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    kabe

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    kabe

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    晃の中学生時代。本編とは無縁なので何故か双子もちゃんといる世界。らくがきです

    伏黒姉弟×ハイキュー 合同練習の際、各高校が体育館で練習していた。大会という堅苦しいものではなく、思い出作りとでも言おうか。だとしてもそこはバレー馬鹿の集まり。競争心は人一倍。負けず嫌いが揃えば白熱した試合にもなる。

     キュッ、キュッと走る靴の音。威勢の良い掛け声。ボールが弾む音。熱気が充満し、ヒリヒリする空気が震えている。

    「……うぬ?」

     その日の晃は大規模な迷子になっていた。ほどほどに歩き回り、はたと思い出して家に連絡を入れ、どんだけ遠くまで行ってんだとお説教されたところである。県超えとったのだ。説教も仕方のないことである。
     泊まるところを見つけてくれた弟に加えて、兄と姉はいっそ姉弟旅行にしようかと唐突なプランを捩じ込んできた。
     なので晃は双子の長男長女と弟の次男が到着するまでの間、気ままにふらふらと散歩していたのだ。
     そんな時に聞こえてきた音。何やら騒がしい。でも、なんとなく聞いていたくなるような音だ。
     なんだろう。気になる。
     晃は音に誘われてこっそり見に行った。

     音の発生源は体育館であったらしい。ふらりと誘われ、体育館の外の窓からそっと覗き込む。パチ、と大きな目を丸くして、凝視する。
     バレーボールというものを晃は知らなかった。初めて見たそれはなんだか楽しそうだ。
     じっと晃は見ていた。飽きることなく見ていた。次の日も次の日も、こっそり忍び込んでは見ていた。家族は任務で遅れているらしいから、晃を止めてくれる人は誰もいなかった。

    「気になりますか?」

     ふと、声がした。晃はとっくに気づいていた。連日体育館の外の窓から覗き込む晃をその人は時折見にきていたけど、何も言わないので放っておいた。その人が、何を思ったか晃に声をかけた。
     眼鏡をかけた大人。この人は知っている。烏野の顧問の先生。
     聞こえてくる声から晃は知っていた。きょとんと見上げ、首を傾げる。

    「……なあ、あれは何だ?」
    「バレーボールです。初めて見ましたか?」

     バレーボール。何度か口に出して、こっくりと晃は頷いた。

    「もっと近くで見てみませんか?」

     穏やかな大人の人はそう、晃を誘った。優しそうだったから。なんとなく断れないような気がして、気になるのでしょう?という本心を見透かされたような気がして、晃はつい、差し出された手を取ってしまったのだ。

     それが、始まりだった。




    「…………おぉ。飛んでるのだ」

     案内されて中に入った晃は手を引かれて歩いていく。クルクルと見回し、パチクリと大きな目を瞬かせた。
     バレー部の者たちはチラチラと見てはコートに集中する。気にする時間が惜しい。平常時ならばともかく、今は大好きなバレーをしているのだから。
     
     晃の手を引いた大人──武田先生は朗らかに笑っていた。教師の性質とでもいうべきか。放って置けない子だと察知したのだ。
     隣に座り、足をぷらぷらと揺らしながら目線をコートに釘付けにする晃に、目を細める。

     バレー部員は顔の良い奴らが多い。だからミーハーな女子生徒が応援に来ることは良くあった。大会などで応援に来るのは構わない。普通の練習時も勿論構わない。しかし、度を越した暴走はご遠慮願いたい。
     女の子の存在に浮き立っていたのは最初だけ。マネージャーや誠実に応援してくれるならともかく、邪魔をするのであれば不要。あまりに目に余る騒がしさに、部外者は出入り禁止という措置を取った高校は多い。しかし、真面目に真摯に応援してくれる生徒たちまで禁止にはしていない。していないのだが、大衆心理と言うべきか、大会以外ですっかりバレー部の応援をする生徒はいなくなってしまった。

