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    gtcgms

    @gtcgms

    主にかきかけのはなしを載せてます。飽きもせずゴーティエ兄弟ばかりです

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    gtcgms

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    名前のあるモブと結婚して幸せいっぱいな妻マイクラン(団地妻だけど♂)のはなし
    マイクランが女物のショーツを着用しています
    旦那は小児外科医です。シルヴァンとは仲は悪くないけど好きというわけでもない
    攻のフェラ描写があります
    突然シーンが変わります
    キャラ崩壊でもあるのでなんでも大丈夫な方向け

    ##モブマイ

    続きはベッドで聞いてやる(3年目の同窓会展示作品(新作) 窓から差し込む朝の陽射しがやけに眩しく感じるのは、一睡もしていないせいだろう。慣れたのは慢性まんせい的な睡眠不足だけで、緊急の要請に緊張が伴わない日はない。
    「よく、頑張ったな」
     小児用のベッドですやすやと眠る男児の頭を優しくひと撫でする。まだ二年しか世界を知らない彼は先日、腹痛により小児科を受診した子どもだ。担当をした医師はその痛がり方にどうにも違和感を覚え、即座に大学付属の小児外科へと転科の準備をした。検査の結果、彼は先天性胆道拡張症せんてんせいたんどうかくちょうしょう先とそれに伴う膵炎すいえんの診断で即時入院となったのだが、その日の夜病棟で胆道穿孔たんどうせんこうによるプレショック状態を呈したため、緊急開腹ドレナージ手術を施行することとなった。一時は騒然となったが手術は無事成功。このまま合併症なく軽快退院し、後遺症の心配もないだろう。
    「お前の退院を見送れないのは残念だが……」
     癖とは恐ろしいものだ。つい、その小さな唇に触れようとして慌てて指を引っ込める。だが、頬ぐらいならば許されるかと思いそっと撫でる。うっすらとまだ青白くはあるが、徐々に赤みが戻るだろう幼子の肌は柔らかく、吸い付くような感触はなんとも心地がいい。このままずっと撫でていたい気もするが、誰かに見咎められては厄介だ。それに、どこを撫でようがなんら問題のない相手が自分の帰りを待っている。それこそ、首を長くして。
    「……元気でな、坊主」
     名残惜しさは残るが、これ以上あいつを待たせるわけにもいかない。最後にもうひと撫でしてから静かに病室を出て、急いで身支度を済ませに掛かる。
    「待ってろよ、マイクラン」
     自分がいま、酷くどうしようもない顔をしている自覚はあった。たった数時間振りに呟いた名でこれだ。ああ、早く会いたい。会って、あの熱を感じたい。ひとまず声だけでも聴きたいところだが、いまはまだ早朝だ。マイクランはまだ夢の世界かもしれない。あの寝顔を眺めて、口付けをして、それから──。
    「……ふ」
     想像するだけで口許が緩んでしまう。五日もこの状況を耐えたのだ。どうせなら、不意の帰宅に驚くあの顔すべてをも堪能したい。そうして笑顔で出迎えてもらうのだ。
    『おかえり──』
     電波越しではなく、直接、目の前で。


