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    milk_tea_bu5n

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    五つ目の短編の没稿供養です!原稿用紙二枚分書いたので勿体ないから放流します。

    いつつめ ベレスが扉を開けると、うまれた風で埃が舞った。
     部屋の中を見渡す。窓から差しこむ光で、輝く粒子が空中を上下した。やがて埃の粒は、シーツの剥がされた寝台や、開きっぱなしの机に置かれた変色した紙、剥き出しの床板の上に降り注ぎ、元通り、分厚い層を形成する。
     ベレスはくしゃみをしたが、涙は出なかった。五年ぶりに住人を迎えたかつての自室は、ベレスの予想に反して比較的良好な状態を保っている。
     寝台に歩み寄り、シーツをはたく。手がかゆくなりそうだ、と思いながら寝台のそばでしゃがみ込むと、ベレスは寝台の木枠の下の隙間へと手を伸ばした。そこには、こまごましたものを入れる木箱をしまってあった。引っ張り出せば、やはり埃をかぶった箱が顔を見せた。中に入っているのは、作りかけの髪飾りに、雷避けのお守り、フォドラ怪奇談──主人を探しそびれた落とし物たちだ。盗まれていなかったことに安堵して、一方で品物が残っていたところで、返せる相手とはもう二度と見えることがないかもしれない事実に寂寥をおぼえる。
     ひとまず木箱を寝台の奥へ押しやってから、ベレスは己の持ち物を確認しようと机に向き直った。幸いにして、引き出しには開けられた痕跡がない。緊張しつつも引き出しを引いて、その中に、確かに一冊の帳面を見つけたとき、ベレスは安堵のため息をついた。五年のうちに多少紙面が劣化しているが、それ以上に損傷は見られない。帳面を取り出して、軽く埃をはたく。ぱらぱらとめくれば、見知った筆跡が彼女を出迎えた。
     父親の死と時を同じくしてベレスの元へ転がり込んできた、父ジェラルトの日記である。
    「先生、大丈夫でしたか?」
     同じく士官学校の宿舎を点検している生徒に背後から声をかけられ、ベレスは頷いた。
    「掃除は必要そうだけど。二階はどうだった?」
    「一階よりは無事です。今日から皆が休んでも問題ないかと」
    「よかった。……空き部屋もあるしね、有効活用しないと」
     ベレスが言うと、生徒は深く頷いた。ふたりの顔によぎるのは、五年前の青い思い出である。ただ、生徒たちにとっては懐かしいがゆえに鮮やかな日々も、ベレスにとってはつい昨日のことだ。以前よりずっと静かな士官学校に寂しさを掻き立てられなくなるまでには、まだすこし、時間が必要だろう。
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