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    Hokke_is_SAIKOU

    @Hokke_is_SAIKOU

    妄想ぶん投げ🐟

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    Hokke_is_SAIKOU

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    『Devil of the Voice』続編
    👹が個性を取り戻す話。



    視点ごろっごろ変わります!!
    そして四季があります!!

    #Luxiem
    luxurious

    Identity👟

    穏やかな陽気が照らす午前8時。
    シューシューと湯が湧く音と、アールグレイの香りに瞼が開く。

    今日は……あぁ、アイクとルカとドライブだっけ?いや、その前に朝市で買い物に……

    どうやら頭はまだ寝惚けているらしく、今日のスケジュールすら怪しい。
    体を起こせば、身体のあちこちから骨の鳴る音。昨晩の依頼はやけに多くて、一晩の間に幾つの依代を使ったことか。


    やっぱり今までは彼が抑えてくれていたんだ。



    買い物用に軽装に身を包み、気だるい足取りでリビングへ向かう。

    扉がちょっとだけ空いてる。
    最近は朝冷えするからってずっと閉め切っていたのに。


    少し開いている所から差し込む朝日と紅茶の香り。
    扉を開けば、髪を束ねて朝から優雅な茶会を開く男が1人。いつもならアイクも居るはずなのに。


    「……あれ?僕が2番目?」

    ――シュウか。まだ皆自室にいるだろうな。

    ふぅん、と頷くとヴォックスは立ち上がり空っぽになったティーセットを持ってキッチンへ向かう。


    ――よく寝れたか?昨夜も仕事だったんだろ?

    「……紅茶の匂いで起きたんだ、気持ちいいくらいだよ。朝からお茶会なんて優雅だね。」

    ――そうか。良ければ1杯飲んでみるか?

    「んー、いや、すぐ買い物に出ちゃうから大丈夫。また今度飲まして。」

    ――あぁ、勿論だ。

    「じゃ、ちょっと行ってくるね。」


    寝起きの乾いた口に水を含んで喉を潤せば、液体が胃に落ちる音が聞こえる。
    踵を返してリビングを抜け、玄関で靴を履いて扉を開く。
    眩しい朝日に照らされて堪らずくらりと目が眩む。
    瞼を何度か開閉して順応させてから、近くのマーケットに向けて歩みを進めた。

    道を歩く人の流れに抗いながら、聴覚が人々の声を拾い集める。

    朝の挨拶や値段交渉、たわいも無い雑談に隣人への文句。

    至って普通の光景なのに、最近の自分からしたらよっぽど明るく見える。


    さっきのヴォックスとの会話は、この人たちからしたら全く分からないんだろうな。

    声を発してるのは僕だけで、ヴォックスは表情を変えているだけにしか見えないんだから。


    ヴォックスはあの日から一切言葉を発さなくなった。正確には、彼の喉を通しては発されなくなった。

    喉に掛けられたー正しくはVox自らが掛けたのだがー呪いは声に魔術を乗せて発するヴォックスにとって1番の苦痛だと思っていた。
    だが彼はその穴をついた。
    言葉は声帯を通して発さなければいいんだ、と。

    「おはよう」「おやすみ」なんて挨拶は穏やかな笑顔で。
    不満があれば瞳を見つめてきて。
    「買い物に行こう」というメッセージを、頭の中に車と朝市のイメージを送り付けて伝えてきた日には嘘だろうと思った。

    一言でも声を発そうとすると、刻まれた赤い紐のような紋章が発熱し声帯を潰し、最悪気管ごと焼けて、という古の時代に用いられた呪い。

    解呪は術者自身で行うか、

    または

    「……術者が死ぬか。」

    零れた言葉は縁起でもないが、彼のような鬼にとっては無縁だろう、と大きく背伸びをした。そして視界に入る桃色の小さく膨らんだ生命。

    成程、冬の終わりか。
    道理で扉が開いてたわけだ。

    始まりの季節。今日が転機としては最良だね。

    印を結び、胸から取り出した紙人形の依代に心地よい陽気を照らせば、綿毛のような淡い光がくすくすと笑いながら零れてくる。

    おしごと?
    シュウだ。あそぼ?
    おかいものかな?