     *


     今日もまた、目覚ましの仕事を奪ってしまった──。
     起き抜けにマイクランが溜息を吐く。こうして早く目覚めた日は、それだけその日を長く過ごせるということでもある。考えようによっては有意義であることに違いはないのに、どうにも気が滅入ってしまうのは、今日もまた昨日となんら変わりのない一日になることが分かっているからだ。
     だが、もしかしたら──。
     時刻は午前五時前。既に仕事を終えた目覚まし時計を元の場所へと戻し、同じくベッドサイドに置いていた携帯電話を手に取る。もしかしたら、寝ている間に連絡があったかもしれない。そんな期待はすぐに消え去った。
    「なにもなし、か」
     ふ、と息を漏らし、携帯電話を放り投げ、自らは再び枕に頭を沈める。
    「まあ、そうだよな……」
     着信やメールの有無が気になりすぎて、こんな早朝に覚醒するとは馬鹿らしい。そう思いながらも、気にせずにいられない自分に自分で呆れてしまう。結婚前からそうだ。連絡もできぬほど多忙を極める相手はこの家にいない時間も圧倒的に多いそれなのにいつまで経っても長期の独りは慣れやしない。それもこれも、このベッドが馬鹿みたいにデカいせいだと八つ当たり気味に拳を叩き付ける。
     余計なことばかり考える前にもうひと眠りしてしまいたかった。だが、一度冴えてしまった脳はそれを許さない。
    「クソッ……」
     このままでは駄目だと思い直し、マイクランはベッドから起き上がることを選択する。熱いシャワーでも浴びれば気分も変わるだろう。ついでに軽く朝食も作ろう。ふたり分? いいや、今日もひとり分でいい。どうせ奴は帰ってこない。来たとしても、そのとき適当に用意をすればいい。結局この憂鬱ゆううつを紛れさせるには、いつもと変わらない日常なのだ。
    「……そういえば」
     脱衣所で上半身を脱いでから、ボディーソープの残量が少なかったことに気付く。明日、また風呂に入るときにでも詰め替えればいいとそのままにしていたのだ。マイクランは洗面台下を覗き、先日購入したばかりの買い置きを探すが見当たらない。もしかするとキッチンかもしれないな、とそのままの格好で探しに向かうと、同じく買い置きの食器用洗剤と一緒に置かれているのが見えた。手に取ってから、キッチンに来たついでに朝食の準備も進めておくことにした。米か、パンか。迷ったのち、冷凍庫にとっておきのクロワッサンがあったことを思い出す。準備に時間を要するため、余裕のあるときにしか作らないそのクロワッサンを。
    「こんな日こそ、豪勢にするべきだよな」
     少しでも気分が高揚するのならもう、なんだってよかった。
    「ふ……」
     オーブンの扉に、上半身裸の姿が映る。なんだか酷く間抜けに見えて、マイクランは手早く準備に掛かる。備え付けの角皿にクッキングシートを敷き、その上にふたつ、クロワッサンを並べる。そのまま焼きに入りたいところだが、これは室温で二十分程度解凍しなければならない。浴室から出るころには、十分に解凍されているだろう。
     マイクランが脱衣所へ戻ると、遠くで物音がした。大方キッチンの棚からなにかが落ちたのだろうと気に留めずにいたが、それにしては響きがおかしい。なんだか、金属音のような──。
     マイクランは脱いだばかりのシャツを軽く羽織り、そっと脱衣所を出て音の方向を探る。どうやら、玄関の前に誰かいるようだった。
    「まさか──」
     途端に胸がざわついた。こんな早朝に訪れる人間など早々いない。あの弟ですら、来るときはいつだって連絡を寄越す。
     いるとすれば不審者か、ひとりの男しか浮かばなかった。マイクランは無意識に左薬の指輪にそっと手を伸ばす。呟いた名は、静かに開いたドアの音にかき消された。
    「あれ」
     聞き慣れた声が耳に届くと同時に、視界に飛び込んできた姿にマイクランは思わず目を見開く。
    「起きてたのか」
     そこにはいつも通りの、涼しげな表情をしたイヴォンがいた。
    「な、なんで……」
     僅かとはいえ上擦ってしまった声にマイクラン自身が驚く。イヴォンは後ろ手で施錠を済ませ、かまちへと無造作に鞄を置くと、マイクランの姿に笑みを溢した。
    「なあ。お前鍵掛け忘れたろ? 開けたつもりが開かねえからびっくりしたぜ」
     マイクランは戸惑ったように瞬きを繰り返す。
    「俺だったからいいものの、強盗や変質者だったらどうするんだ?」
    「……すまない」
     施錠はきちんとしたはずだったが、どこか緩んでいたのだろうか。マイクランが素直に謝ると、イヴォンは短く微笑んでから部屋へと足を踏み入れた。
    「それとも、襲われたあとか?」
    「は? ばっ、違えよっ! シャワー浴びようと思ったんだ!」
    「ふうん?」
     途端に慌てふためくマイクランが可笑しくて、イヴォンはくつくつと笑みを溢す。
    「無事でよかったよ、マイクラン」
     ハイヤーを飛ばして帰った甲斐はある。イヴォンはシャツのボタンを止めようとするその腕をぐい、と掴むと、マイクランを自らの体に引き寄せ、その首許に顔を埋めた。
    「な、なんだよっ! おい!」
    「あー……。すげえいい匂い」
    「……まだ、浴びてないぞ」
     とはいえ前日に湯は済ませている。それを伝えれば、「そうじゃなくてさ」と即座に否定が返される。
    「お前の匂いが、いい匂いなわけ」
     耳元で囁いてやれば、マイクランの肩が微かに揺れる。その反応を見ては、意地悪をしたくなるもので。
    「うわっ」
     マイクランの腰を抱き寄せながら、今度は耳裏に鼻先を埋める。繰り返し深く息を吸い込めば、甘い芳香が肺を満たしていく。吐いた息がくすぐったかったのか、マイクランが身を捩り逃げようとする。それを許さずに抱き締める力をほんの少しだけ強くすると、観念したかのようにマイクランが体の力を抜くのが分かった。
    「っ、嗅ぎすぎだ」
    「もうちょっとだけ嗅がせろよ」
     五日振りなんだぞと言われてしまえば、喉まで出かかった文句は呑み込むしかない。
    「……イヴォン」
    「んー?」
     代わりに口から出た名にも、すぐに声が返ってくる。首筋に感じるそのあたたかな呼吸に、触れ合う胸がどくり、どくりと落ち着きのない鼓動を響かせる。電話越しではない直の声だ。伝わる熱、そして、視界の端に映る淡黄の髪に頬をくすぐられ、マイクランは本当にイヴォンが帰宅したことを心から実感した。
    「連絡ぐらい、寄越せよ」
     それでも悪態を付いてしまう。言わずにはいられないのだ。
    「ん? ああ、悪い悪い。お前まだ寝てると思ったからさ」
     悪びれもせず答えるイヴォンにマイクランが思いきり息を吐く。そんな気遣い不要だと幾ら伝えても、この男には伝わることがない。
    「おいおい、そんな怒るなって。……それより、言ってくれねえの?」
    「……? なにをだ?」
     抱き留められたままマイクランが小首を傾げる。イヴォンはふ、と笑うばかりでなにも答えない。暫く思い耽ってから、マイクランがようやく答えに気付く。
    「……おかえり」
    「ただいま」
     どうやら正解だったようだ。首筋に掛かるイヴォンの息が、柔らかく揺れた。

