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    あるぱ

    一次創作のBLなどを書く

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    あるぱ

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    月にタワー/創作BL/嫁に捨てられた飲んだくれ中年と、中年に下心のある行きずりの顔が綺麗な年下男/の話/昔かいたやつ。

    #創作BL
    creationOfBl

     月にタワー


     あの東京タワーのてっぺんをへし折って、あなたにプレゼントするよ、という馬鹿げた、いや、子どもじみた口説き文句は、しかし俺には十分に有効だったみたいだ。どこの誰とも知らない、ただ飲み屋で隣に座った青年に、俺は呆れるほど心を開いていたし、みっともないくらい甘えていた。

     それもあれもどれもこれも、アルコールという物質のせいだ。それに、三年前に結婚したばかりの年下の妻のせいだ。あれが、彼女よりも更に年下の男と不倫をして出ていったのは一昨日のことだ。当日は怒りのあまり記憶がないが、翌日には冷静に仕事に向かった。しかし更に一日たつと、もはや冷静でいるのも馬鹿げていると思い、俺は仕事を休んで昼間から飲んだくれていたのだ。
     昼過ぎまでは自宅で(そう、妻の居なくなった)飲んでいたが、急に人恋しくなり、家を出た。友人の誰とも話す気になれなかったので、とりあえず早い時間から開いている居酒屋を片っ端からハシゴした。その、何件目かのバーで隣あった青年は、二十代そこそこの、小綺麗な若者であった。いままで飲んでいた店でもそうであったように、俺は店主や、その店の常連を相手にぐずぐずと管を巻いていた。飲み屋というのはどこでも、笑いながら酔っぱらいの話を聞いてくれる人間がいるものだ。たとえそれが上辺だけの優しさで、明日になったら俺のことなど、ただの面倒な酔っぱらいだった、という記憶になるのだとしても、今この瞬間はそれが嬉しい。
     彼もそういう善良な飲み屋の常連と同じように、笑いながら俺の話をきいてくれる。
    「そんな若い奥さん貰うからですよぅ」
     やさしく間延びした声はどこか中性的な感じがする。栗色の髪はつやつやで、襟足が長い。俺の実家のウマオに似ている。
     俺がそういうと、彼は目を丸くして、首を傾げた。
    「ウマオ?」
    「そう、実家で買ってる馬」
     ジントニックを舐めながら答える。
    「実家に馬がいるんですか」
     ちょっと弾んだ声で言われて俺はうれしくなる。若い頃は、合コンではちょっとしたツカミのネタだった。
     馬。あの大きくって美しい生き物が、俺の実家にはいる。
    「そう。北海道で酪農やっているんだ、オヤジと兄貴が」
    「へえ、いいですねえ。牧歌的で」
    「牧歌的なもんかね。ありゃ戦争だぜ」
     ぐいとグラスを空にして、カウンターの向こうの店主をみやる。
    「同じの」
     店主は愛想のない五十がらみの男だ。彼はほとんど表情を動かさないままに、
    「そろそろやめておいたほうが」
     と、静かに忠告して俺にお冷やを寄越した。
     俺は小さく舌打ちをした。酒くらい好きに飲ませてくれ、アンタはおふくろか? 心の中でだけ悪態をつく。自分の、こういう人畜無害なところが、大嫌いだった。
    「良ければ、違う店行きませんか?」
     男は人懐っこい笑顔で言った。
    「いい店知っているんです」
     店主が微かに眉間にしわを寄せたように見えたのは気のせいだろうか。
     もうアルコールは隅々まで巡っていて、酩酊しているといって差し支えなかった。座っているのに、海の上に小さなボートでいるみたいにゆらゆらしている。俺は彼を見る。そしてそのつやつやの毛並みに触れたくなる。


