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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    撻妃
    死後の駆け込み訴えです

    殉教申し上げます、申し上げます。あの方は酷い。酷い。ええ、厭な方。悪いお人です。
    いえ、落ちついております。申し上げますと、あの方はもうこの世にはおりませんので。乱されることもございません。
    話せと仰られるのなら何もかもすっかり、全部、申し上げます。

    これは、生涯ただ一度の恋でありました。
    恋文をしたためた事はございません。私から何かをねだった事もございません。
    ただあの方は私に新たな人生の標を下さり、道と光を齎し、ようやく見つけた我が命題でございました。
    あの方は失ったのかどうかさえわからなかった我が片割れと共にこの身を救い上げ、その後の生は我がためでありながら同時にあの方の為でございました。
    初めて触れられた日の事も、あの方のまだお若い時分の肌の事も覚えております。
    片割れに咎められることもありましたが、ただ口先でこれと言うだけで彼は私たちを止めることはありませんでした。
    よく火遊びをなさる方でした。私のほかにもその御身に触れられる方というのはおりましたが、恋を許されたのは私でしたので、さしたる問題ではありませんでした。


    けど、本当にずるい方。もう少し言わせていただければ悪い男でした。
    心は私にくださいました。けれども愛はよその方に注がれました。
    ある日私に「結婚することにした」なんて、もう少し勿体つければいい物を、何かよい買い物をした後のような喜色と調子で申されました。
    あの時はこの手がキンと氷の様に冷えたものです。聞かされてもどうしたらよいのかの判断さえできませんでしたから。
    屋敷にある全てを、数字として存在するものを私に下さるとも仰いましたが、私にはそれが良い物には思えませんでした。それを受け取ったとしても、あの方の何を得られるでもありませんでした。
    それをなんの屈託も無く受け取ることができる性分でしたらどれほど楽でしたでしょうか。

    ならば私はこの賭郎に身を捧げるとほんとうのほんとうに決めました。
    切間とは賭郎、賭郎とは切間。斑目という名がそれを後に継いだとしても、それより以前がそうであったことに間違いはないからです。
    やがて花嫁を迎えられたあの方は細君と共に真珠の様に輝いておりました。私はそれを羨ましいと思う事はありませんでした。
    …その身に受ける確実な愛という物に嫉妬を致しました。けど、それだけでした。嫉妬と怒りというものは別であると、切り離せる自信に感謝さえしました。
    恋とは申しましたが、私の望む物はきっとそれではなかったからです。一緒になるという事の意味さえ分からなかった身でしたので、当然のことでございます。
    そして何より子を成され、我が腕に抱かせた時のあの方の目に、幸福を感じてしまったのです。この腕に全てを預けるよりほかない命を抱かせてくださった事が何より嬉しく、名誉な事でした。
    この選択は間違いではなかったと確信しました。私の幸福は確かにそこにありました。まだ若さより幼さが立つ頃でしたから、そこで結びつきの多様さに気づくことが出来たのは僥倖でございました。

    この手のどこにどう、混じっているのか、本当にあの方が混じっているのかを証明する術はございません。
    けれど誰も、あの方と共に荼毘に付されることはございません。人はひとりで焼かれひとつの骨壺に一人で入ります。
    けれど、私はどうでしょうか。立会人として生まれ直し、立会人として死ぬ時まで、死した後もこの手は――――



    私は、ただの立会人です。欲してはならぬ、はい、存じております。
    お屋形様、よく見て置いてくださいませ。私は今生最後のお屋形様と、ちゃんと肩を並べて立って見せます。
    しかしながらお許しください。あなたを、零でもお屋形様でもなく、撻器さまとお呼びし、その影にキスをすることを。

    はつ恋は叶わないとよく申しますでしょう。私もその例に漏れず、というだけでございます。
    ただ少し、その同胞らより多くの幸福を得ただけでございます。
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    PAST行マリ
    卒業後同棲設定
    なんか色々最悪です
    証明 朝日を浴びた埃がチカチカと光りながら喜ぶように宙に舞うさまを、彼はじっと見つめていた。朝、目が覚めてから暫くの間、掛け布団の端を掴み、抱きしめるような体勢のまま動かずに、アラームが鳴り始めるのを待っていた。
     ティリリリ、ティリリリ、と弱弱しい音と共に、スマートホンが振動し始める。ゆっくりと手だけを布団の中から伸ばし、アラームを止める。何度か吸って吐いてを繰り返してから、俄かに体を起こす。よしっ、と勢いをつけて発した声は掠れており、埃の隙間を縫うように霧散していった。
     廊下に出る。シンクの中に溜まった食器の中、割りばしや冷凍食品も入り混じっているのを見つけると、つまみあげ、近くに落ちていたビニール袋に入れていく。それからトースターの中で黒くなったまま放置されていた食パンを、軽く手を洗ってから取り出して、直接口に咥えた。リビングに入ると、ウォーターサーバーが三台と、開いた形跡のない数社分の新聞紙、それから積み上げられたままの洗濯物に囲まれたまま、電気もつけずに彼女はペンを走らせていた。小さく折り曲げられた背が、猫を思わせるしなやかな曲線を描いていた。
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