    「いい子にしてたか? 俺の奥サマ?」
     奥様──。結婚してもう三年が経つとはいえ、未だ慣れることのない呼び名にマイクランの瞳が揺れる。おまけに前者は完全なる子ども扱いときた。連日、大勢の子どもたちに囲まれているのだから致し方ないとは思うのだが、それでもマイクランは、イヴォンしかすることのないその扱いすらむず痒さを感じてしまう。
    「していた、と言えば、俺にもシールをくれるのか?」
    「んー?」
     うがい手洗いを済ませたイヴォンに、マイクランが短く息を漏らす。その脳裏には、動物やキャラクターものといった数々のシールが浮かんでいた。小児外科医であるイヴォンは、常日頃からシールを持ち歩いている。診察や、痛みの伴う注射を終えた子どもたちへの褒美を。
    「お前には、スタンプかな」
     白く細い、それでいて骨ばったイヴォンの指に頰を包まれる。ゆっくりと近付く顔に、マイクランはそっと目を伏せた。
     イヴォンにしては随分と優しい口付けだった。これも子ども扱いの一種なのだろう。だが、悪い気はしない。軽く触れ合うだけとはいえ五日振りの〝スタンプ〟だ。わざとらしく響かせたのであろう愛らしい音に、マイクランがふ、と笑う。
    「悪いが、飯はもう少し掛かるんだ。だから、先に風呂にでも──」
    「風呂はいいよ。俺もシャワー浴びてきたしな」
     囁いた声は低く、しっとりとした湿度を持って空気を震わせる。
    「それよか、腹が空いたな」
    「分かった。急いで作るから──」
    「いや、いい」
    「うん?」
    「ここにあるじゃねえか」
     トン、とイヴォンがマイクランの胸を叩く。
    「美味い飯がさ」
     マイクランの肩を掴み、壁に押し付け脚の間に膝を割り込ませる。その膝で股間をぐっと押し上げてやれば、マイクランのそこがうっすらと主張をし始めた。
    「なっ──!」
     膝を退けボトムの隙間に手を差し込み、下穿きの上からやわやわと揉みしだく。
    「や、やめ──っ!」
     ぐりぐりと先端を刺激している指先が徐々に濡れていくと、腰を反らせる形でマイクランが逃げ始める。イヴォンの目には、その姿すら誘うようにしか映らない。
    「なあ、もうこんな、ぐちょぐちょいってる」
    「っ、ふ……っ」
     久し振りの刺激とその言葉に、マイクランは奥歯を噛み締める。やめろと言ってもやめてはもらえないことなど知り得ていた。だが、ここは玄関に近い脱衣所だ。多少ドアから離れているとはいえ、いずれ出勤、通学時間の迫った人々があの薄いドア越しに通り過ぎるかもしれないのだ。
    「こんなとこで、盛ってんじゃあねえ……っ!」
     絞り出した声に、イヴォンは口角を上げたまま再びマイクランの耳許へ唇を寄せた。
    「じゃ、続きはベッドでするか」
    「っ、そういう、意味じゃっ」
    「だーめ。言っただろ? 腹が空いたって」
     否定の言葉を聞き入れることなく、手早くマイクランのボトムを脱がしにかかる。
    「ん……? なんだァ? これ」
     言い淀むマイクランに、イヴォンの視線が下肢へと注がれる。赤や黒といった艶やかなショーツに、見た目ともに柔らかく薄い色合いのショーツなどは目にしていたが、この翠色は初めてだった。繊細なレースがふんだんに施され、それはまるでスカートのように陰部に掛かっている。
    「お前、こんなの持ってたか?」
    「っ、昨日、届いたんだ、っ」
     イヴォンが知らなくて当然だった。これは届いたばかりの真新しい下着なのだから。
    「へえ」
     クロッチ部分に指を這わせ、玉ごと陰経全体をふにふにと揉み込むように刺激すればマイクランはたまらず身悶えた。先端が下着のゴムに引っかかって、膨張した陰経はそのなかに押し込められたままとあっては苦しくて堪らない。
    「新しいショーツ穿いて、待っててくれたのか」
    「く、ぅうっ……!」
     イヴォンの指が先端に集中する。布越しとはいえ尿道口をぐりぐりと刺激されれば、今度こそどうにかなってしまいそうだった。
    「なあ、お前、これ以外にも買ったのか?」
     訊けばマイクランが小さく頷く。それならば、あとでショーを開いてもらおう。マイクランにしかできない、とっておきのショーを。
    「もらった、んだ……」
    「んー?」
    「っ、シルヴァン、からっ……」
     マイクランの口から突然溢れた名にイヴォンの眉がぴくりと動く。その脳裏には、あの小憎たらしい顔が浮かんでいた。
    「ギフ、ぁっ!」
     マイクランが言い終わらないうちに息を奪う。今度は〝スタンプ〟などという軽い口付けではない。開いた唇に舌を捩じ込み、歯列をゆっくりとなぞっては舌の裏をも舐め上げる。