     そのあとで二件バーを回った。ひとつはアルトサックスとピアノを演奏していたジャズバーで、もうひとつはボードゲームがそこかしこに置いてある飲み屋だ。俺はそこでサイコロが転がっているのを見て、しこたま吐いた。
    「ヨシノさん、大丈夫ですか?」
     温かい手が、背中をさする。俺は便器に顔をつっこんだまま返事をしない。飲み屋の便器は黄ばんでいて清潔とはほど遠かったが、そんなことを気にしている場合ではない。
     波はまた押し寄せてくる。俺は体が求めるままに吐く。
     膝を突いた便所のタイルは冷たかった。じわりと涙が目尻に滲む。そしてまた、アルコールとツマミと胃液の混じりあったものを吐き出す。その繰り返しだ。なんて非生産的なんだ。
     俺の嘔吐が収まったのを見計らって、青年がトイレットペーパーをちぎって渡してくれる。俺はそれを受け取って自分の口を拭った。
    「うまお、おまえいいやつだな」
     低く呻きながら言う。
    「ありがとうございます。それ、今日50回くらい言ってますよ」
    「うまに悪い奴はいない」
    「馬じゃないですけど、まあ、いいです、ウマオで」
     口の中の唾液をぺっぺと吐き、俺は天井を仰いだ。
    「東京は大嫌いだけどおまえはいいやつだ」
     彼に寄りかかり、低く呟く。東京の人間なんてみんな薄情で意地悪だ。それに山もなければ海もなくて、空は狭くてコンクリートばかり。空気だってまずい。
     若い頃は、東京にはやく行きたかった。牧場なんて継ぎたくないし手伝いだってごめんだ。東京で、びしっとスーツ着て働くんだって、二十代になったばかりの俺は思っていた。そんで綺麗な奥さん貰って、小さくても一軒家を買って、大きな犬を飼うんだ。
    「東京で大型犬は大変ですよ」
     ウマオが言わなくてもいいことを言うので、俺は彼の後頭部をぽかりと叩いた。
    「もののたとえだよ、バカ」
    「はあ」
     それが結果はどうだ。つまんない中小企業の営業、妻には不倫のすえに逃げられ、買った家は中古のマンション(その上近々元妻に奪われるのだ)(なぜなら俺の元妻は俺よりよほどの高給取りで「頭金を出したのはあたし」などとのたまいやがった)。
    「おまえみたいな若くて未来あるやつにはわかんないのよ」
     ウマオの肩に寄りかかって呻く。
    「はあ」
     生返事に、俺は彼を睨んだ。見れば見るほど、イマドキらしい綺麗な顔立ちだ。この間ワイドショーに出ていた、塩顔のイケメンなる俳優とよく似ている。
    「お前みたいな顔と育ちが良さそうなやつにはわかんねえよな、俺の悲しみはさあ」
    「はあ、いいですかね、顔」
     にっこりと笑う青年の笑顔は、最初から自分の顔が整っていると分かっている顔だ。ウマオ、いい奴だけどムカつくなおい。
    「それにいい奴じゃないですよ~。下心ありますからね~」
     おお、謙遜している。一丁前に。
    「ヨシノさん、帰れる? ウチ近いけど、泊まってく?」
     耳を撫でる声の柔らかさに、ほとんど反射的にうなずいていた。第一ここはどこなんだウマオ。俺はぐるぐる回る視界に目を閉じる。
     目を閉じているというのにまだ、世界は回っている。


