壊れた感情の、行く先に「Fulgur!こっち!!!」
「おー」
ファミレスで席を確保していたAlbanは立ち上がって手を振った。
その姿に気が付いて、自覚があるのかないのか少し顔を綻ばせたFulgurが駆け寄ってくる。
「遅かったじゃん、ふーちゃん」
「あー、Ukiに引き留められてな」
試しにさらっとふーちゃん、と呼んでみたものの意にも介されず、ほっとしたような、どこか残念なような気持ちになる。
「どうせ浮気だとか騒がれたんでしょ?」
ニマニマ笑って言うと、目の前の彼が呆れたように溜め息をついた。
「あぁそのとおりだよ。Albanには気をつけろって。わかったからお前は早く午後練行ってこいって言ってやったら、如何にもしぶしぶって感じで戻っていったな」
その様子がおかしかったのか、Fulgurはくすくす笑った。
「ま、なにはともあれふたりきりだね。初デートだ」
「お前までそんなことを言うのか」
俺がさらっとそう言うと、Fulgurは呆れた表情をしながら、俺が頼んでおいたオレンジジュースを飲んだ。
「うまいなこれ」
「でしょ。実は特別に出してもらったんだ。他のメニュー作るときにオレンジが余るんだよね」
「ほぅ。それはAlbanと来てラッキーだったな」
にこにことそれを飲む目の前の彼。
Albanはここでバイトをしていてよかったなと心から思いながらも、静かに溜め息をついた。
「なんだよ。ありがたいなって言っただけなのに、人の顔見て溜め息なんて」
「んー。なんでもない」
言えるはずがない。
本当は俺もお前が好きなんだ、なんて。
第一俺は、ふたりが付き合う前からFulgurと付き合えるだなんて微塵も思っていなかったのだ。
だからUkiの恋路を応援したし、SonnyとYugoにも協力を仰いだ。
健気なあの頃の自分に泣けてくる。
なぜそんなことをしたかって、一番最初のきっかけはFulgur直々に相談を受けたからだ。Ukiが好きなんだ、と。
それもFulgurが自主的に話したわけではなくて、修学旅行の夜にホテルを抜け出した彼にこっそり着いていった俺が、彼の泣くところを見てしまったから。
必死になって問い詰めた。俺が全て悪かったんだ。ごめんな、今の俺。
「あの、さ」
唐突にFulgurが、気まずそうな、少し照れたような顔になって言った。
「ありがとな」
あぁやっぱりそのことか、と無意識にもうすっかり慣れてしまった貼り付けたような笑みを浮かべた。
「ん?なんのこと?」
「絶対わかってるだろそれ」
睨みつけられて、肩をすくめてみせる。
わかってるよ。お前のことなんて、全部わかってる。
「だから、Ukiとのことだよ。…正直、お前がいなきゃうまくいかなかったと思う、から」
だから、ありがとう、か。
珍しくまごまごと話すFulgurに、本当にUkiのことが好きなんだな、と幾度となく感じた感情を覚えて胸が痛くなる。
本当は、放課後の予定を聞かれたあたりから既に勘の鋭いAlbanはわかっていた。
きっと律儀な彼はお礼をしようと誘ってくれているのだと。
それでも一日くらい、と、そう思いたかったのだ。
「Fulgur。このあとちょっと付き合ってくれる?」
話を遮ってそう言った。
それでも相変わらず優しい彼はきちんと応えてくれる。
「ん?あぁ、もちろんいいが…」
何を、と言いかけたあたりで、彼の唇にそっと人差し指を当てて微笑んでみせた。
その顔に少し戸惑いが浮かんでいるのを見て立ち上がる。
彼の手を引いて、店を出たその瞬間から走り出した。
「あ、おい、会計は」
「もう払った!!!」
風に吹かれながら、デカい声で会話する。
こんなくだらない一瞬だって、Fulgurと居るだけで死ぬほど幸せだった。
Albanは目元に浮かんだ涙に気づかないふりをして、ただ必死に走った。
夕陽が背中を刺すように照って、
繋いだその手だけが、燃えるように熱かった。