    「ん、っぅ……」
     鼻から抜ける上擦った声をも堪能していると、やがて息苦しさからかマイクランがシャツを掻き抱き始めたので、名残惜しさは残るが解放する。
    「まさかお前、俺より先にあいつに見せたのか?」
    「はっ……? ん、んなわけあるかっ!」
    「どうかな。なんせ俺は五日もいなかったわけだし?」
    「ばかやろ……っ、あいつはただの弟だッ!」
     可愛がってもらったのかと訊けば、それ以上でもそれ以下でもない、と酸欠により紅潮した頬で力強く返される。その姿すら愛おしいと感じる自分は相当に溺れているなと苦笑しながら、無防備な首筋を舐め上げ吸い付く。
    「ただの弟が、嫁いだ兄貴にショーツなんか寄越すかよ。こんなクソエロいショーツをよ」
    「はあっ? お前、なにかかんちが──あっ、だめだっ! 痕なんか付けるなっ馬鹿ッ!」
    「あァ? 別にいいじゃねえか。俺しか見ねえんだし」
    「そういう問題じゃねえよッ!」
     ぐい、と肩を押して抵抗してくるので、ここは一度諦めて解放をする。どうせ機会はこのあと幾らでもあるのだ。
    「仕方ねえなァ」
     吸われた箇所をさすりながら、マイクランがほっとしたように息を吐く。
    「さっさとベッドに行くぞ」
    「はあ……?」
    「思い出したんだよ」
    「な、なにをだよ……」
    「そういやお前、ここじゃ嫌だって言ってたなあって」
    「ばっ……! 盛ってんじゃねえって言ったんだ! 俺はっ!」
    「じゃあ、我慢できるのか?」
    「う……あ、ああ」
     途端に小さくなる声にイヴォンがくつくつと笑う。
    「ふうん?」
     こんなになってるのに──? 耳元で囁きながら、だらだらと涎を溢すその中心を避け、太腿の付け根から尻へと指先でなぞる。途端にぴくん、と反応する身体に満足して手を離すと、真っ赤になった顔で睨みつけられた。
    「大体さあ、なんで朝っぱらから脱いでんだよ、お前」
    「さっきも言っただろ! シャワーを浴びようと思ったらお前がちょうど帰ってきたんだよ!」
     マイクランが矢継ぎ早に答える。
    「なんで浴びようと思ったんだ? 昨日も入ったんだろ?」
    「それは……」
     先ほどまでの勢いはどこへやら、マイクランが途端に口ごもる。イヴォンからの連絡がないことに気が落ち、気持ちを切り替えるためになどとは口が裂けても言えなかった。
    「言えねえなら、体に訊くしかねえよなァ?」
    「ひ、っ」
     嗚咽のような声を漏らすマイクランに、またひとつ、所有の印を刻む。そうして身体中を攻め立てれば、マイクランの息は即座に艶を帯びる。
    「やめろって、おい……ッ!」
    「んー?」
    「も、いい加減に、しろっ、この……!」
     何度振り払っても胸だの尻だのに伸びてくる手を退けるのにも疲れたころ、イヴォンが小さく笑う気配がした。それがなんだか悔しくて、マイクランもイヴォンの首筋へと手を伸ばす。相手がやわやわと揉みしだくように触れるのならば、こちらはさわさわと軽く撫で上げてやる。
    「ふっ……おい、くすぐってえよ、こら」
     ごく近くで感じられるイヴォンの呼気が柔らかく揺れた。
    「先にしたのはお前だろうが……!」
     いまだってやめもせず触れているのだ。それも今度は、陰茎を。
    「しょうがねえだろ。触れていたいんだよ、お前に」
     イヴォンは恥ずかしげもなく言葉を紡ぐ。
    「頭の先から足の先まで、お前のすべてに触れていたい」
    「このド変態野郎め……」
    「そのド変態野郎が大好きなのはお前だろ?」
     マイクランの先走りに塗れた掌を、見せつけるように舐める。
    「言ってろ!」
     恥ずかしさを誤魔化すためか、脛に蹴りが入る。しかし、まったくといっていいほど痛みは感じない。本当に素直じゃないやつだ。まあ、そんなところも愛おしいのだが。
    「ほら、行くぞ」
     ネクタイを緩めながら寝室へと歩き出せば、背後ではあ、と呆れ切った溜息が響いた。
    「続きはベッドで聞いてやる」
     余裕ぶってはいるが、正直、これ以上はもう自分のほうが限界だった。目の前にいるマイクランは普段通りの気の強さではいるものの、既にとろんとした顔をしているし、服越しに伝わる体温は酷く熱くて心地がいい。なにより、ずっと触れたかったマイクランの身体にようやく触れられたという事実から来る興奮が治まらない。早く抱きたい。ひとつになりたい。欲望ばかりが溢れてきて、どうにかなりそうだった。