     喉がひりついて仕方がなかった。
     あー、飲み過ぎた。口の中がパサパサだ。
     重い腕を持ち上げて寝返りを打つ。頭の芯が、ずんと痛い。飲み過ぎだ。もう一度心の中で呟いて、薄く目を開ける。ほんのりとついている明かりに、あれと思う。視界が次第にはっきりしてくると、どうやらそれは、俺の部屋の豆電球ではなくて、壁に備え付けられている間接照明なのだと分かる。そんな洒落た物はうちにはない。どこだ、ここは。
    「起きた?」
     男の声に驚いて上半身を起こす。ズキンとまた頭が痛んで、うぐ、と情けない声が漏れた。
    「ははは、流石に飲み過ぎたでしょ」
     ウチ来てからも、ずっとワイン飲んでたもんねえ。よく目覚めたね。などと、楽しそうに声は弾んでいる。
    「どこ、ここ……」
     確か、飲み屋で知り合った青年と飲んでいたのだ。ならば声の主が彼であろう。俺は額に手を当てたまま、視線を動かす。ぼんやりと薄明かりの中、人影が俺を見ている。
    「水、のむ?」
     男がペットボトルを渡してきたので、俺はありがたくそれを受け取った。もう封は切られている。口を付けると淡い甘さを感じるくらい、甘美なおいしさだった。
     俺は一息に三分の一ほど飲んで、ようやく一心地ついた。
    「俺の家だよ、覚えてない?」
     男が、俺のそばに腰を下ろす。俺は曖昧に頷いた。途中までは、確かに覚えている。サックスのメロディ、飲み屋のトイレの汚い床。そういう断片的な部分は思い出せるのに、きっと聞いたであろう彼の名前だとか、そのあとどうやってここまで来たのかなどは皆目思い出せない。
     俺は男の横顔を見る。一重で切れ長な目。色白ではあるが、不思議と不健康そうには見えない。イマドキの若者らしい男にしては長い髪を、今はゴムで結んでいる。
     彼がちらりとこちらに視線をよこしたので、ほとんど反射的に目をそらして、その先にある光景に、俺は息をのんだ。
     大きな窓は、ブラインドもカーテンもされていなかった。その透明なガラスの先ににあったのは、東京タワー。
    「は……」
     至近距離にあるそれに、俺は息をのんだ。東京タワーの向こうには、やたらとでかい満月。なんじゃこりゃ。まるで窓を大きなスクリーンに見立てた、とびきり気の利いた恋愛映画のワンシーンみたいだ。
    「今日はスーパームーンって言ってたねえ、ニュースで」
     彼は大きいねえと、のんびりという。
    「こ、こんなとこ住んでるのか。学生のくせに」
     東京タワーの目の前、タワーの展望台がのぞめることからも高層だと分かる。見回すと、この寝室だけで十畳くらいはあるだろう。俺は思わず口を開けて不躾に部屋を見回していた。
    「んー、まあね」
     曖昧に笑って、彼は目を伏せた。俺ははーっと大きな息をついて、ダブルベッドに大の字になった。マットレスは軋むことなく、俺の体重を完璧に支える。
    「やっぱお坊っちゃんかよ、羨ましいこって」
    「養ってあげよっか?」
     俺の嫌みをもろともせずに、彼は言った。
    「ヨシノさんなら、いいよ」
    「はあ?」
     首だけ持ち上げて彼を見ると、にこにこと笑って俺を見ている。俺はちょっと呆れたが、その屈託ない笑顔に思わず吹き出した。
    「いいねえ、そうするかな」
     ふかふかの枕に後頭部を沈めて、俺は笑った。だって最高におかしいじゃないか。こんな冴えないおっさんが、金持ちの坊ちゃんに養ってもらうなんて?
     シェイクスピアの喜劇にあったかしらなんて考えていたら、黒い影が俺の上に落ちてきた。男が、真上から俺をのぞき込んでいる。
    「ほんとに?」
     不思議なことに、その顔が真剣だった。俺は閉口して、男の顔を見上げる。栗色の髪の毛。ああ、たしか俺は彼を、ウマオと呼んでいたんだっけ。
     髪の色だけじゃなくて、その目も、どこか馬に似ている。静かで、透き通っていて、森の奥に隠された泉の水面みたいだ。
     冗談だろって笑おうとしたのに、できなかった。
     沈黙は、数秒だったと思う。窓から入ってくる東京タワーの電飾と、月明かりが目映い。
     思わず目を細めると、まるでそれが合図だったみたいに、彼がすいと距離をつめた。ふわりと、微かにグレープフルーツみたいな匂いがする。唇が、ほんの一瞬触れ合った。
    「うわっ! ……っにすんだよっ」
     飛び上がって、男を突き飛ばす。ウマオはゆっくりと瞬きをして、
    「言ったでしょ? 下心があるって」
    「下心って……」
     俺は自分の唇を手のひらで擦る。ふれたのはほんの一瞬だったのに、いつまでもそこに違和感を感じた。頭がぐらぐら沸き立つ。さっきまでナリを潜めていたアルコールが、体内で暴れ出したみたいだ。
    「ねえ、俺ならヨシノさんを愛してあげるよ。寂しい思いもさせないし、あなたを捨てたりなんてしない」
     穏やかな声でウマオが、静かに囁く。冗談だろう、そんな、俺男だぞ。小さく反論するが、そんなものは彼の耳には届かないみたいだ。ウマオが俺との距離を詰める。
    「ヨシノさん」
     彼の声は薄く甘いシロップみたいだ。俺は目眩を覚えてぎゅっと目を閉じる。なんだこれ、どういう悪夢だ。
     心臓がハムスターみたいにせわしなく動いていた。酒のせいだ酒の。そんなこと、分かっているのに。
    「ヨシノさん」
     俺の嵐のように荒れる内側とは裏腹に、彼は繰り返し、静かに俺の名前を呼ぶ。彼が俺の名前を口にする度に、心臓が止まるんじゃないかと思うくらいぎゅっと痛くなる。
     薄く目を開けると、ウマオの顔が間近にあった。彼は幸せそうな顔で微笑んでいる。
    「ねえ、俺はね、あなたがもしも望むなら、あの東京タワーのてっぺんをへし折って、あなたにプレゼントするよ」
     彼の手のひらが俺の髪の毛にふれて、慰めるみたいに撫でる。
     不思議なことに、俺はその体温にひどく安心してしまい、その手を払いのけるのを忘れた。
     俺は苦笑する。
    「いらねえよ、そんなの」
    「いやいや、今のはたとえですよ」
     ウマオがまじめに言うので、俺はますますおかしくなって肩をふるわせる。まだ酒が残っている。そうだよ、全部酒のせいだ。
     ウマオが俺の肩を抱き寄せて、背中に両手を回した。それから、ぽんぽんと優しく背中を叩く。まるで子どもを寝かしつけようとしている母親だ。俺は口を開き掛けて、また閉じた。彼のするに任せたまま、ウマオの肩口に顔を埋めて、この一瞬の幸せみたいなものを噛みしめる。そうだよ、俺だってさみしいんですよ。嘘でもいいし一瞬でもいいから、他人からちょっとだけでも愛されたいんですって。
     それは紛れもなく甘えだ。女に捨てられた男の、いまだけの攪乱だ。
     ウマオが俺の顔をのぞき込む。ああ、またキスをされる。そう思ったけれど、俺はもう、それを拒まなかった。