     そんな中で現れた女子生徒。そわそわする心半分、警戒半分なバレー部男子。警戒心を露わにするバレー部マネージャー。彼女たちは男子たちのバレーにかける想いを、勝利への執着を知っている。だからこそ、邪魔をするなら許さないと立ち塞がる。
     だが、彼女たちの警戒心はすぐさま消え去った。何故か。

    「っ!な、なあ!あれはなんだ?ボールが跳ね返ったのだ!!」
    「ブロックですよ。あれはリードブロックですね」
    「リードブロック?なんだそれ」
    「相手のトスが上がる先を予測してブロックするんです。読みが当たればほら、塞がれました」
    「………っ!わあっ!」
    「バレーボールのルールは分かりますか?」
    「ぬ?コートにボールを入れたら良いのだろ?」
    「ええ、そうです。ですが、それだけではないのですよ」
    「うぬ?──っ!なあなあ!あれは?ちゃんとブロックしてたぞ!なんでど真ん中っ!入ったのだっ!」
    「ふふっ、あれはですね」

     とてもキラキラとした目で試合を見ていたからだ。本当に何も知らないのか、一つ一つのことに対して「あれはなに?」「これはなに?」と聞き、武田先生の説明を聞いては頷いてまた目をキラキラさせている。夢中になって見ている光景は幼い子が初めてバレーボールに触れたようであり、擽ったくも微笑ましい。武田先生も初心者であるから、分からないことはコーチの烏養に聞き、二人揃ってなるほどと頷いている。
     どちらを応援しているわけではない。しかし、点が入れば素直に喜び、少しでも不思議に思えばすぐに聞く。それは、分かりやすく活躍するスパイカーだけではなく、セッターやリベロに関しても。よくそこまで見ていたなと思えるほど、晃の観察点は優れ過ぎていた。
     
    「わあっ!わああっ!なあ!どうして一歩下がったのだ?動きを読んでいたのか?だから打ち返したのか?」

    「あっ!フェイントか!?あれ、えっと、セッター!目で誘導したのだ!あれもバレーの作戦か!?」

    「えっと、えっと、リベロ!あのブロック、リベロの位置を想定してたのだ!ただ飛んでるわけではないのだなっ!」

     正直に言おう。側で聞いていた烏養はゾクリとしたものを感じた。「伏黒晃!」と元気良く名乗った少女は肉食獣のような、猛禽類のような目でコートを凝視している。キラキラと目を輝かせ、苛烈な光を纏わせて。そうして上げた歓声と疑問は驚くほど正確であり、意識の外であったことまで言い当て聞いてくる。更には。

    「あれっ、あの足!あれ、反対から踏み出したら間に合うのだ!間に合ってたのだっ!あいつの利き足は左っ!軸足は右だから、左から踏み込んだ方が早いのだっ!」

    「一歩右にいるべきなのだ!視界が遮られてる!あいつ、もっと視野が広いぞっ!だってさっきのボール、見えてたのだっ!」

    「ぬ?戻るのが遅いのだ!一歩下がるのだっ!そしたら、あいつが追いつけるのだっ!拾えるのだぞっ!」

     何も知らなかった少女は明らかに理解して指摘している。しかもそれは全て的確に当たっていた。驚いた顔の部員が好奇心で試しにやってみたところ、動きが本当に良くなっていた。
     あからさまではないがコートの内外で晃は気にかけられていた。
     心底楽しそうに目を輝かせる少女は、何の変哲のないプレーにも意味を持たせ、僅かな思考停止も許さずにいる。正直に称賛し、指摘し、分からなければ聞く。
     晃の声は良く通るから、自然と耳に入る。となれば指摘された者は少し考え、称賛された者は照れ臭そうに頬を掻く。どんなプレーでも見逃さない晃の目線に晒され、より一層身が引き締まり、心地良い空気が流れていた。
     目に余るようならば止めなければと思っていた各高校の顧問やコーチは止めるどころか静観し、時折感慨深く頷く。プレーが良くなるのであれば言うことはない。晃がバレーボールを知ったのは今日が初めてなので、時折驚くような言葉も出るが、大抵は的を得ていた。あの子マネージャーに欲しいな、と思いながらも見守っている。