     *

     思えば、朝からするのは久し振りだった。一体どれぐらい振りだろうかとマイクランが呑気に考えている最中にも、イヴォンの手は相変わらず胸許を這い続けている。
    「う……くっ……」
     焦らすようにゆっくりとした動きで乳輪を撫で回すものの、敢えてその中心には触れぬようされることにマイクランは微かな怒りすら感じてしまう。意地が悪いのだ。この男は。だが、それは素直になれない自分に対してのものだと分かっているからこそ、余計に腹立たしい気持ちになる。
     マイクランは顔を逸し、唇を噛むことで耐える。とうとう摘み上げられれば、乳首はすぐ芯を持ち硬くなっていく。まるでその刺激を待ち望んでいたかのように。
    「ほんと敏感だよな、お前」
     ふう、と吐息を掛けられ、マイクランの身体が震える。
    「そ、れっ、やめろ……っ」
    「やめない。言ってんだろ? 腹が減ってるって」
     やめろと言ったのは息を吹き掛けることに対してだが、訂正などした瞬間に増えるであろうことは想像に難くない。
    「俺はっ、食いモンじゃあ、ねえっ……」
    「よく言うぜ。こんな美味そうな身体しといて」
     意地悪く囁いて、イヴォンは尖らせた舌先でマイクランの乳輪をなぞり上げる。
    「んぅ……ッ!」
     ぬるりと唾液で濡らされ、ぞくぞくと腰から背筋にかけて甘い痺れが走った。胸許に顔を寄せているせいか、イヴォンの声は普段よりほんの少しだけ低く、それでいて甘く掠れても聞こえる。その声だけで感じてしまうほど、マイクランはイヴォンに慣らされていた。
    「あ、あ……」
     びくりと胸を反らせ、顔を背けるマイクランの下肢が酷く反応していることにイヴォンが笑みを溢す。
    「あー……。なんか、喉が渇いてきたなァ」
    「……あ?」
     突然話題が飛んだことに、マイクランはただ瞬いた。それだけ唾液を出しておいて、なにを言っているのかさっぱり理解ができなかった。
    「だからさァ、なんか飲みてえんだよ」
    「なんだよ。水なら──」
    「あ、いいよいいよ。取りに行かなくて」
     なぜ、自分が取りに行く前提なのだろうか。マイクランにはそんな気などさらさらなかった。自分で取りに行けという言葉を呑み込み、唾液でも飲んでいろよ。そう告げようとした瞬間、まさかあの分泌液のことか? とマイクランが動揺する。そんなもの、自分には到底無理な代物だからだ。
    「ここにあるだろ? 特別な〝水〟がさ」
     ああ、やはり──。起き上がりにやつくイヴォンの顔に、マイクランは嫌な予感がした。
    「出るわけねえだろうがッ! ……あ、ああ?」
     イヴォンの熱い手にぐい、と脚を大きく開かされる。どうして脚なんだ? と混乱したのは一瞬で、奴の言う〝特別な水〟の正解に気付いたときにはもう遅かった。
    「うあッ!」
     腿に触れる淡黄の髪がこそばゆい。膝裏を掴まれたまま下肢の中心を強く吸われ、マイクランの体がびくりと跳ねる。
     イヴォンの術中にまんまと嵌ってしまった。乳首を執拗に舐められるのはいつものことだ。そうしてじくじくとした疼きが下肢へと溜まり、既に硬く勃ち上がった陰茎に触れられ、吐精へと導かれる。
    「く……ッ、ひあ、っア、ァ……ッ‼」
     そんな常の流れは、今日に限っては訪れない。マイクランは唇を震わせどうにか罵ろうとするが、音になるのは掠れた喘ぎ声ばかりだった。胸への愛撫だけで達してしまうほどに感じやすくされたこの体は、既にその先にある快楽を知っている。当然、この熱い熱い粘膜がもたらす刺激も。
     宙を掻くマイクランの爪先が空しくシーツを引っ掻く。どうにかその強い刺激から逃れたくて身を捩るが、却って深く飲み込まれるだけだった。
    「ふ、っ……」
     自らの唾液と混ざる特別な〝水〟を堪能しながらイヴォンが笑む。今日はまだマイクランのショーツを脱がしてはいない。脱がせるつもりもなかった。贈り物だと知らされたときから挿入もずらしてするつもりだった。そうしてさんざ汚れたこのショーツを〝大切に洗濯〟するたびに、今日の行為を思い出せばいい。思い出して、恥辱に染まればいい。それでも捨てるに至らないのなら、そのときはまた同じことをすればいい。
    「やめ、ッ……」
     本当ならば反り立つ自身の陰茎をあの玄関で遠慮なくぶち込んでいるはずだった。それを我慢してやったのだ。これぐらい可愛いものだろう。我慢に我慢を重ね、そうして始めた口淫を、まずはとことんマイクランを気持ちよくさせてやろうというこちらの気遣いを、やめろという声で簡単にやめてなどたまるものか。
    「っぁ、あ……!」
     布越しにじゅるじゅると、わざと派手に音を立て吸い上げる。時折噛んで愛撫を施していると、ふるふると震えながら、それでも引き剥がすようにマイクランが頭を押してくる。しかし、それは抵抗と呼ぶには随分程遠いもので、イヴォンは気にせずに口淫を続ける。
    「ッ、クソ……ッ、ほん、とっ、へんたい、だな……ッ、おまえ、ッ……!」
     悪態をついてもそれが負け惜しみなことはこの陰経が教えてくれる。好きなくせに、と咥えたまま喋れば、それすら好ましい刺激となることも十分知り得ている。
    「ン、ぅっ……!」
     五日振りのマイクランの味だ。このまましゃぶり尽くして堪能したい。だが、目にちらつく薄い布は邪魔で邪魔で仕方がない。そう思ったら、いつの間にか歯で噛み千切っていた。
    「な、な……?」
     随分と間の抜けたマイクランの声が響く。そうだ。初めからこうすればよかったのだ。まどろっこしいことなどせず、まずはこいつを食い散らかせばよかったのだ。クロッチ部分はともかく、繊細なレースなどこの強靭な歯に勝てるはずがないのだから。
    「ば、ばっかやろっ……!」
     それまで喘いでいるばかりだったマイクランが途端に声を荒げる。買ったばかりの下着、それも普段の倍近くはする代物をいとも簡単にただの布切れにされてしまっては流石のマイクランも冷静ではいられなかった。
    「なにしてんだよっ、おい、こらっ!」
     途端に強く頭を叩かれ、仕方なくイヴォンが口を離す。先走りや唾液に塗れた陰茎と自身の唇とが糸を引いている様に酷く興奮したことを悟られないよう平静を保ちながら、なんだと問えばマイクランは露骨に不機嫌さを露わにした表情でこちらを睨み付けている。
    「しゃぶるのに邪魔だったんでな」
    「脱がせばいいだけだろうがっ!」
    「脱がすのが面倒臭かったんだよ」
     分かれよ、と無様に破いたレースの隙間から顔を覗かせている陰経の先を、再びべろりと舐め上げ咥え込む。マイクランは相変わらず頭を叩くことで拒絶をするが、そんなもの、こちらも歯で対抗すればいい。
    「っ! ア……ふ、ふざけ、んな、ァッ……!」
    「その台詞、そっくりそのまま返すぜ」
     五日振りの再会だというのに、なぜ身に着けているのがあの義弟が贈ったショーツなのだ。気に食わない。非常に気に食わない。帰路を伝えていれば別のショーツだったのか? そもそも、義弟がなぜそんな物を贈り、挙げ句マイクランが受け取るのかすら分からなかった。
    「イヴォンッ……! ぅ、っんァ」
