口説く話 大広間の二階のバルコニーからは、ガルグ=マクの全てが見下ろせる。城壁に抱かれるように並ぶ街はもちろんのこと、そこから少しずつ丘を登って、大修道院を行き交う人までも。勤めから戻る修道士たち、店を構える商人たち。そこへ今年は数年ぶりに、黒い制服の少年少女が加わっている。連れ立って出かけていく生徒たちの姿に、大司教ベレスは目を細めた。
通りがかった生徒の一人が、視線をあげた拍子にベレスに気付く。立ち止まって一礼され、ベレスも会釈を返した。本来のベレスの性質でいえば、気軽に手を挙げて応えたいところであるが、ままならないことは分かっている。お辞儀で少しずれた冠を親指の端で押し上げて、ベレスは唇をへの字にした。肩書とは重たいものだ。
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