     甲高いホイッスルの音が響く。同時に休憩の声かけが始まる。パチパチと拍手をして興奮状態の晃はトン、とベンチから飛び降りた。
     部員たちはコートの外。水分を補給したり汗を拭いたりとしながらも、意識は見知らぬ少女、晃に注がれている。
     身長は小さく、烏野のマネージャー、谷地と同じくらいだろうか。圧倒的なまでに小柄な少女は頬を高揚させ、大きな目を輝かせていた。
     少女を見れば、実に可愛らしい美少女であることに気づく。
     そんな注目の少女、晃はどうしてか誰もいないコートに向かい、前へと歩き出していた。






     やってみたいな、と思ったから。



     休憩時間らしいし、コートの中には誰もいない。トコトコと歩いた晃は、借り物の靴を確かめるように、トントンと軽くジャンプする。
     見上げたネットは高いが、晃にとってなんら問題がないように思えた。
     飛んで、ボールを打つだけ。それだけではなかったけど、それだけなのに、何故あんなにも楽しそうなのだろう。必死なのだろう。キラキラしているのだろう。

     やってみたら分かるのかな。飛んでみたら、分かるのかな。

     だから、晃は。

    「ん、んー……。うむ」

     少し、距離を取る。瞼の裏に過ぎるのは先ほど見た光景。問題ないな、と晃は判断を下した。無意識下で幾つもの人影を分析し、やり方を即座に身に付ける。晃にとってそれは造作もないことで、当たり前のことだった。


     トン、と一歩踏み出す。



     グッ、と脚に力を込める。



    「──────っ!」



     ドンッッッと音がした。



     コートを蹴り上げ、天高く。小さな身体が空を飛ぶ。ネットを通り越し、ただ、上へ。


     ひゅっと息を呑んだのは誰だろう。なんだなんだと見守っていたバレー部員たちは皆、その光景に釘付けになっていた。特に、スパイカー連中はその少女から目が離せなかった。

    「…………むう。分からんな。やっぱり、私には分からないのか」

     飛んでから見たネットの上は、晃にとって特段心が揺れるものではなかった。
     トン、と軽い音を立てて着地した晃は、憮然とした表情で俯く。

     晃は人が理解できない。理解したいとは思う。でも、どうしたって理解できないのだ。
     人とは違う変わり者。それが他人が晃へ送る評価。
     晃はいつだって遠巻きにされている。いじめられているわけではない。陰口は常に聞こえているけれど、晃にとってそれは耳に入れるに値しない。話しかけられることはあるが、友人とは成り得ない。唯一、親友と呼べる宝物は津美紀だけだ。
     幾分か孤独ではなくなったが、晃の側には孤独が付き従っている。
     欠けているから、無理なことは分かっている。それでも、晃は理解したいのだ。そうしたら、津美紀の見る世界が理解できるかもしれない。だから、諦めたくない。でも。やっぱり。

     私には、どうしたって理解できないのだ。

     しゅんと俯き、すごすごと戻ろうとした瞬間、それは起こった。

    「────っ、スッゲェな!ちびっこ!スッゲェじゃん!!」
    「うにゃっ!?」

     ビクッと飛び上がる前にヒョイと抱えられる。遠くで「木兎さん!」と叫ぶ声がした。

    「ぬっ、ぬっ?あっ、スパイク打った奴!」

     猫のようにしなやかな動作でしゅるりと逃げ出した晃は、パチリと目を瞬く。
     いつの間にか、スパイカー連中に囲まれていたのだ。パチパチ瞬きながらも、晃は物怖じせずにいる。自分の身長より遥かに高い大男どもを見上げ、きょとりと首を傾げていた。








