家に帰ったらhgwrの印鑑をプレゼントされた件について今日は彼とお付き合いを始めて5回目になる記念日だ。街でぶらぶら歩いていたところにナンパされて、暇だからと了承したのが出会いだった気がする。
今日を迎えるまでには、彼が防護服を着用せず現場に向かい危うく殉職しそうになること数回。その内の一回、思わず偶然出会った現場で平手打ちをしたことで署内で一躍有名人となってしまい、時の人となることもあった。誰だ私を「最強彼女」と呼び始めた刑事は。
刑事への愚痴を言葉にはせずごちながら、自動ドアの前に立つ。ここのケーキは甘すぎないので彼も私も気に入っている。お祝いといえばケーキだろうという安直な考えから、彼の好きなケーキと私の好きなケーキをひとつずつ。そして期間限定のケーキを2つ。
「ありがとうございましたー」と間延びした緩い挨拶をする店員の声を背に、浮き足立った気分で店を出る。
ケーキを買った旨を彼にメッセージアプリで送ると、すぐに既読の文字がつく。そういえば今日非番だって喜んでいた気がする。
楽しみ
シンプルではあるが、彼がスマホの向こうで小躍りしているのが想像できてしまう。
今、キミの家で待ってる
どこかのホラーなのかと思わずツッコミを入れそうになったが、これは大型犬が大好きな飼い主を待つ現象と一緒。きっと玄関の前でウロウロしているのだろうなと笑う。
***
アパートのカードキーを取り出して、かざすと電子音が鳴り、鍵が開く。ドアノブをそっと下ろすと中からぐっと力がかかり、のけぞった。
「おかえり!」
尻尾が生えているのなら、きっとふわふわの尻尾は左右にぶんぶんと勢いよく揺れていただろう。
「ただいま…相変わらず熱烈なハグだねぇ。」
「今日で付き合って5年だろ、プレゼントにこれどうかなって。」
少し照れくさそうにした彼がスウェットのポケットから取り出したのは印鑑だった。思ってもみなかったプレゼントであろう物に目をぱちぱちと瞬きをして、首を傾げる。
「印鑑?」
「そ!」
「萩原の印鑑?」
「これはキミの!」
もしかして私が知らない内に籍を入れていて、萩原性になっていたのだろうかと考える…。しかし仮にもお巡りさん彼はそんな狡猾なことはしないだろう。頭はいいが。
「私の苗字は萩原ではないのだけれど。」
「来年のバレンタインデーに萩原になってください!」
印鑑を触っていた右手とは別にずっと後手にしていた違和感のあった左手を私の方へ出す。そこには赤い薔薇の花束があった。
「そっちを先に渡そうか。」
「うん。」
「キミがさ、宅配便来た時に『萩原です!』て言いながら印鑑押すのがすごく良かったんだ。奥さんみたいで。」