まだ、体の芯に熱がくすぶっている。
江澄は唇を薄く開けて、小さく息をこぼした。
(だからだめだと言ったのに)
心中で藍曦臣に恨み言を投げつけつつ、ふと彼はひとりで何をしているのかと気になった。客坊にはなにもない。雲深不知処とは違って蔵書も少ない。「気にしないで行っておいで」と笑顔で送り出されたが、退屈させていないだろうか。
江澄の憂いはそのまま顔に表れて、眉根がギュと寄る。
そこへ通されたのが向張豪だった。
江澄はさっと立ち上がるとしかめ面のまま拱手した。
「ようこそおいでくださった、向宗主」
「こちらこそ、急に申し訳ない」
向家は蓮花塢の東、川の北の地域を治める世家である。宗主の向張豪は六十歳に届く年だが、威張ったところはなく、年下の江澄にも常に丁寧な態度を取った。
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