思っていたのと違った場合の対処法 高杉晋作という人間は、恋人ができたらベタベタにいちゃつきたいタイプである。構いたいし構ってほしい。二人きりになるとくっついていたい。手を繋ぎたいし抱きつきたい。すぐに別れるカップルみたいなことをしたい。
しかし、ここで問題が一点。高杉が恋をして惚れてしまった相手はまさかの森長可であった。森長可である。バーサーカーらしく戦闘大好き森長可である。恋だの愛だのより血だの首だのの森長可である。
高杉はそれならばと片想いを楽しむことにした。したのだが。この森長可、ちゃんと人の心があったらしい。具体的には愛だの恋だのという情緒があったらしい。
何故ならば。何の奇跡か高杉は森長可と恋人になっているからだ。
まさに青天の霹靂。明日は土砂降りかな。なんて失礼なことを思ってしまうのは許してほしい。そのくらい森長可と恋人というのは対極に位置していると高杉は思っていた。
さて、恋人となったは良いものの。高杉は油断していなかった。なにせ相手はあの森長可である。どれほど高杉が恋しく思っていようと、んなことより首級!と言い出しそうな森長可である。ベタベタにくっついていちゃつくなど夢のまた夢であろう。
だから高杉は抱きつきたくとも堪え、手を握りたくとも堪え、キスしたくとも、もーりーくんっ♡呼んだだけ♡というクソうざいやりとりをしたくとも堪えることを誓った。
だって嫌われたくない。やっと恋人になれたのだ。この立場を逃す気はない。
なので高杉は自分自身にキツく、それはもうキツく言い聞かせた。なんなら脳内シュミレーションという名の妄想を繰り返した。
さあどこからでもかかってこい森長可!僕は決して面倒な恋人ではないぞ!君に相応しい大人の恋人だぞ!とまあ、こういうことである。
そんな気合十分な高杉である。日々ふとしたことでキュンキュンしては毎晩枕を叩いてキャーキャー言っている高杉である。しかし。
ちょっとこれは聞いてない。聞いてないぞ森長可。
「あの……森くん、この体勢キツくないかい?」
「いやあ?」
「あの……あの……でも、その、離れ……」
「嫌か?」
「えっと……えっと……」
カルデア内に与えられた高杉の自室にて。高杉は森長可の膝に乗っていた。膝である。森長可の膝。しかもこれ、乗っているより抱き抱えられている。後ろから抱きしめられている。高杉は後ろから抱きしめられながら雑誌を読んでいる。雑誌の文字なんて頭に入らない。入るわけがない。
森長可という男は付き合う前と付き合う後で変わりないと思っていた。でも違った。何が違うって、これ、この、ねえ。
「次、捲んねえの」
「あ………うん」
「晋作」
「ち、近いから……」
「付き合ってんだから良いだろ」
この調子なのである。森長可という男はベッタベタに甘えてくるしくっついてくる。普段そんな素振り見せないのに、二人きりになるとこうなる。高杉は驚愕した。嘘だろ君、そんなタイプなのか?しかしこれが現実である。
「んっ……ちょっと、あの」
「んー?」
「あの、その、擽ったい……」
「んー」
なにこれ。首筋にぐりぐりされてる。森長可めっちゃ甘えるじゃん。どうしよう。可愛い。撫でたい。抱きつきたい。しかしである。高杉は何度もシュミレーションしてきたのだ。それは現実として効力を発揮し、平然と大人の対応ができるほどになっていた。つまり、この状況で高杉は自分の心のままに振る舞う前にストップが入るのだ。花も恥じらう乙女のような態度を繰り返しているのはそのせいである。本音を言えば抱きつきたいのだ。でもできないのだ。大人の対応どこいった。どっかいった。
「雑誌、もういいのかよ」
「え?えっと…」
「さっきから進んでねえだろ」
「あ、あー、その……」
「……もういいなら、俺に構えよ。晋作」
これは誰だ。森長可だ。僕の恋人である森長可だ。霊基異常?いいや、これが正常だ。やだもう僕どうしたらいいの。こんなにベタ甘なんて聞いてない。こんなに甘えたがりだなんて聞いてない。聞いてないぞ。
高杉の想定としては、ドライな関係なのかなと思っていた。だって森長可だ。何度でも言う。あの森長可なんだ。それが、それがまさかの。
「晋作。こっち向け。こっち見ろ。なあ、晋作」
「見る。見るから」
「顔隠すんじゃねえよ。キスできねえだろ」
「………するの?」
「する」
甘い。甘すぎるぞ森長可。僕の想定を超えてくる。面白いなんて言ってる場合じゃない。
可愛らしい音を立てて、顔中に口付けられる。ピシリと固まるしかない。だって、だってこんなの想定してない。こんなの聞いてない。
恐る恐る見た森長可の顔は砂糖を溶かしたんですかってくらい甘やかだった。
どうしよう。どうしたらいい?
頬を真っ赤にした高杉はされるがまま、森長可に抱きしめられていた。