     おしまい
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    あるぱ

    DONE三題噺のお題ガチャでひとつ/宇宙かぶりしてしまったな……/創作小説さようなら、ユニバース



     ハロー、地球の人たち。
     元気ですか?
     私は目下GN-z11銀河系内を浮遊中。あ、遠くでバチッと光ったやつは恒星の赤ちゃん。ここでは毎日そんな光景が見られます。星が生まれ、死に絶えていく。美しいけど見慣れてしまうとなんてことはありません。私はフライパンでポップコーンを作るところを想像します。ぽんぽん弾けて生まれて、時々できそこないのコーンが底に残ってるの。
     ハロー、ハロー。
     ここは地球から134億光年彼方。いまごろみんなはなにをしてるかな?


     モニターを閉じる。背もたれによりかかり、ひとつ息をついた。茶番だと君は思うだろうか。そうだ、茶番だ。そうでなければ私の脆弱な理性など、あの星が遠くで光って一度瞬く間に砕け散ってしまう。
     君のことを思うけれどもう顔はよく思い出せない。この狭いコクピットにはいって、どれだけの時間が経ったのだろうか。疑問はいつも私にとっての地雷だ。それを深追いすればきっと、私の脳みそは壊れてしまう。コツは、追いかけないこと。浮かんで思ったことは、そのまま流す。窓の外、漆黒の背景に転々と浮かぶ光の群れのなか。宇宙に。
     ハロー 1598

    あるぱ

    DONE三題噺で一本/創作BL/新入生と先輩の初恋と宇宙(偏愛とは???) 恋は彗星のように

     光の白色、シリウス、ヘイロー、定常宇宙論。

     四月だと言うのに、妙に暑い日だった。ぼくは心臓が激しく脈打つことを意識しないように、好きな言葉で頭の隙間を埋める。
     ボイジャー、シドニア・メンサエ、ダークフロー、重力レンズ。
     言葉はぼくの血管に乗って身体中に回る。不思議と少しずつ脈拍は落ち着きを見せ、胸に何か詰まるような感覚は消える。後ろから、真新しい制服の人たちがぼくを追い越して、高い声で笑った。もつれ合う三人はそれでもまっすぐ進んでいて、ぼくはなんとなく、子猫がじゃれ合う様を思い浮かべる。また心臓が急ごうとするので、ぼくは立ち止まって深呼吸した。
     目を閉じると、ふ、と視点が浮かぶような感覚になる。見えるのはぼくの後頭部、道行くぴかぴかの生徒たち、さらにぐぐっと視点が浮上して、学校の校舎が見え、自宅が見え、遥か向こうの街並みの際が、緩やかに歪曲している地平線まで見える。上昇していくと、晴れ晴れとしていたのにそこには実は薄雲が張っているのだと分かる。対流圏を越え、成層圏に及ぶと次第に空の青色は群青へ、さらには夜のような黒色へうつり変わっていく。これが宇宙の色 2162

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