     マイクランが女物の下着を穿くようになったのは結婚後、この団地に越してからだ。いつまでも実家暮らしでいるシルヴァンが知り得るはずもない。考えたくはないが、あるとすればマイクランが告げるか、強請ねだるか、見せるか。たまたま着替えの最中にシルヴァンが遊びに来たか、覗いたか。なんにせよ、他人が寄越したショーツを身に着けている姿など気分のいいものではない。
    「も、もう、やめろって、っ……!」
     そんなにも嫌ならもっと本気で抵抗すればいい。なのにマイクランはそれをしない。こちらが少し陰経への刺激をやめればマイクランはその隙に逃げようとすぐさま腰を引く。そんな態度にも苛立ちを覚えてしまう。だからと言って、今更完全にやめるつもりなど毛頭ないのだが。
    「やめろ、よせっ、んん、んァッ!」
     マイクランの脳内で、「やめるかばーか」といういつもの声が再生される。制止など無意味なことはマイクランとて分かっている。腰をしっかりと押さえ付け、根本から先端へ、なんの躊躇いもなくじゅるじゅると〝特別な水〟を飲むイヴォンは、たとえマイクランがぎゅう、とその髪を掴もうと、たっぷりと吐き出される〝水〟すべて堪能するまで口を離すことなどない。時折歯で噛まれ、敏感になりすぎた陰茎の先端を舌先でぐりぐりと攻め立てられれば、恥辱でどうにかなってしまいそうだった。なにより、久し振りなのだ。イヴォンの口淫は五日などという比ではないほど本当に久し振りだった。恥ずかしくて堪らない行為なのに、この口腔のあたたかさや柔らかさはやはりとてつもなく気持ちがいい。
    「ッ、イヴォ、ンッ……は、ァ……ッ!」
     頭が真っ白になる。鼻に掛かった情けない嬌声が、だらしなく開いた口から際限なく溢れていく。先走り塗れだった陰茎はいまやイヴォンの唾液で濡れそぼり、あたたかい口腔に包まれ、上下に扱かれるたびにびくびくと脈打ち続ける。マイクランはもうろくに力を入れることができず、ただただ弱く淡黄を乱すことしかできない。
    「も、イ、くっ……イ、アァあッ!」
     限界を漏らせばイヴォンが微かに笑う気配がした。今度は吸い付くよう口を窄め、再び舌先で尿道口をぐりっと押し広げられる。そのまま絞り取るように強く吸われれば、マイクランは耐えることなどできなかった。
    「うあ……ッひ、あ、────ッ!」
     イヴォンの口腔に勢いよく吐精する。どくり、どくりと陰茎が脈打つたびに、大量の〝水〟がごくん、と飲み下されていく。すべて出し切ったときには、マイクランの身体中から力が抜けていた。
    「あ、あ……っ、は、っ……」
    「っ、すげえいっぱい出たなあ」
     抜いた際、唇の端に付いた残滓までをも丁寧に舐め取る。
    「お陰で潤ったぜ」
     満足げに笑みながら、ちゅ、と音を立て陰茎の先だけに口付けたイヴォンをマイクランが睨み上げる。
    「なにが潤っただこの変態ッ! ビリビリにしやがって……高かったんだぞこれッ!」
    「へえ、そうかい」
     イヴォンの軽快な返事にマイクランの蟀谷がぴくぴくと痙攣けいれんする。イヴォンは気にせず、矢継ぎ早に言葉を続ける。
    「あいつと仲良く選んだのか? これ買って、っておねだりでもしたのか? ふ……あいつもさぞかし喜んだことだろうよ、どんなクソ高えモンだろうとほいほい買うよな、大好きだもんなお兄ちゃんのことがよ」
    「んなわけあるか馬鹿ッ! お前なに勘違いしてんだよ! これはなあ! これは……」
     マイクランの言葉尻が段々と弱くなっていく。
    「なんだよ、はっきり言えよ」
    「お、お前の……」
    「俺の?」
    「お前のために買ったんだよ‼ このド変態クソ馬鹿野郎ッ‼」
    「はあ?」
     なんとも酷い罵倒ばとうに、今度はイヴォンが間の抜けた返事をする番だった。マイクランはどすどすと不機嫌を隠しもせずベッドを降り、チェストの上段から一枚の封筒を取り出した。
    「いいか、よく聞け! シルヴァンから貰ったのはギフトカードだ! これだ! これで! 俺が! 買ったんだよッ‼」
     バシ、と乱暴に叩き付けられた封筒から出てきたものは、見知った大手通販会社のギフトカードだった。イヴォンは目を丸くする。
    「なんだってこんなもん……」
    「いつも世話になってるからだとよ」
     ぶっきらぼうにマイクランが答える。誕生日や結婚記念日でもないのに、と浮かんだイヴォンの疑問はすぐに解決した。とはいえ、刻まれた額は常より下回るがそれでも高額の域だ。記念日ならばともかく、普段使いで渡すような額ではないことに違和感を覚える。覚えるが、そんなことはどうだっていい。
    「あー……。悪かったよ」
     今度こそイヴォンが謝る。マイクランはフン、と鼻を鳴らしてカードと封筒を奪い取ると、再びチェストへと仕舞った。
    「ふ……」
    「なに笑ってんだよこの大馬鹿ド変態」
    「ふはっ、ああ、いや、悪い悪い」
     謝罪が口を出るものの、マイクランの豊富な罵倒にイヴォンは笑いを抑えきれなかった。くつくつと笑うその姿をマイクランが睨みつける。イヴォンは片手を上げ降参の意を示すが、その顔はまだ緩んでいた。
    「お前、反省してねえだろう。なんなんだよ、さっきからにやにやと……」
    「いや? ただ、嬉しくてさ」
     イヴォンはベッドから降りると、チェストの前で仁王立ちのままのマイクランに歩み寄る。兄弟間でどういう経緯があったにせよ、そのギフトカードで買うものがショーツなどとは微笑ましくて仕方がなかった。
    「嬉しい?」
    「だって、怒るぐらいお高いものを用意してくれたんだろ? 俺のために」
    「は、はあっ?」
     予想だにしていなかった言葉に頬が熱くなる。マイクランは慌てて顔を背けたが、耳までは隠しきれない。
    「それってさ、俺のことすげえ想ってくれてるってことだろ?」
     耳許で囁かれる。すぐにでも否定をしたいのに、首筋に掛かる吐息の熱さにくらくらして音を紡ぐことができない。しっとりと汗に濡れた指先がマイクランの背をゆっくりと撫で上げる。ぞくっとするほど優しい感触だった。
    「違うだなんて言うなよ? マイクラン」
    「ん、っ……」
     熱い手に幾度も幾度も撫で上げられる。マイクランはくすぐったさとむず痒さから、その手を解こうと腕を掴んだものの、今度はより密着されそれも叶わなくなった。
    「なあ」
     押し当てられる昂りにすら、過剰に反応してしまう。同時にマイクランは、いつもは辛抱のないイヴォンが、よくここまで我慢をしたなと思った。
    「続き、してもいいか?」
     甘く濡れた声の問いにマイクランが短く笑う。
    「どうせ断っても、するんだろう?」
    「そりゃあそうだろ」
     即答だった。
    「なら、訊く意味ないじゃあないか」
    「お前の意思確認ってやつだよ」
     そう言い再び唇を重ねてきたイヴォンに、マイクランも目を閉じて応じる。
    「……好きに、しろ」
     口付けの合間に短く告げると、イヴォンは小さく笑みを溢した。
     なんだかんだ言っても、この男イヴォンを欲しいと思う気持ちは止められないのだ。
     