    「ねえ、少し……頼まれてくれる?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    👹
    「じゃあ、僕達夜まで帰ってこないから。ミスタと2人でご飯食べちゃってね〜」
    「POG!ドライブなんて久々だな!お土産買ってくるから何がいいか送っといてくれ!」


    ――あぁ、ありがとう。


    早々と車に乗り込むアイクとルカに手を振ると、靴を履いて出てきたシュウにこっちへ来いと引っ張られる。


    「ふぅ……あのさ、いつまでミスタと話さないつもり?今日中に仲直りしないんだったら、アンタのこと、呪いが跳ねかえろうが祓っちゃいますよ。……僕がケガしてもいいんですか?ねぇ、我が君?」


    覗き込んだ視線と胸に刺さる人差し指、捲し立てる喋り方と珍しい煽り。
    それらが意味する言葉は彼の口から聞こえないが、シュウが珍しく語気を荒げたということは、、、そういうことだろう。


    ―― 善処しよう。


    「全く……ホント揉めると長いんだから。帰ってきてまだ家の中が冬だったら許さないよ。……じゃ、行ってくるからよろしくね。」


    本日2度目の見送りを済ませ、鍵を閉める。

    シュウの表現には時々驚かされる。
    冬、か。
    2回へ続く階段を見上げれば、まだ影が降りていて冷気が漂う。


    ーーDaddy!今日はデリバリーでも頼んでパーティしようよ!!


    何時もならこう言ってドタバタ音を立てて降りてくるはずのミスタとは、あの日から1度も話していない。
    顔を合わせることはあっても両手で数えられるほどに減った。

    それもそうだ。避けられているのだから。


    すまない。


    喉を走る熱に悶えながら、扉を閉じた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    🦊
    カーテンを閉めきった午後1時。

    ベッドに籠って胎児の様に蹲るのは、安心したいから?現実から逃げたいから?

    その両方かも。

    行ってきますという3人の声と車が遠ざかる音に気づいたら、残ってるのは「アイツが家に残っている」という事実だけ。

    ついこの間からヴォックスを避けるようになったのは、アイツが怖くなったとかそんなんじゃなくて。

    ただ自分がアイツの地雷を踏んでそれが原因で声を封じたことへの罪悪感。

    「おはよう、あの日はごめんね。」

    って言おうとした時に見えたあの、淡く光る赤い紐があの日の自分の失態を思い出させる。

    シュウ曰く、あれは声を封じる魔法らしい。
    難しいことはよくわからなかったけど、アイツはオレらを守るためだって言って自分に呪いをかけたんだって。


    俺が悪いのに。


    馬鹿だよ、アイツ。



    空気を入れ替えようと体を起こして、少し錆びた音の鳴る窓を開ける。

    お昼に太陽が真っ直ぐに差し込むこの部屋は、とてもぽかぽかとしていて居心地がいい。

    んん〜っと大きく背伸びをすると、視界に入ってくる綿毛、いや、これは。

    「シュウのふわふわじゃん?なんで……」

    同居人である呪術師が用いるこの綿毛たちは、買い物が長引くとかの伝言を主に担当していたヤツら。いつもなら一体で来るのに今日は三体。

    ふるふると揺れる綿毛たちはポンッと音を立てて散る。
    聞こえてくるのはいつもの子供のような声ではなく、聞きなれた彼らの呼ぶ声。


    『『『ミスタ、がんばれ』』』


    声しか聞こえないのに、傍にアイツらがいるみたいに落ち着く。ひとつ深呼吸をすれば胸のつかえが取れた気がして軽くなる。

    「……うん、オレ行ってくるよ。」

    今日こそ仲直りをしよう。
    自室のドアノブを握るが、カタカタと震えているのが視界に入る。臆病だったオレなら直ぐに手を離して布団に戻ろうとしていたけど、今日は違う。


    ふぅ、ともう1つの深呼吸。


    扉を、開けた。



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    👹
    がちゃり

    ーー忘れ物か?
    体を向ければ意外な人物がそこにいた。

    「おはよう」

    今だけは自分の五感が信じられなかった。

    ーーミスタ?

