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    kabe

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    kabe

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    リクエストでいただいたデュースの幼馴染は小説家番外編、鍋パーティーの導入です。三分の一くらいできたので。こういう感じで進んじゃうけど良いです?という気持ちを込めている。

    食材はやってくるもの 本日のグリムは張り切っていた。グリムはオンボロ寮のキッチンの主である。オンボロ寮において、キッチンはグリムの縄張りである。子分といえどもグリムの許可なしに好き勝手できない聖域である。
     グリムは監督生の親分である。親分たるもの、子分を飢えさせるとは言語道断。そしてどうせなら美味いものが食いたい。監督生はツイステッドワンダーランドに来る前までただの男子中学生であった。特技が料理なんてことはなく、本当にごく普通のちょっとドライでやんちゃで一途な男の子だったのだ。つまり料理なんてもんは中学校の家庭科レベル。それもクラスの女子生徒のお手伝いレベル。監督生は率先して洗い物係をしていた。三年間ずっとである。つまり、お察しくださいというわけだ。というわけで、グリムは早々にキッチンの主へと名乗り出た。監督生にやらせるくらいなら自分がした方が美味いものが食べれるので。あと、子分が美味しいと笑う顔は悪くなかったので。

     さて、遡ること数日前、珍しく監督生がリクエストなんぞをしてきた。
     普段はリクエストなんぞしない監督生である。グリムが食べたいものはあるかと聞けば「なんでもいい」と非常に困る返答をする監督生である。グリムは世のお母さんたちの偉大さを知った。魔獣の身なのに。

     監督生は出された食事はきっちり完食する。嫌な顔一つ見せずに完食する。当初グリムがキッチンに立ち、その辺の雑草を掻き集めてなんとかツナサラダを作った時も文句一つ言わずに完食していた。ぶっちゃけあれは食べられたものではなかったのだが、草の味しかしなかったのだが、監督生はキッチリ完食したのだ。
     もしや味覚音痴なのかと思えばそうでもない。だってモストロの試食会に呼ばれた時はめちゃくちゃ辛口だったもの。グリムの食レポの隣で辛辣レビューかましたもの。マスターシェフの審査員してた時も辛辣だったもの。レオナおじたんと同レベルかちょっと高いくらい。

     アズール支配人はプライドの高い努力の男なので、監督生が「色々言いましたけど、グリムは美味しいって言ってますし気にしなくて良いですよ。一個人の意見ですし」と優しさを見せたが納得せず、必ずやこの男に美味いと言わせてやろう吠え面をかかせてくれようと試行錯誤を重ねた。そうして試作に試作を重ねた試作会にて監督生が文句なしに褒めると当然の顔で「当然でしょう?」と言うのである。
     努力を微塵も見せないストイックな姿勢に寮内の支持率が上がったらしい。

     監督生は味覚音痴ではない。ならば何故グリムの手料理を文句一つ言わずに完食するのか。これはまあ改めて思い返すと照れるのだが、監督生は「自分のためにグリムが作ったんでしょ?なら文句とか言うわけないじゃん?」と照れもせずに言った。グリムはこの男が密かにモテる理由を垣間見た。

     それはさておき、リクエストである。監督生本人はリクエストと思ってないだろうがリクエストである。

     遡ること一週間前、監督生が白い息を吐きながら「鍋、食べたいなぁ」と呟いたのをグリムは聞き逃さなかった。
     監督生は冬といえば鍋だよねという軽い気持ちで呟いただけ。他意は全くない。が、んなもん知らん。グリムがリクエストと思ったのならばそれはリクエストなのだ。


     よかろう。その願い、叶えてみせようではないか。


     偉大なる親分グリムは即座に動いた。

     鍋とはなんぞやからまずは始まる。子分である監督生の故郷が極東の島の文化に似ていることは把握済みである。生卵を食べる文化圏なんてあそこくらいしかない。
     というわけで美食研究会の部室に一直線。資料をひたすらに捲りあげ、部員から情報を巻き上げ、それでもわからなかったので苦渋の決断でオクタヴィネルに特攻。
     グリムはオンボロ寮の金庫番でもあるので、貯蓄に余念がない。蓄えは必要である。そんなことせんでも監督生あんちくしょうはサクッと稼いでくるが、これは最後の最後の手段である。グリムは堅実な貯蓄を覚えるべきだと常々思っている。
     そのため、モストロに連日通ってポイントカードを貯めるなんて真似はしない。金がかかるからだ。