    「脱がしてくれるか?」
     イヴォンはそっと訊ねた。常なら下肢へと伸ばすべきなのだろうが、半身を起こした状態でベッドに腰掛けられては、前を広げることしかできない。マイクランはほんの少し迷ったのち、イヴォンのワイシャツに手を伸ばした。ひとつ、ふたつ。ゆっくりとボタンを外しに掛かればイヴォンがくつくつ笑ったので、「あとは自分でやれ」と丸投げしてベッドに寝そべる。
    「ん」
     ワイシャツを取り払い、インナーも脱ぐと、イヴォンは自身の下肢へと手を伸ばした。きっちりと締められたベルトを緩め、ボトムを下着ごと手早く脱ぎ去る。陰経は既に頭をもたげ、先端をてらてらと濡らしていた。
     イヴォンの手がマイクランの会陰へそっと触れる。ひくり、と穴が収縮したのを感じ、マイクランは羞恥に奥歯を噛み締めた。
    「なあ。すげえ濡れてる」
     この布切れはだらだらと溢れていたマイクランの先走りすら満足に吸い取れないらしい。ほんの少し摘んだだけで、じわ、と指先に滴り落ちる。
    「いいな、これ。いままでで一番やらしいんじゃねえの?」
     あんなにも憎たらしいと思っていたショーツが、いまでは酷く愛らしいことにイヴォン自身笑ってしまう。
    「っ、ぁ!」
     まずは一本、ショーツの上から肛門につぷ、と人差し指の先だけを押し込む。マイクランの体がひときわぶるりと震えたことに気を良くし、そのままもっと深く、捩じ込むようにすれば薄いレースも悲鳴を上げた。前と後ろ、両方が揃いになったことに笑みを溢し、一度指を引き抜く。マイクラン自身の先走りでてらてらと濡れそぼるその指に唾液を垂らすようにして絡め、獲物が欲しくてひく、ひく、と収縮を繰り返すそこに今度は一気に二本差し挿れると、マイクランが息を詰めた音が聞こえた。
    「なあ」
     声を掛けながら三本目も突き立てる。多少の抵抗はあるものの、これが始めてではない腹の空いた口はすんなりと指を飲み込んでいく。ばらばらに動かし、時折前立腺を引っ掻くようにすれば、内壁がきつく指を締め付けた。
    「お前、乳首と肛門いじられんの、どっちが気持ちいいんだ?」
     そんなこと、訊かずとも分かっている。けれども、訊かずにはいられない。それすらもマイクランにとっては最高の刺激となるからだ。
    「しるかっ、ばかやろ……ッ!」
     浅い呼吸の合間、途切れ途切れとはいえ、聞き慣れたマイクランの小言にイヴォンは笑いが止まらない。
     香油や唾液だけもいいが、こうしてマイクラン自身の液も塗り込めるのが好きだった。やがて大きな口となり、快楽をいまかいまかと待ち望み濡れる肛門に自分の吐き出した欲望が混ざり合うその瞬間はなにものにも代えがたい。
    「もう、十分かな」
     すべての指を引き抜き、自身の下肢へと触れる。いつもならばマイクランに扱いてもらうが今日はもう限界だった。さっさとぶち込みたい。ぶち込んで、いますぐ欲を吐き出したい。陰経は軽く扱くだけですぐにいい硬さを取り戻した。
    「お前も喉、渇いたろ? いまたっぷりと飲ませてやるからな」
    「あ、ッ……ま、まて……こ、このまま……?」
    「ん?」
    「このまま、するのか……? これ……」
     穿いたまま、とマイクランが弱々しく訊ねる。当然だろう? と返して、軽く解すだけで受け入れの準備ができている優秀な肛門に昂りを宛がう。
    「すげえエロくて、唆られる」
     マイクランの腰がほんの僅かに揺れる。常ならば焦らすよう先端だけを飲み込ませるが、いまはそんな焦れったいことなどしていられない。
    「あ、ぁ……」
     嬉しそうにずぶずぶと深く陰茎を咥え込む内部はどくん、どくんと脈打ち、蕩けそうなほどに熱かった。
    「ハッ……」
     やがてすべてがマイクランのなかに収まると、イヴォンが小さく息を吐く。珍しいこともあるものだ──。ぐい、と大きく開かされた脚を震わせ、五日振りの圧迫感に耐えながらマイクランは思った。いつも余裕綽々よゆうしゃくしゃくな男の、余裕のなさはほんの少しだけ気分がいい。
    「動くぞ……っ」
     待ち望んだ快楽だ。気持ちがよすぎて、いますぐ自分本位の快楽を得たいという欲求を抑えることはできなかった。マイクランの返事も待たずイヴォンは律動を始める。ぎしぎしとベッドが軋むたびに結合部からも水音が響き渡る。聴覚すら犯される感覚に、マイクランは思わずシーツを握り締めた。
    「うぁ、ア、ッ……!」
    「くッ……これ、っやべえな……ッ」
     無様に破いたショーツの隙間から咥え込ませているため、その縁のレースがくすぐるように陰茎を擦り上げ、一層気持ちがいい。
    「あっあ、うァッ、アぁ、っ……!」
     腰の動きを速めれば半開きになったマイクランの口から喘ぎに混じって唾液も漏れ始める。舐め取るために身を屈めれば上ずった声が上がり、同時にきゅう、と穴が締まった。
    「ん、ぁ……ふ、っ……」
     すっかりと上気した顔を見られたくはないのだろう、隠そうとするマイクランの腕に手を伸ばし、きつくベッドに縫い付ける。
    「見せろよ、お前の感じてる顔」
    「ア、ッ」
     あまりに昂りすぎたとき、マイクランの目尻からは涙が零れ落ちる。唾液も、涙も、イヴォンにとってはすべてが甘露だ。一滴だって無駄にはできない。溢れてさせているマイクランの顔は、その切羽詰まった顔は、快楽に翻弄され弱り切ったその顔は、普段の凛々しい顔からはとても想像できない表情だ。そうして、それを知っているのは自分だけだということにどうしようもなく興奮してしまう。
    「なんて顔してんだよ、お前……ッ」
     イヴォンは思わず呟いた。
    「隠さなくて、いいから……」
     優しいのは声色だけで、抽送が弱まることは一向にない。イヴォンはマイクランを抑え込み、腰の動きをより一層速めた。
    「ぅあァッ……!」
     身体の自由を奪われて、がつがつと盛りの付いた獣のように無遠慮に突かれ、マイクランは為す術もなくイヴォンを受け入れる。もう限界だ──。あまりにも強すぎる快楽にそう思った瞬間、近付くイヴォンの顔に唇を塞がれたことを知る。
    「ん、ふ……ぁ」
     舌を絡めながらより深くまで貫かれる。奥の方で小刻みに動かされると、あまりの気持ち良さに意識ごと飛びそうになる。息苦しさと心地よさが交互に襲い掛かってきて、なにも考えられなくなる。
    「ハッ……マイクラン……ッ」
    「あ、あ、ッく、うぅっ、あ、あ……ッ!」
     絶頂に意識の向いている姿が美しい。途切れ途切れの掠れた声すら愛おしい。イヴォンは目の前の雅景を堪能しながら、締め付けに抗わず溜め込んだ精液をマイクランの最奥へと吐き出す。どぷどぷと注ぎ込まれるイヴォンの熱い欲望を受け止めたマイクランは、やがて体からがくりと力を抜き、しどけなくその肢体をシーツへと沈めた。
    「うぁ……」
     ゆっくりと陰茎を引き抜き、ふたり分の汗やら精液やらで濡れた肉体を見やる。ぐったりとした様子で目蓋を閉じているマイクランは未だ絶頂から戻って来られないようで、快感の残滓にひく、ひくと体を揺らしているのが酷く甘美だった。
    「おい、大丈夫か?」
    「……ん」
     本当に気持ちがよかったのだろう。マイクランの右目から一筋の涙が伝う。
    「朝からセックスもいいモンだなァ」
    「……言ってろ」
     このばか──。常ならば絶対にない子どものような返事だ。どこか楽しくなって、戯れに腹を撫でてみる。マイクランは腰を跳ねさせ、それからゆっくりと悪戯の主を見た。
    「それ……。くすぐってえから、やめろ……」
     懇願し、睨み付けてくるマイクランの目に平時の鋭さはない。さんざ感じさせられて過敏になっている体にいつまでも触られられるのは本当に辛いのだろう。代わりといってはなんだが、白に映える赤毛を一房、手に取る。その髪に口付け、弱々しい呼吸を繰り返すマイクランを丁重に抱き締める。
    「できるときに、たっぷりとしておかないとな」
    「ん……?」
    「愛情表現」
     マイクランの耳許でゆっくりと囁いてやる。腕の中の体は一瞬だけ身動ぎしたが、すぐに力を抜いた。馬鹿野郎──。罵倒する声には覇気がない。照れているなによりもの証拠だった。
     数え切れないほど肌を重ねても尚飽きることなどなく、寧ろ回数を重ねる毎、更に欲しくなる。もっと欲しいと際限なく求めてしまう。そんな己の貪欲さに呆れ果てる日もあるが、今更この欲望を抑えることはできない。
     マイクランを愛しいと思う気持ちは、止めることができない。


