かくれんぼ 正義の味方に憧れた。
そうなりたいと思ったのは、手を引く小さな背中がとても大きく見えたから。
今日はとても大切な日になるから、いつも以上に気合を入れて服を選んだ。髪色に白のスーツがとても似合う。
君の好きなとこ。僕と揃いの髪の色。
初めての給料で買った靴は大切に磨き上げた。履き心地は変わらず良くて、足取りは弾むように軽い。影を踏みしめては笑ってる。まるで子どもに戻ったみたいだと歌い出す。
君の好きなとこ。僕より大きい手。
あの日の君は背が低くて華奢だった。それこそ、僕よりも。
でも、誰よりも格好良かった。だから憧れた。熱烈に惹かれていた。
君の好きなとこ。真っ直ぐに僕を見つめる綺麗な目。
入ってはいけないよ、と大人たちは言う。あの森の奥には行ってはいけないよ。まるでそれが貴方の為だとばかりに。
君の好きなとこ。ちゃんと目を見て話すところ。
森の奥には鬼がいる。小屋に入ってはいけないよ。鬼に食べられてしまうからね。
馬鹿馬鹿しい迷信をまだ信じている村の人は嫌い。大嫌い。だから、この村に来たくはなかった。嘘。早く来たかった。一日でも一秒でも早く。僕はここに来たかった。
君の好きなとこ。照れると俯く。そして、ほんのり耳が赤くなる。
閉鎖的な村。御伽話のような生贄信仰。現代との乖離。古臭い悪習が蔓延っている。この村に生まれてしまえば最後、囚われる。
孤児である僕は丁度良かった。選ばれたのは僕だった。僕が選ばれたはずだった。
君の好きなとこ。笑うと八重歯が見えるとこ。
砂利を踏みしめる。小枝が靴底で折れた音がする。森の中を躊躇いなく彷徨う。知ってるよ。この道を知っている。だって、ここにいるのは僕だったのだから。
君の好きなとこ。実は子どもっぽくて負けず嫌いなとこ。
村を存続させるために子供を一人選んで生贄にする。鬼子と呼んで森の奥深くに建てられた小屋に閉じ込める。死ぬまで出ることは許されない。鬼子が死ねば次の鬼子へ。その繰り返し。
君の好きなとこ。僕が泣くとどうしたら良いか分からなくなるところ。
見張りの時間は変わってない。笑ってしまうくらい簡単に辿り着いてしまった。本当に、悲しいくらい簡単に。
軋んだ音を立てて、小屋の扉が開く。
あの日より大きくなった君が呆然と僕を見た。
君の嫌いなとこ。僕の代わりに此処にいること。
選ばれてしまった僕。小屋の中に押し込められて泣いていた。
あの日、傷だらけの君は強引に僕の手を引いた。村外れまで駆け出して、笑って言った。
『かくれんぼ。百数えるまで、目を開くなよ』
そこからの記憶は曖昧だ。保護された僕は助けられたことを知った。なら、君は?わからない。わからないけど、今の僕では助けられないことを知った。
だから、力をつけた。君を連れ出せるだけの力を。死に物狂いで身に付けた。
差し伸べた手を呆然と見つめる君に首を傾げ、ああそうかと頷く。
そうして、あの日の君と同じように無理矢理手を握った。
「森くん、みーつけた」
君の手はあの日より大きくて、あの日より華奢になっていた。