     モストロ・ラウンジはターゲット層が学生を主としている。外部のお客様からは遠慮なくむしり取っている。しかしてアズール支配人はプライドの高い努力の男であり、契約と対価に対する信条は譲れないので、真っ当な対価には真っ当な対価をと、お値段に見合う料理とサービスを提供しているというわけだ。オクタヴィネルマフィアのドンと揶揄されるが、アズール・アーシェングロットという男の契約と対価に対する姿勢だけは誰もが認めている。まあ、抜け穴を用意して周到に追い詰めたりはするけども。そこはナイトレイブンカレッジクオリティなので仕方がない。騙される方が悪い、というやつ。だがアズール支配人はオバブロ時に監督生が修羅降臨させてボッコボコにして以来、騙す相手は選ぶようにしている。彼は学習できる男であり、同じ過ちを二度と繰り返さないようにする男であった。なぜならアズールはプライドの高い努力の男であるので。

     さて、そんなモストロであるが、NRC生相手には学生割引を導入しているので、学生価格のリーズナブルである。しかしオンボロ寮の財布には優しくない。オンボロ寮にとって、あそこは特別な時のご褒美飯にするのが丁度良いのだ。たまの贅沢というやつだ。ちょっと値が張るものでもたまにならば良いのだ。むしろ特別感が増すから良いとグリムは考えている。
     欲しいものがあるならともかくとして、積極的にポイントカードを埋めるようなことはしていないのだ。そして、その必要もなかった。そんなことせずともアズール支配人が絶対的な味方となってくれる対価となり得るものがあるからだ。
     対価となるが手に入れるのに苦労どころか死を覚悟するため、大抵は別で代用するしかない確実に強力なカード。

     幸運にもグリムはそれを手に入れていた。

    「おや?困りましたねえ。相談と言われましてもポイントカードがないお客様ですと……ねえ?」
    「ここにノアが描いて捨てようとした絵があるんだゾ。ノアが気に入らないからって言って販売されなかった幻の絵なんだゾ。マジカメにもアップされてない。保護者の許可もある」
    「さあさあようこそおいでくださいました!VIPルームにご案内しましょう!ジェイド!フロイド!お茶とお茶菓子をお出ししてください!いえ、ランチも追加でお出ししなさい!」

     アズール支配人は親切だった。親切すぎるほどに親切だった。

     グリムはふわっふわのブランケットに包まれながらツナ料理を味わい、満面の笑みのアズール支配人と向き合う。
     テーブルに置いたのはノアの絵。スケッチブックに描いていたものを一枚千切り取ったものだ。
     これはノアがなんか気に入らないと完成したのに破ろうとしたのを発見したグリムがなんか使えるかもしれないと勘が働いたのでお願いして貰った。ノアは二つ返事でくれた。怖かったので一応ノアの保護者の承諾は取った。
     つまりこれは保護者の逆鱗に触れない安全な最大級の超絶強力なカードである。

     監督生がノアを身内判定しているので、お願いすることは容易い。ノアは伝えれば二つ返事でいつでも描いてくれるので。奴は自身の絵がどれだけ価値があるかを理解してないので描けるならそれで良いとする。しかし対価が支払えないと慄くアズール支配人にはちょっと無理な案件らしい。アズール支配人はフリークなので。

     にっこり笑顔で握手し、取引は成立。
     鍋とはなんぞやを調べるなんて容易いことだとアズール支配人は高笑いしていた。


     そうして届きました鍋の資料がこちら。
     ペラッペラのA4用紙が一枚。その中央に美しい筆跡で書かれた文字。その内容。


    【鍋とは、出汁と呼ばれるスープに具材を入れて煮込んだもの】


     貴様ふざけんなよ。


     グリムは激怒した。これに激怒しない方が難しいだろう。対価は渡したはずである。あの絵の価値が分からないほどアズール支配人は愚鈍ではない。

    「舐めてんのか」

     モストロに特攻したグリムの第一声である。普段騒がしく喜怒哀楽を露わにするグリムのマジギレである。
     瞳孔を開き、静かに仁王立ちするグリムは明らかに負のオーラを纏っていた。
     流石、監督生の親分である。威圧感がハンパない。あのウツボブラザーズがアズール支配人の後ろに隠れるほどだと言えばお分かりいただけるだろうか。

     ウツボブラザーズに盾にされたアズール支配人は、重々しく頷いてグリムをVIPルームに案内した。アズール支配人も分かっていたのだ。貴様ふざけんなよとなることは分かっていたのだ。アズール支配人ならキレ散らかすから。

     そもそも、繰り返すがアズール支配人は対価に対しては誠実である。正当な対価には正当な対価を。契約の穴は付くが相応の対価には相応の支払いをする。これはアズール支配人の商人としてのプライドであった。
     なのでちゃんと分かっていた。グリムが持ってきたのはノアの絵である。スケッチブックの一枚を千切ったものだとしても、あのノア・ブオナローティの絵である。しかも未公開。

