の前の光景に困惑してしまっている。
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