    あれだけヴォックスを避けてきたミスタが、威風堂々と見下ろしてくる。
    突き刺さる視線に耐えられなくなって立ち上がれば目線は並ぶ。
    真っ直ぐな瞳に堪らず視線を下へ逸らすと固く握られた拳が見えた。

    やはりまだ怖いか……

    ーーおはよう。調子はど

    「なぁ、」

    話を遮るミスタのハッキリとした声。

    「オレさ、あの時正直すっげぇ怖かった。」

    静かなリビングに響く吐露。

    「でも、昔ヤバい依頼を受けて本気で死ぬかもしれないって思った時よりは、全然マシ。ほら見て!!」

    明るくなった声に驚いて顔をあげれば、

    「オレは今生きてる!な?」

    へへ、と笑い心臓に手を当てるミスタ。その姿は太陽のように眩しかった。



    ーーすまなかった、ミスタ



    「……ヤダ」

    「は゛?」

    自身の謝罪が聞き入れられない事に衝撃が隠せず、思わず声が漏れ出てしまう。
    ぐぅ、と熱を感じるが視線はミスタから離せない。


    「オレが自分の声で、言葉で、喋ってんだ。そんな芸当を使うのは、フェアじゃない。違う?」

    ーーぐうの音も出ないな。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    🦊

    ーー分かった。



    ヴォックスは両手で首に手をかける。

    何をするんだと傍によろうとすれば、

    ーー絶対に近づくなよ。

    発された危険信号に従い、ヴォックスの様子を見れば少し苦しそうに呻きながら体を丸めて頭を振る。ちらりと覗いた項には半分顔を出した紐が見えた。あの赤い紐は呪印じゃなくて、喉に沈みこんでいたんだと気づいたミスタは、痛いのか苦しいのかも分からない数分間をただじっと見つめていた。

    「……ゔ……〜」

    顔を上げたヴォックスの首には、見慣れたいつもの紐。声を縛る呪いが解呪された証だ。

    「すだ」

    やはり数日も声を出してなければ上手く発声出来ていないのか、ガラガラと1音ずつ声に出す。

    「す゛まな、かっ、た。」

    その声は余りにも震えていて、その上悲しそうに笑っている顔があまりに珍しくて。

    「ダディでもそんな顔すんだね。」
    「お前、も、な。」


    顔を見合わせてクスクスと笑う。


    いつものオレらが帰ってきた。


    「そうだ!シュウ達に仲直りしたって言おう!絶対心配してるよ、うげぇ。怒られるかなぁ。」
    「きっと、アイクに、怒られ、るな。携帯、を取ってくる。」


    スタスタと自室へ向かうヴォックスを見送りながらこっそり写真を撮る。

    首から上、ヴォックスの首に紐が戻っているのが分かる写真。
    シュウにメッセージを送ると、ルカとアイクからも良かったと返信が来る。


    ちゃんと話し合いしなきゃ。
    原因と、長引いた理由と、次起きないようにするには、全部。



    あぁでも。



    あの滲んだ化粧だけはオレだけの秘密にしといてやろうかな。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    🦊

    「おっはよ〜!!」
    勢いよく扉を開けた朝8時半。
    俺以外全員起きてるのは、いつも通り。
    でも、皆が明るい表情を浮かべてるのは数日ぶりで。
    これが、幸せなんだって、思い出すと同時に目の端に水滴が滲む。バレないようにティッシュで鼻をかむフリをする。


    「今ヴォックスがご飯作ってくれるって。」
    「おお〜!Daddy〜、今日のごっはんはな〜に〜?」


    キッチンへ走りまな板をのぞき込む。


    ぐすっ、すん。


    涙を飲むような、信じ難い音がした。


    目の前の具材に集中しているヴォックスの横顔を覗き込めば、涙が滲んで赤い化粧が崩れているのが見えた。


    原因を探せば、彼の目の前には……



    刻まれた玉ねぎ。


    コイツは玉ねぎで泣いてんの??

    昨日はちょっと滲むぐらいだったのに?


    「……俺だけの秘密にしてやろうと思ったのに!!!そんな玉ねぎなんかで皆に共有すんなよ!!!」


    「……お前は何を言っているんだ、ミスタ?」


    この反応はしょーがない。
    起きてきたオレに朝食を作っていたら急に怒ってきたんだから。
    しかも玉ねぎが原因?考えてて自分でもよくわかんない。

    けど、とりあえずその涙を早く隠して欲しい。
    その一心だった。


    「うるさいうるさい!早く顔拭けよ馬鹿ヴォックス!!」

    「……お前に馬鹿と言われるとは、心外だな。……ならお前の方が馬鹿だと丁寧に説明してやろうか?お前にはそれすら理解できるのか怪しいがな!!」

    「は?!何言ってんだばーかばーか!!」


    売り言葉に買い言葉。


    キッチンで繰り広げられる会話は普段ならアイクに「ねぇ?!唾液が飛ぶでしょ?!」と確実に怒られるのが様式美。


    だが今日は誰も咎めたりしないだろう。



    この家は、五月蝿いくらいが心地いい。



    色とりどりの声が、今日も響く。
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