     先日、アズール支配人は自室で正気に戻り、対価の重さに慄いた。どんだけ重いのよ。低くても数百万マドルはするノアの絵だ。高けりゃ億越えを余裕でするノアの絵だ。確かにポストカードは学生のお小遣いで買えるけど。これはスケッチブックを切り取ったものだから商品価値はほぼないけど。でもそういうことじゃない。そういうことじゃないんだ。
     アズール支配人は持てる力を総動員した。鍋という料理について調べてまくった。

     しかしである。ここで問題が発生した。

     一つ、鍋というものが極東の島の料理であったこと。
     極東の島といえば、資料が少ないことで有名である。神秘に包まれた島。魔法の体系からして違うらしい謎に包まれた島。
     アズール支配人は執念で調べた。伝手を使いまくり、必死で調べた。これは意地である。アズール支配人の商人としての意地である。そうしてなんとか辿り着いた鍋なるもの。そこでアズール支配人は絶望した。

     二つ、鍋というものが多様すぎるものであったこと。
     まずベースとなるスープ。これだけでも種類があるのだ。スタンダードなもので1種類じゃないとかどういうことだ。具材を投入するにしても10を超えるとかどうなってんだ。変わり種にアレンジ?もう意味わからん。なんだこれ。一つの料理でやっていい数じゃないだろ。なのに総じて全部【鍋】と呼ぶ。頭沸いてんのか。これには手伝っていたウツボブラザーズも絶句した。具材を変えてお楽しみください☆なんてもんじゃねえ。そんなレベルじゃない。まるっきり違うものでは?なフルーツ鍋なんてものもあるのにこれら全て【鍋】という。

     絶句も絶句である。これが異文化か。もしや陸の文化はアズール支配人たちが知らないだけでこれが普通なのか。所詮海と陸は相容れないということか。固まるアズール支配人たちであったが、オクタヴィネルの数少ない人間と獣人と妖精によって極東の島が特殊であると判明した。良かった。本当に良かった。
     だが、これをどう伝えたものかという難題が降り注ぐ。だってこれ、これ。どうするよ。どうしたらいいのよ。
     そうして悩んで悩んで墨を吐き散らしながら出来たのがあのペラッペラな紙一枚というわけだ。

     静かに聞いていたグリムはひとまず怒りを引っ込めた。なるほど、と頷く。極東の島の文化は独特である。これはアズール支配人を責められないなと。だって生卵を食べる文化圏である。毒を無毒化してまで食べる文化圏である。そうまでして食べたいのかとドン引きするくらいなんでも食べやがる文化圏である。そりゃあ独特だろうよ。
     それはそれとして、グリムは鍋について聞くことにした。まとめてなくて良いから教えろと。アズール支配人は重々しく頷いた。ついでにモストロラウンジの無料券をもらった。これにて監督生とグリムは卒業するまでモストロ・ラウンジを使い放題である。ありがたく頂いた。贅沢を覚えると戻って来れないから、日々のご褒美として活用しよう。特別な日のご褒美に財布が傷まないのはとても助かる。グリムはその辺り堅実に生きると決めている。何故なら監督生が大変アレだからだ。


     と、いうわけで。大体の概要を掴んだグリムは早速とばかりに召集をかけた。鍋パーティーである。聞くところによると、一人鍋も良いがやはり大勢で囲むのが楽しいということ。なるほどね。ならば呼ぼうじゃないか。マブを囲んでの鍋パーティーといこうじゃないか。


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    食材はやってくるもの 本日のグリムは張り切っていた。グリムはオンボロ寮のキッチンの主である。オンボロ寮において、キッチンはグリムの縄張りである。子分といえどもグリムの許可なしに好き勝手できない聖域である。
     グリムは監督生の親分である。親分たるもの、子分を飢えさせるとは言語道断。そしてどうせなら美味いものが食いたい。監督生はツイステッドワンダーランドに来る前までただの男子中学生であった。特技が料理なんてことはなく、本当にごく普通のちょっとドライでやんちゃで一途な男の子だったのだ。つまり料理なんてもんは中学校の家庭科レベル。それもクラスの女子生徒のお手伝いレベル。監督生は率先して洗い物係をしていた。三年間ずっとである。つまり、お察しくださいというわけだ。というわけで、グリムは早々にキッチンの主へと名乗り出た。監督生にやらせるくらいなら自分がした方が美味いものが食べれるので。あと、子分が美味しいと笑う顔は悪くなかったので。
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