     トン、と一歩踏み出す。

     
     グッと脚に力を込め、ただ、上へ。


     ドンッッッと音が鳴る。


     ボールが手に吸い付き、振り下ろす。


     ダンッッッと体育館の床が鳴り響いた。



     
    「───っ、できたのだっ!」

     パァッと顔を上げた晃が振り向く。即座に近寄ってくれた木兎と黒尾がハイタッチの格好で待ってくれていた。
     戸惑いながら手を重ねる。パチンっと音を立てて合わさった手のひらを不思議だと思った。
     しげしげと手のひらを見つめ、握りしめる。

     誰かとハイタッチをするのは初めてだった。
     
     ぺこりとお辞儀をして、たたたっとベンチに駆け寄って座る。
     なんだか、変な感じだった。
     折角だからとスパイクを教えてくれたお兄さんたちは晃がすぐに飲み込んで実践しても嫌な顔一つしなかった。それが不思議で、変な感じがして、でも悪くはなかった。

    「楽しいですか?」

     武田先生が優しく問いかける。晃は考え込んだ。
     楽しかった。そう、楽しかったのだろう。でも、どうして楽しいと思ったのか分からない。一人で飛んだネットの向こう側と、お兄さんたちが加わったネットの向こう側。何が違うのだろう。分からないから困惑する。

    「………楽しかったけど、どうしてこんなに違うのだ?」
    「違う、ですか?」
    「うむ」

     晃は考える。考えながら、口に出す。

    「一人で飛んだ時、こんなものかと思ったのだ。山の頂上で見る景色と同じだ。こんなものなのに、なんであんなに楽しそうなのか分からなかったのだ。でも、木兎おにーさんや黒尾おにーさんがボールを投げたのだ。私はそれを打ったのだ。そしたら、なんか……変な感じがしたのだ」

     分からないなりに話す晃の言葉を武田先生は静かに聞いていた。こっそりと聞き耳を立てていた体育館中の人間も、静かに聞いている。

    「西谷おにーさんが、レシーブして、ボールがまた上がって、また打って。……変だ。何が違うのだ?同じことをしたのだ。私は飛んだだけなのだ。なのに、なんで……」
    「バレーボールは『繋げる』スポーツですから」
    「ぬ?」

     パチリ。晃は瞬く。武田先生は気恥ずかしそうに頬を掻きながら、それでも真っ直ぐに晃を見つめていた。

    「誰かが欠けては成り立ちません。誰かのボールを繋げて、誰かのボールを打って、また拾って、繋げる。その先にある景色を見て、君は楽しいと思ったのではないでしょうか」


    「バレーボールは一人ではできませんから」


     その言葉は、晃の孤独に響いた。

     

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    kabe

    DOODLEリクエストでいただいたデュースの幼馴染は小説家番外編、鍋パーティーの導入です。三分の一くらいできたので。こういう感じで進んじゃうけど良いです?という気持ちを込めている。
    食材はやってくるもの 本日のグリムは張り切っていた。グリムはオンボロ寮のキッチンの主である。オンボロ寮において、キッチンはグリムの縄張りである。子分といえどもグリムの許可なしに好き勝手できない聖域である。
     グリムは監督生の親分である。親分たるもの、子分を飢えさせるとは言語道断。そしてどうせなら美味いものが食いたい。監督生はツイステッドワンダーランドに来る前までただの男子中学生であった。特技が料理なんてことはなく、本当にごく普通のちょっとドライでやんちゃで一途な男の子だったのだ。つまり料理なんてもんは中学校の家庭科レベル。それもクラスの女子生徒のお手伝いレベル。監督生は率先して洗い物係をしていた。三年間ずっとである。つまり、お察しくださいというわけだ。というわけで、グリムは早々にキッチンの主へと名乗り出た。監督生にやらせるくらいなら自分がした方が美味いものが食べれるので。あと、子分が美味しいと笑う顔は悪くなかったので。
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