     *


     背中に感じる熱に、マイクランがそっと目を覚ます。不思議に思ったのは一瞬で、静かに寝返りを打つと、普段はあまり目にすることのできない寝顔がごく近くにあった。ああ、そうだ。帰ってきたのだ──。下りている前髪のせいだろうか。いつもより幼く見えるイヴォンの姿がマイクランの目を奪った。
    「……う、ん……?」
     甘えるように身をすり寄せる姿はどこか面白くて。マイクランは唇の端をゆるりと吊り上げ笑みを深めると、ゆっくりとその耳許で囁く。
    「起きろよ、旦那サマ」
     ああ、朝が始まる。旦那イヴォンのいる生活暮らしが、また──。




    後書き

    拝読ありがとうございます。
    団地妻マイクランはフォロワーの和泉さん(@iz_mife) 発祥なのですが、そのネタにとてつもなく興奮したため許可をいただきこのたび執筆させていただきました。
    当方の作品のモブ旦那は、既刊【代わりに愛してあげる】に登場しているモブ(イヴォン)なのですが、こちらは原作のルナティックにて、マイクランの前方に立つ修道士がモチーフです。彼にしか引き出せないマイクランの回復ボイス、是非一度聴いてみてください。無双でも聴けるようですが、当時は無双発売前でしたので、わたくしはとてつもなく興奮いたしました。
    【代わりに愛してあげる】はその産物でもあります。

    「兄上!クロワッサン忘れてますよ!!」→忘れてません大丈夫です。
    イベ当日に間に合わないためそのくだりをカットしました。
    しょげるマイクランに別に食えるだろ、ともぐもぐするイヴォン、という流れを考えてました。

    「下着だったりショーツだったり…表記ゆれ酷くない?」→わざとです。
    マイクランはショーツと言えずに下着・イヴォンはショーツと言えるその違いです。

    ラストの「愛情表現」はセックスというルビを振ろうと思ったんですが、読者の方の好きな読み方で読んでいただきたく、敢えて振るのをやめました。

    あとなにかききたいこととか感想などあれば書き込みボードまたはウェブボにお願いします。
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    gtcgms

    DONE名前のあるモブと結婚して幸せいっぱいな妻マイクラン(団地妻だけど♂)のはなし
    マイクランが女物のショーツを着用しています
    旦那は小児外科医です。シルヴァンとは仲は悪くないけど好きというわけでもない
    攻のフェラ描写があります
    突然シーンが変わります
    キャラ崩壊でもあるのでなんでも大丈夫な方向け
    続きはベッドで聞いてやる(3年目の同窓会展示作品(新作) 窓から差し込む朝の陽射しがやけに眩しく感じるのは、一睡もしていないせいだろう。慣れたのは[[rb:慢性 > まんせい]]的な睡眠不足だけで、緊急の要請に緊張が伴わない日はない。
    「よく、頑張ったな」
     小児用のベッドですやすやと眠る男児の頭を優しくひと撫でする。まだ二年しか世界を知らない彼は先日、腹痛により小児科を受診した子どもだ。担当をした医師はその痛がり方にどうにも違和感を覚え、即座に大学付属の小児外科へと転科の準備をした。検査の結果、彼は[[rb:先天性胆道拡張症 > せんてんせいたんどうかくちょうしょう]]先とそれに伴う[[rb:膵炎 > すいえん]]の診断で即時入院となったのだが、その日の夜病棟で[[rb:胆道穿孔 > たんどうせんこう]]によるプレショック状態を呈したため、緊急開腹ドレナージ手術を施行することとなった。一時は騒然となったが手術は無事成功。このまま合併症なく軽快退院し、後遺症の心配もないだろう。
    17790

    gtcgms

    DONEゴーティエ家。兄上が家を去る前日のシルヴァンと辺境伯のはなし。無双ネタバレあります
    もつもた展示作品
    決別 一節に数回。どうにも眠れぬ夜がある。毎節決まって訪れるその夜を、シルヴァンは寝台に巣食う芋虫となってやり過ごす。
     日中、さんざ打たれた腹は浅く息をするだけでもじくじくと痛む。やわな鍛え方はしていないが、それすら気に食わないことも知り得ている。だからこそ相手は何発も打ち込むのだ。手加減などなしに。何度も。何度も。
     守るためには服の下に鋼鉄板でも仕込むべきなのだろう。思うだけで実行には移せなかった。仕込んだところで再びの顔だ。そうして今度は腕を、足を。身体中を潰されるのかもしれない。
    『目障りなんだよ──』
     そんな風に、兄であるマイクランがシルヴァンを好き勝手殴るのはいまに始まったことではない。殴り付けるときは圧倒的に笑顔が多いが、今日は怒りで満ちていた。そんなにも気に食わないのならば、いい加減視界になど入れなければいいだろう。吐き捨てた小さな[[rb:反抗 > ぼやき]]はより兄の怒りを買った。なるべくならばと顔を合わせぬようにしても、体のいい[[rb:鬱憤 > うっぷん]]晴らしをマイクランが見逃すわけなどなかった。
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    gtcgms

    MOURNING幼シルくんが兄上に自分の血をこっそり与えるはなし。中盤〜はプロットのまま。展開に迷って放置してもう2年も経ってることにびっくり。これも特殊性癖なので当時はこれを本にするつもりでした。
    庭師の息子庭師の息子は物知りだった。植物の手入れや鋏の使い方はもちろん、説話やフォドラの外の世界までなんでも知っていた。仲良くなったきっかけがなんだったかは覚えていない。ただ俺と同い年だと知り、それが嬉しくて声を掛けたのが始まりだった。
    一節に一度だけだった秘密の談合は節を重ねる毎に増え、気付けば毎週話をするようになった。俺といるのが見つかると、庭師は決まって息子を叱りつけるので、まるで俺の父上みたいだと言ったら、「親父なんかと一緒にするな。辺境伯様に失礼だ」と初めて庭師の息子から怒られた。庭師の息子はいつも笑っていたから俺はびっくりしてしまった。だけど、それで仲が悪くなるような俺たちではなかった。
    庭師の息子はゴーティエの庭園に手をつけるわけにはいかないらしく、水やりや掃き掃除ばかりをしていた。如雨露に水を汲んだり、集めた落ち葉を布袋に入れるのを手伝おうとすれば、「坊ちゃんの仕事じゃあない」とこれまた怒られるので、俺はいつも少し離れたところで庭師の息子を眺めていた。庭師の目を掻い潜り、庭師の息子の仕事を奪うこともせずに、俺は俺の知らない話を庭師の息子からこっそりと聞くのが好きだった。
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